68/434
第一楽章 Grande Sonate pathetique Op.68
悠人を見ずに縁側から見える樹々を眺めながら穏やかな声で、
「さっそく海にでも出たのかい、あんたから潮の匂いが漂ってくるよ」
悠人はちょっとはにかみながら、
「昨日の夕方に磯で足を滑らせて頭を打って気を失っていたんです。その時に水に浸かっちゃって」
「おやおや。それはあの子はたいそう驚いただろうに」
驚いていたか? ずっとからかわれてた気がするのだが。
「ああ、京ちゃんですか。そうじゃないでしょうか、きっと」
「ふふふ。あの子のびっくりした顔が見たかったよ」
そう言って老婆はクシャクシャの笑顔を樹々に向ける。




