30話 神楽耶
◇◆◇◆◇◆
《 副局長室 》
ーー 一真が部屋から出た直後 ーー
バキッ!!
「まったく、なんて態度!」
小日向が手に持ったクリップボードが割れる。怒り心頭で語気もかなり強い。
咲宮耶だけでなく、部屋にいる全員が小日向を驚いた顔で見る。
「端末で何度呼んでも返事がないので部屋に行くと、ソファに寝そべって漫画を読んでいたんです!」
「それで、一真だけ正座させたのね」
咲宮耶が微笑む
「正座程度で許されません!!」
「まぁ、そう怒らないでやって。彼は小さい時からあーだったわ。でも、そんな自由奔放な性格だからこそ姉さんに対しても分け隔てなく、みんなと同じ様に接することができたのかも」
「ただ、バカなだけです!」
「そうとも言えるわね」
咲宮耶がため息をつきながら続きを話す。
「姉さんはね、小さい頃から普通では無かったの。何か別のものを見ていたというか、神がかっているというか、そのせいで全く誰ともなじめなかった、私も家族だから話はしたけど、実は少し苦手だったの。みんなからも特殊な存在のように扱われていたわ。でもね、そんな一切笑うことのなく、身内ともあまり関わろうとしなかった姉さんが唯一笑った相手。その彼のお陰で私は姉さんとも楽しく話せるようになれたの。あの時はとても楽しかったのを覚えているわ」
「神楽耶さま・・ですか」
「ええ」
聞き耳を立てていた部屋の中に居る全員を自分の前に手招きする。
「そうね・・・。今後も関わることになるから知っておいた方がいいわ。みんな集まって」
この部屋に居る全員が今自分がしていることを一旦中断して咲宮耶の前に集まる。
「今から・・昔話を少しします」
部屋は一瞬で静寂になり、皆固唾を飲んで咲宮耶を見る。
「神楽耶は私の双子の姉で一真とは幼馴染だったの。一真の両親は家を空ける事が多く、私たちの家で預かることが多かった。一真は私達より年下で、あの頃からぐうたらでいい加減な奴。私は姉になった気分でよく彼の行動を叱ったわ。姉さんは生まれた時から体が弱く、家から出ることも殆どなかった、そんな姉さんの話し相手を一真が適当な変な話をして姉さんをよく笑わせていたわ。一真を叱る私を姉さんは良くなだめた、するとまた一真が調子に乗って。私はそんな生活がとても暖かく凄く居心地がよかったの」
咲宮耶が深く息を一度してお茶を一口含む
「みんなも知っての通り、私達の両親は共にヤタガラスの一員で重責を担う立場だった。特に一真の父はマナの研究者で、マナ因子保持者の増加を推進していた奥の院からもかなり期待されていた。奥の院の後援を受けた研究所ではヤタガラスの家系でありながらマナ因子検査の時に持たない子供を中心に『救済』と『協力』を押し付けて親から差し出させ集めた。そして、私達姉妹のマナ因子検査の時が来た。もちろん、鈴木の一員として私たちも当然期待されていた。結果、私のマナ因子は非常に高く。みな喜んだわ。しかし、姉さんにはマナ因子がまったく見つからなかった。姉さんの事を私の出涸らしだと揶揄するものもいたそうよ」
バキッ!
クリップボードがさらに割れる音が聞こえる。と同時に『酷い』と呟く声も聞こえる。
「鈴木家の立場だからこそ、因子を持たない姉さんを研究所へ預ける事になった。その事で鈴木家は本家と分家含めてかなり揉めに揉めたわ。最終的に奥の院の圧力もあり渋々期限付きで差し出すことになった。出発の日に学園から帰宅していた兄さんが大暴れしたのを覚えているわ。そして、姉さんはその日から笑わなくかった。面会に行っても口を開くことはほんんどなくなり、無表情で感情を一切表に出さなくなった。そして、家族も残された私も笑顔が少なくなった。ある日、姉さんには特別な因子を持っていることが分かった。その因子は周りの持たない者に眠れる因子を発現させるものだった。みんな、歓喜したそうよ。もちろん奥の院も。しかし、中々うまくはいかなかった。彼女と同じ一定距離の空間に居る時のみ発現して、離れてしまうと何も無かったかの様に消えてしまう。さらに、発現したとしても因子は微量で、疑似神器や羽織を扱えるほどのものではなかったの。研究者たち、特に一真の父親が焦るのも当然な話し。でも、彼らは諦めず、細かいデータ収集の結果の、彼女と近しい者が特に影響を受けることが判明した。そして、奇しくも一真も因子を持たない事が検査で分かり。自分の一人息子も同じように研究所へ連れてきた」
「えっ?マナが無かったのですか?」
「ええ、その時は」
咲宮耶一瞬目を瞑り先を続ける
「話を続けるわね。この頃一真の両親は考えの違いで離婚したの。そして、母親が親権を勝ち取り一真を連れて実家へ戻った。元々父親は一真の養育に興味は無かったから。それに祖父はあの武神ですからね。ところが、自分の息子が因子を持たず、しかも神楽耶と幼馴染で仲が良かった事を知った父親は彼を誘拐同然で連れ去った。もちろん母親と祖父は猛反発。ところが、そこに待ったをかけたのが奥の院の一部の長老。ヤタガラスの未来の為に堪えろ、と釘を差してきたの。でも、彼が来た事を姉さんは大いに喜んだのよ。そして、私は厳しい訓練の合間、姉さんに会いに行くのだけど、彼と接してとても楽しそうにしている姿にガラス越しから羨ましいと思った」
(私もあの中にどれだけ交じりたいと思ったことか・・。以前の楽しかった時に戻りたいと思ったことか)
「きっと、一真が居なければ姉さんは壊れていたと思うの。そして、ある条件下で数人の子供からほぼ永続的に因子を発現する子が現れたの。でも、その数人以降発現する子は現れなかった。もちろん一真も発現しなかった。その条件下と言うのが子供たちをわざと瘴気に浸食させて生存本能をも利用することだったの。さらに、数々の薬も服用させられた。研究成果が思うように進まない科学者たちの非人道的な研究はどんどんエスケレートしていった」
(その頃から、面会をさせてもらえなくなった。父と母もよく言い合いをしていたし、私は子供ながらに、寂しい気持ちと共に恐ろしかった)
「そこへ、一真の祖父である龍蔵さんを中心にした研究反対派が数々の非人道的研究の証拠を奥の院に叩きつけ、中止することが決まった。なかなか子供たちを解放しない研究者たちや奥の院に業を煮やし反対派が力ずくで子供たちを救助するまでに発展する。そして、あの事件がおきてしまった。神楽耶アウトバースト・・・」
ビーーーッ!ビーーーッ!
突然、机の上に備えてある端末から呼び出し音が鳴る。
話を真剣に聞いていた小日向が一瞬我に返り、咲宮耶の代わりに聞く。
「はい!副局長室。はい・・はい・・はい・・。わかりましたお伝えします。三条様からです。姫さま、『彼女が目覚めたので直ぐに来い!』との事です」
「わかりました。話の続きはまたの機会に。みんな、さぁ仕事に戻って。特戦隊のサポートはしっかりとお願いね。そして、逐次報告を。私は三条の所へ行きます」
咲宮耶は事後をみんなに任せて、小日向を伴って部屋をでる。出る間際、咲宮耶が小日向に一言いう。
「あ!そうそう。いくつあっても足りそうにないから簡単に壊れないクリップボードに変えてね」
「わ、わかりました・・・」
小日向は顔を赤らめて一瞬部屋に戻る。すぐに戻ってきた小日向にみんな視線が刺さる。小日向は粉々になったクリップボードをゴミ箱へに捨て改めて部屋をでる。部屋からはクスクスと笑い声が聞こえてくる。
◇◆◇◆◇◆
《 国際医療センター 》
咲宮耶と小日向がセンターへ到着すると、正面ではなく職員専用のラボヘ直接上がれる入り口に着く。ラボに入ると入り口で咲宮耶到着の知らせを受けた三条が待ち構えていた。ラボの一番奥へ案内される、そこは病室と言うより隔離室に近い。職員に世話をしてもらっている彼女をマジックミラー越しに見ながら三条から目覚めた時の説明を受ける。
「彼女、目覚めた時に私たちの事を神か仏かと勘違いしていたよ。ここはあの世なのかと。声もたどたどしく、呂律もしっかりしていない。まず、自分が何者なのかも解らず、自分に何が起きたのかもわかっていない。これはあくまでも想像だが時間跳躍の影響が精神に影響を及ぼしているのだと思う。脳波や内臓に骨格、肉体的な異常はみられず至って健康だ。ただ、時折おおきな叫び声を上げたり、怯える仕草も見せる。肉体と精神が乖離している症状に近いが、医師の見立てでは、少しずつ改善していくと思う」
ガラス越しの彼女が何かに気付いたのか、こちらをじっと見る。
「こっちが見えているのか?」
「ある意味そうかもしれないわね。彼女と話せるかしら?」
「会話は5分ほどの短い時間なら可能だ。それに、咲耶宮なら何か変化があるかもしれないしな」
咲宮耶は白衣に着替え三条と二人で隔離室に入る。隔離室に入ると、彼女は咲宮耶をずっと見つめている。咲宮耶は彼女の前に座る。
「はじめまして。私の名前は、鈴木咲宮耶です。あなたのお名前を聞かせて下さい」
咲宮耶は一ノ瀬ではなく旧姓の鈴木を使って挨拶をする。すると、突然、彼女は頭を抱えて苦しみだす。
みんな、騒然となり、三条はインカムで痛み止めを持ってくるように、そとに居る職員に指示を出す。
彼女はすぐに気を取り直し、改めて咲宮耶をジッと見つめると口を開く。
「わ、わたしの名前は・・・秀。鈴木秀」
・・・『義侠の女傑』




