25話 ウィザード
俺と玲は急勾配を勢い良くかけていく。途中いくつか、魍魎鬼と出くわすが、全て無視して急ぐ。
そして、あっという間に洞窟の前へたどり着く。瘴気濃度は濃かったが新型の簡易羽織はなかなか優秀で学園で使用したものより、数段強度が高い。これなら、マナで強化すれば、それなりの時間活動可能だろう。
俺達は慌てて洞窟には入らずマスクとゴーグルを装着し、羽織にマナを薄く通し簡易神器の状態も確認して準備をする。さらにカバンの中に予備のフラッシュグレネードと小型焼夷弾、保護用の簡易ブランケットを確認した。
そして、突入の前に車両へ連絡をした。
◇◆◇◆◇◆
《 第17車両停車付近 》
一真と玲が洞窟へ向けて駆け下りている頃、車両付近では柚子が3人を迎えに出ていた。柚子が三人と合流しようとした時、3人の後方から魍魎鬼が数体襲撃してきた。
柚子は自分の両脇に掛けている、それぞれのホルスターから短銃型簡易神器を抜いた。ツインブラスターを目の前で構え、襲ってきた魍魎鬼に的確に打ち抜いていく。魍魎鬼は核を打ち抜かれ霧散していく。
銃を向けられた3人が後ろを振り向き驚いた顔をしていたが、足を止めることなく柚子へ向かって走る。
「わたしだって。やれるんですからね!」
「柚子のそれ、久しぶりに見たねぇ」
独り言で自慢する柚子のインカムから弥生の声が聞こえ、それに答えるように『えへん!!』と言う声が鼻息とともに漏れた。
その後、弥生はすぐに美甘の方を見ると、美甘が『ブンブン!』と顔を横にふり、『私はしません!』と言いたげな顔をする。彼女は完全な非戦闘員らしい。
そして、三人は無事到着をすると、弥生はドローンを回収して。美甘が周囲に簡易結界を張る。
これで一安心。あとは救助ヘリが到着するのを待つだけと思っていると本部から連絡が入った。ヘリが途中で何者かの狙撃を受けて緊急不時着をして。新たに上位ランクと共にヘリを向かわせるが、こちらへの到着が約20分後になりそうだと言う。後は現地の判断に任せるとのことだった。結局、後は任せるから何とかしてみて。って事らしい。
ランクオーバーで有る事も伝えているのに、この状況で30分は厳しすぎる。仕方ない、二人が帰ってくるまで、防衛陣地を構築して待つほかない。
弥生は車両に備わっている新型装備の準備も始めた。
そこへ一真から洞窟前に到着したと連絡が入った。
返事をしようとした時、美甘が叫ぶ
「たいへん!!」
◇◆◇◆◇◆
《 洞窟前 》
「どうした?何かあったか?」
一真が返事が遅いので何かあったにかと心配になる。
「す、すまない。大変なのはこっじゃない。そっちだ。そこは魍魎鬼に完全に包囲されてる。多分他の出入り口から出てきたんだろう。さらに洞窟内部にも無数の魍魎鬼の反応が。そこはヤバイ撤退を!」
一真は一瞬考えるが即答する
「いや。今退く方が危険だ。それに今退けばこれだけの魍魎鬼が雪崩をのように下におりるかもしれ・・・」
そう言う間もなく周りは魍魎鬼の吐き出す瘴気が満ち溢れていて完全に囲まれているのが解る。
「玲!くるぞ!!」
俺は玲と共に身構える。魍魎鬼は俺達二人に次から次へと襲い掛かってくる。俺は根を巧みに操り来るものを一つずつ打倒していく。玲も杖を使い自分の周囲に結界を張り近づくものを黒い霧に変えていく。
それが数十秒続いた。これでかなりの数の魍魎鬼をへらせたと思う。すると一瞬襲撃が止み、囲んでいた魍魎鬼が動きを止める。ん?何かを待ってるのか?
一瞬薄くなった瘴気が、また増えていくのが解る。どうみても増援が来るのを待ってる感じか。消耗戦を強いてくる感じだ。こんな事ができるのか?まいったな。関心しながらどうするか思案していると、インカムから弥生が叫ぶ声が聞こえる
「一真!いくらあんたでも。この数はまずい!逃げてくれ!!」
「しかたないな・・。ちょっとやってみるか」
一真が小声で言う。
「いや。このままでいい。柚子さん、前に頼んであったやつ出せる?」
「は、はい!すぐ出せます!」
「弥生さん!そいつを急いでドローン使ってこっちまで持ってきてほしい!」
「えっ?」
弥生の前に柚子が慌てて保管庫から出した疑似神器を渡す。
「これって?」
それは、柚子が一真の注文でチューンナップした特別仕様の二振りの神器
「なるべく早く!」
「わかった!」
弥生は驚きながらも大急ぎでドローンの投下ポッドに入れて最速で飛ばす。
「美甘ちゃん!神器のオペレーションお疲れ。俺たちの疲労を凄く抑えながらコントロールしてくれてたんだよね?ありがとう!でも、そいつはもっとピーキーにして大丈夫だから」
そう一真が言うと。美甘がその日一番驚いた顔をする。
ウィザードの主な仕事は神器のコントロール。もちろん、情報処理や各種装備のコントロールもするのだが、神器のコントロールが一番難しく、使い手の負担をいかに軽減し、神器の性能をスムーズに引き出すことが腕の見せ所となる。その為、一流のウィザードは独自でオペレーティングシステムを制作し、チームや使い手に合わせたカスタマイズをする。そのカスタマイズがチームの顔になる事もあり、状況に応じた特化型のチームもある。
「美甘ちゃんの今の顔!何となく見てみたいねー!はは」
美甘は少しムキになってキーボードをいつもよりも早く叩く。
そんな美甘を見て弥生はは思う
(いつもゲームやマンガばかり読んでる怠け者と思ってたけど、なかなかどうして。こりゃ、マジで本物かもしれないね)
「それから玲。俺のサポートはいいからは、もう少し出力を抑えて自分だけを守って。玲のマナか洞窟の中に侵入した奥で必ず必要になるから今は極力温存して。絶対に娘さんを助けて。親子再開させてあげよう!」
「は、はい!」
「おっ!早速きたきた」
ドローンが高速で飛んでくる。弥生のコントロールは正確で瞬時に二人の上空でホバーリングすると空中からそのままケースを投下する。
俺はケースを受け取ると中から疑似神器を取り出し両の手でそれぞれを持つ。マナを注ぎ一振りすると80㎝程の長さの光の刃を形成し二刀流で構える。
「さぁ!第2ラウンドの始まりだっ!」
洞窟前で増援の到着した魍魎鬼が二人に一斉に襲いかかる。一真は二刀の光る疑似神器を横に縦に全身を使いながら回高速で回転しながら切り裂いていく。
遅い掛かられた瞬間、ドローンのモニターからは一真が漆黒につつまれたように見える。その光景を目の当たりにして柚子が声を出す。
「一真さん!!」
次の瞬間、漆黒に包まれたかのように見えた、その全ての魍魎鬼が黒い靄となり霧散する。それでも魍魎鬼は周囲からさらに次から次へと一真に襲い掛かるが、素早い動きで攻撃を躱しながら、全てを切り裂いていく。
「はやい!!」
弥生と柚子が驚く。
その後も、振り回される二振りの神器に魍魎鬼は次々と霧散していく。
「おいおいおい。殲滅スコアもやばい事になってないか?」
二人はそのまま洞窟の中へ侵入する。ドローンも追従して映像と共に周辺のデータを車両へ送っていく。
車両の別のモニターに写るレーダーに無数の魍魎鬼反応が見える。
「一真!!奥からどんどん来るぞ!」
弥生が叫ぶ。一真は一瞬動きを止め後方に飛び下がる。その動きに玲も慌てて下がる。玲は何度もつまずきそうになりながらも必死で一真についていく。
「美甘ちゃん!まだちょっと重いかな?もうちょっと反応早くならない??」
そう一真が言った瞬間、美甘がキーボードを叩いていた手を止める。
「あったまきた!」
美甘が突然『バン!』と立ち上がり、自分のシートの下に置いてあるカバンからUSBメモリ2本とキーボードを取り出す。2つのハイエンドPCに2本のUSBをそれぞれ突き刺し、さらにもう一つのキーボードをもう片方につなげる。そしてUSBからデータをダウンロードさせる。
またカバンの中に手を入れて、今度は丸い飴玉を取り出し紙包みを剥がすと口に放り込み、ダウンロードしたプログラムを起動させる。
画面に映った文字は【ARISU】だった。
美甘オリジナルの神器オペレーションシステム名前。それを、両手で片方づづそれぞれのキーボードを叩きながら一真用に調整していく。
「美甘ちゃーん!まだっすかぁー?」
美甘の顔がさらに真っ赤になる。
「1っ分!!」
さらにキーボードを叩く速度が上がる。その姿は、まるで【激情のソロ】一流のピアニストがオーケストラで見せる、激しい感情を音で表現するソロ演奏。叩くキーボードの一つ一つがピアノの鍵盤の様で、ボールマウスの操作と共に激しい楽曲を奏でているように見える。それが1分ほど続く。
弥生と柚子は口を半開きにして、ただぽかーんと見ているしかなかった。
一真は間、襲い来る魍魎鬼をリズムに合わせる様に少しづつ後退しながら捌く。
「ガリッ!!」
1分が経つと美甘の口の中で飴が砕かれる音がインカムからもよく聞こえる。一真はその音を聞くと口の端が上がり『ニヤッ』と笑う。
そして美甘が最後にエンターキーを叩き曲を締めくくる。
『パンっ!!』
「【ARISU】起動!!あの世までいっぺんいってこい!!」
一真の持つ神器の持ち手の部分に青色の筋が走り刀身が青色に変化していく。
「うぉ!うぉぉ・・。う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!!」
次の瞬間、一真の雄たけびがインカムから響き渡る。
・・・次回『スコア』




