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八咫の鴉  作者: 蓬莱さん
26/35

26話 スコア



◇◆◇◆◇◆



そのころ副室長室では、咲宮耶が小日向から第17調査隊の報告を受けていた。


「ヘリを狙撃した犯人を必ず見つけ出して。何か違う思惑が動いているような予感もするわ」


「救援に向かわせたのが、ただの処理班でよかったのですか?」


「ええ。大丈夫。この程度なら一真は難なくクリアするわ」


「本当に随分と買っていらっしゃるのですね」


「ええ。あの鈴姫を目覚めさせた一真ならね。そして・・・」


「神楽耶さま・・ですか?」


「ええ。でも、まだあるわ・・。きっと彼なら時の歯車を回す・・」


「???」


小日向は自分の知りえないキーワードが出てきたことに疑問を覚えるが。


「奥の院に知られて手を打たれる前に歯車が噛み合うのようにすることが大事なの」


「御意」


小日向はあまり気にかけることを止め。他の秘書たちに指示を出していく。


「二次処理班の準備を!」



◇◆◇◆◇◆



《 洞窟前 》


俺は雄たけびを上げていた。


後悔する余裕もなく、全身全霊のマナが疑似神器に一気に吸い込まれていく。大量にマナを吸収した神器が燦然と輝き辺りを光で照らす、すると今度は神器から俺の体へマナが逆流する。そして、マナが俺の体と神器を激しく循環する。まるで神器がおれの体の一部のように一体化する。

なんてこった。ちょっと煽っただけなのに。


体全身がゆらゆらと宙に浮いている感覚がする。目の前にいる魍魎鬼を一体だけ斬る。その動きは、まるで某サイボーグアニメの様に、加速と斬撃がほぼ同時に行われ一瞬で塵にする。そして、襲ってくる魍魎鬼の動きがスローモーションに見える。

これなら・・いける!


俺は、脳より送られる指示より早く思おうがままに体を動かす。迫りくる無数の魍魎鬼の中へと突っ込んでいく。

さらに、魍魎鬼を目で追うのではなく、全ての魍魎鬼を一つの線で結んでいき、その軌跡を辿る様に魍魎鬼を近づく前から神器の双刃が襲う。魍魎鬼は次から次へと草を刈るよう撫で斬りにされていく。

その動きはまさしく電光石火。少し後ろで見ていた玲は目を見開き口を開けたまま固まっている。



車両では、弥生と柚子が美甘を見て『こんなに怒るの初めて見たよ』と思ったのも束の間。

一真の雄たけびにインカムを思わず外していた。


「な、何が起きてるんだい!?」


弥生と柚子が慌ててインカムを付け直し、映像を見る。

そこには、一真がかろうじて動き回っているのが解るくらいで、その動きをドローンからの映像では追いきれなくなっていた。


洞窟の中の光源は神器の持つ輝きと、玲の張る結界の輝きしかないが、玲の結界が黒い靄も一瞬でけしていく。そのおかげで見えていた映像もドンドン黒い靄が埋め尽くし完全に真っ黒な状態になる。


弥生と柚子は瘴気レーダーを見る。無数の青い光点が物凄い勢いで消えていくのがレーダーの情報でわかる。そのレーダーの横のカウンターがあっという間に三桁を越える。それと逆に瘴気濃度の数値が勢いよく下がっていて、先ほどまで数百と感知されていた魍魎鬼が増える量より減る量が一気に逆転する。映像を覆っていた黒い靄も少し薄れて洞窟の状況が解るようになる。そこには体から湯気を出しながら動き続けている一真がハッキリと解る。


「瘴気濃度がドンドン減っていきます」

柚子が数値をなぞりながら言う。


「撃破スコアもとんでもない事になってるよ。あっという間に100を超えてる!わたしはこんなスコアは見た事ないよ!」

(異常すぎる。一部のSランクの鴉ならこれだけのスコアを叩き出せると思おうけど。そこらのAクラスじゃあ絶対に無理だね。これでCランクなんてあり得ないだろ。一真・・・あんた一体何者だい?絶対ただの覚醒者じゃないね。こいつは後でみっちり聞かないと)


そんな食い入るように見ている二人の隙間からチョコンと顔を出してレーダーとモニターを覗いている美甘。彼女の口元には2本目の飴があった。

美甘は別のモニターに写る神器のデータを見ると口に咥えた飴を落としそうになる。

(このマナ上昇数値・・・雪椿解放の時に近い?・・かも・・。二人は気づいてない??このデータ残さないと・・・)


モニターを食い入るように見ていた柚子は一真の神器から小さく火花が散るのを見逃さなかった。

「こんなの異常すぎます。・・あっ!火花が!!このままだと神器が持たないかも。・・一真さん!一真さん!!このままだと神器が壊れるかもしれないです!」


柚子がインカムで叫ぶ!


一真は勢いに任せて奥へ奥へと進んでいる。悲鳴を上げているのは神器だけでなく、先ほどまで問題なく瘴気を防いでいた灰羽織も大量の瘴気に触れたことで少し黒く滲み始めていた。玲はそんな一真の後姿を必死についていっていた。


「解った!気をつける!」


そう言いつつも一真は速度を落とさず魍魎鬼を殲滅しながらさらに奥へと進む。奥へ行くにつれて魍魎鬼の数は減っていく。殆どの魍魎鬼を殲滅し終えた先に大きな空洞があった。空洞の大きさは小さな2階建てのハイツが入る程度のものだったが、その床一面には瘴気に侵された植物が群生していた。


「これは・・ネスト?」

一真のインカムからドローンの映像を見ていた弥生の声が聞こえる。ドローンが周囲のライトを照らしながら二人の先を奥に行く。

時折、植物の陰から襲ってくる魍魎鬼を一真は斬り捨てる。二人はドーローンの後を足元の植物に注意しながら進む。

ドローンが一番奥を照らす。そこには大きな瘴気に浸食された巨大な樹が見える。樹の上部は地面を突き抜けてその隙間は小型の魍魎鬼が出入りできるほどだ。その根本付近がぼんやりと輝いている。ぼんやりとしていた輝きは消えかけの照明の様にゆっくりと明滅を繰り返していて、それは光が樹の根に吸収され続けているように見える。俺はその輝く正体を凝視した。


「ん?人?」


光りの正体は女の子だった。何故光ってるのか分からないが樹の根に絡まれながら横たわっていた。慌てて玲が駆け寄る。俺も玲と共に近づき、樹の根を力任せで剝ぎ取っていく。女の子はかなり疲労しているのか、かなり痩せこけている。が、辛うじて息はしていて、脈もなんとか確認できた。


「攫われた女の子の名前を聞いてほしい」

俺は車両に声をかける。柚子が親御さんの居るシェルルームにノックをして入る。

事情を説明し名前を聞く。母親が柚子の服を掴み安否を必死に聞いている。それを柚子は制して言う


「その子の名前は美鈴ちゃんです」

玲はそれを確認すると女の子を抱えて名前を何度も呼ぶ

すると・・


「お・・おかあさん・・・」

目は瞑っているが細い声がなんとか聞こえる


「要救助者!意識確認!」

俺がインカムで叫ぶと、車両から歓喜の声が聞こえてくる。が、この後が問題だ。ここから、この子を抱えて退避しないといけない。しかも、周辺の樹の根が瘴気を噴出しながら生き物の様に蠢き出した。このまま放置していけば直ぐに魍魎鬼が生まれて追いつかれる可能性がある。正直俺の体は先ほどのブーストで悲鳴を上げている。あとどれだけ戦闘をこなせる解らない。神器もヒビが入り限界だ。俺は玲の顔を見る。


「玲。この空洞の広域浄化できるか?」


玲は俺の目線を外し一瞬考え込むが決意を込めた顔で俺を見返す。


「やれます!やってみせます!!」


「解った!頼む」

俺は玲の代わりに女の子を抱える。


「弥生さん。玲の広域浄化の後ここを脱出する。ドローンでそこまでの道案内を頼む。あと、誰かにと途中まで迎えに来てもらえると助かるんだけど・・神器がもう結構ヤバイかんじでさぁ」


「一真、ひょっとして・・」


「頼んます・・」


「わかった!」


俺達は空間の入り口まで急ぎ足で行く。途中数体の小型魍魎鬼がやはり襲ってきたが、俺の持つ神器に無理を言わせて排除する。

入り口まで行くと玲は自分の持つ錫杖型神器を両手で持ちながら縦に胸の前に突き出す祝詞を奏上する。


「掛けまくも畏き 伊邪那岐大神 筑紫の日向の 橘の小戸の阿波義岐原に 禊祓へ給いし時に 生り坐せる 祓戸の大神等 諸々の禍事 罪穢有らおむをば 祓え給ひ 清め給へと 白すことの由を 聞こし召せと 恐み恐みも白す」


すると、玲の体から白い炎の様にマナがあふれ出す。そして、勢いよく錫杖型神器を地面に突き刺すと白い炎のマナが神器に吸い込まれていき光り輝く。


「広域浄化!」


神器を纏っていた光が弾け、辺り一面に無数の粒となって飛び散る。瘴気に侵された植物が次から次へと霧散していく。が、一番奥の樹の根だけは完全に浄化はできず、弱っているように見えるが、黒くくすんだ幹や枝が瘴気を出しながら動いている。


「す、すみません・・」


玲は力を使い果たしたのか息も絶え絶えになっていた。


「いや。十分だ!逃げるぞ!」

俺は焼夷弾を樹に向かって投げた。

これは、焼夷弾の中でも最も火力が低く、発煙筒より少し火力があるくらいの代物だが、何もしないよりマシだ。


「は、はいっ!」

俺は女の子を抱え。玲は神器を地面から抜き差し。何故か動きの悪いドローンに誘導されて入口へと掛けていく。途中フラッシュグレネードを光源替わりと魍魎鬼が寄ってこないようにする為に一つ投げた。入口に到達すると外には、先ほどより数は少ないが魍魎鬼が待ち構えていた。俺は残り一つのフラッシュグレネードを投げて道を作る。

ドローンが向かう先には僅かながら光が見えた。だが、まだ遠い。後ろからはグレネードに怯まなかった中型2体と小型の魍魎鬼が数体追いかけてくるのが解った。さすがに、もう戦う力は俺達には残っていなかった。ただ、ひたすら残された体力で走るしかなかった。

すると、前方ので一瞬大きな光が見えた。その光は轟音とともに後ろから追いかけていた中型の魍魎鬼を貫き霧散させた。少し間を置き2回目の光が見えた、やはり中型の魍魎鬼を貫き霧散させた。その光の衝撃は側を走っていた小型の魍魎鬼を巻き込み霧散させた。


「た、助かった・・」

俺達は無事車両にたどり着くことができた。そこで待っていたのは、長銃型神器を肩に抱えていた弥生と、その隣で『えへへ』と笑いながら工具を手にした柚子が立っていた。そして、その後ろでドローンの操縦器を握っていた美甘がシートに上半身を預けて突っ伏していた。


「「 おかえり 」」


弥生と柚子が出迎えてくれた。


「「 ただいま 」」

俺と玲は笑顔で返事をした。


女の子を柚子に預ける。女の子を抱えると簡易浄化布でくるみメディカルキットを使って女の子に処置を施す。玲は親御さんの元へ娘さんの無事を伝えに行く。それを見送ると、側に来た弥生さんに先ほどの状況を聞いた。


俺たちが最後に通信した後、ドローンの操縦を無理やり美甘に任せて弥生と柚子が長銃型神器のパーツをチャージ型からカートリッジ式に急ピッチで換装した。急いで換装しただけだったのでスコープまで付ける余裕がなく、暗視ゴーグルを使った柚子が俺たちを見つけその位置を聞きながら予測射撃をしたらしい。

一つ間違えたら誰かに当たっていたってことだよな。俺は身震いがした。

弥生は『はははは』と、やっぱり俺の肩をバンバンたたきながら耳元で囁いた。


「帰ったら色々聞かせてもらうよ」

ですよねー・・・・


しかし、あきらかにおかしい。あの子は瘴気に浸食されていなかった。あの瘴気の大木はあの子のマナを吸収していたんだ。痩せこけていたのもマナを吸収されていたからかも。逆に吸い取った瘴気の大木はマナを吸い取り活性化していた。そして、次から次へと魍魎鬼を生み出した。もしそうなら俺達は餌じゃないか。

俺は弥生さんや他のみんなにこんな状況はあるのか聞いてみた。返事は『そんなことは聞いたことも見たことも無い』とのことだった。

これは、要報告だな。しかし・・、んー、考えても仕方がない。難しことは賢い人達に任せるのが一番だな。




そして、遠くの上空からヘリのローター音がきこえてきて無線から声が聞こえる。


「こちら救援隊!こちら救援隊!シグナルと現在位置を確認。そちらの状況を伝えたし」


弥生が無線応答をする為に車両へと戻る。無線の応答を見ていた他の面々は安堵の表情に変わる。美甘は柚子にドローンの操縦桿を柚子に渡し、ぶつぶつ言いながら途中だったデータの収集を再開していた。神器のデータが写るモニターには撃破スコアが赤く点滅していた。


ほっとした俺は、脱力した体で後ろを振り向きさっき居た洞窟の方を見た。そこには盛大に燃え上がっている巨大な樹木があった。


俺は最後に焼夷弾を撃ったことを思い出し先ほどまで全身に流れていた汗が一瞬で引くのを感じた。



そして、神器のデータが写るモニターには撃破スコアが赤く点滅していた。

さらに、隣のレーダーに魍魎鬼の反応が現れすぐに消えた。



その一瞬の出来事に誰も気づくことは無かった。





・・・次回『新設・特戦隊』

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