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第一楽章 Grande Sonate pathetique Op.19
目的地は海なのだが、全く海が見えないまま残りあと十分程となる。畑が途切れ徐々に道が急峻になってきて革靴が悲鳴を上げてきている。
頬撫でる空気がひんやりとして少し汗を流している悠人には心地よい。常緑の木々が日を遮り辺りは少し暗くなっている。
胸一杯に緑を吸い込みながら、それでも鼻は潮の香りを求め、足は前に進む。下り坂は益々厳しくなってきて、日頃運動不足の悠人の膝も悲鳴を上げ始める。
悠人は道端でしゃがみ込み膝をさする。不意に鼻が潮の香りを捉える。顔を上げ、立ち上がり足を進める、と。
目の前に小さな港が開けている。
秋空と競うような青い水が眼前に広がり、膝の痛みも忘れ悠人は小走りで前に進む。潮の匂いがキツくなってくる。県道を横断し、その小さな港に入る。恵比須漁港と言うらしい。
海をこんなに近くで眺めるなんていつ以来だろう。眼前の青い海と潮の匂いで悠人は就活で深く傷付いたことを暫し忘却した。




