38/434
第一楽章 Grande Sonate pathetique Op.38
それにしても。いやちょっと待て。
とすると、今この家には俺とこの子の二人きり?
ゴクリと唾を飲み込み、悠人は
「や、やっぱ俺、今から帰るわ」
それが男としての矜持である。一人暮らしの若くて可愛い女子の家に、しかも知り合ったばかりの子の家に、のうのうと泊まる訳にはいかない。
悠人の生真面目さがそれを許す筈がない。
「この服、貸してくれないか。それと俺のスーツ、ビニール袋かなんかに入れてくれないか?」
「ちょ、何言ってんの? バスの時間過ぎてるって言ったじゃん」
「歩いてきたから、歩いて行くよ。終電にはまだ間に合うだろうし」
「歩き? 無理だって。出るって。危ないって!」




