15話 本能寺・跡
京・本能寺。現在の本能寺院は京都市役所の近くに有り、豊臣秀吉が信長を弔うために新しく立て直したもので、信長が討たれた本能寺は無く。閑静な住宅街の一角にひっそりと石碑が立っているだけである。しかし、京の中心地で近くには二条城や御所が共に存在する。
もし、ここで爆発等がおこれば大惨事である。所謂、ここが皆が知る歴史の転換点で、ヤタガラスとしての大きな転換点のひとつでもある。
◇◆◇◆◇◆
咲宮耶は自分の部隊の主だった面々を連れていく。彼女たちは咲宮耶を除いて、皆黒い羽織を身に着けていた。咲宮耶達は待機していた専用のオスプレイに乗りこむ。
現地では本能寺跡を中心に全住民の避難が済んでいて、その周辺1キロには既に避難勧告が出ており、自衛隊が中心となり警察、消防が総出で囲んでいる。さらに、重力振が感知された内側の中心付近では別の羽織を着た集団が囲んでいる。
咲宮耶が京都に入ると、オスプレイは中心付近にある高校のグラウンドに着陸した。オスプレイから降りたった時、小日向が咲宮耶に白い羽織を背中から纏わせる。その咲宮耶の腰には神器の納められた錦袋が下げられており、中からは微かに鈴の籠った音が聞こえる。既に到着していた三条も黒い羽織を身に纏い、手には藤霞が納められた錦袋を持っている。二人の錦袋は共に純白であるが、咲宮耶の錦袋には金の刺繍が家紋と共に縫われており、三条の錦袋には紫の刺繍が藤の花と共に縫われている。そして、三条は同じく黒羽織を着た一団と共に咲宮耶を出迎えた。
「状況は?」
咲宮耶が三条と共に歩きながら現況を聞く
「私もさっき到着したばかりで、まだ完全に把握しているわけではないが、地場の揺らぎは安定していないようだ。まだ中心にもいっていないし、こんな経験は初めてだからな、正直なんとも言えん」
「みんなそうよ」
「その通りだな。しかし、これで咲宮耶の報告書通りになってきたな。で、御前様はなんと?」
「いつもと同じ『良きにはからえ』よ。あの方は多くを語らないわ」
誰も直に会った事はない奥の院最奥の間から、常に言葉だけを伝える謎の人物。食事係ですら見たこともない。過去に会おうとしたものは多々居たが、誰も中に入る事が出来なかった。しかしてその言葉は全てを見通し知識を我らに与える。
「長い時を生きてきた。ヴァンパイアとかかもな」
「そんな笑い事じゃないわ」
(たしかに、私だって会ったことはないく直通の電話で会話をするのみ。電話機にしても配線などは無く、どうやっ言葉が届くにのかもわかっていない。声色からすれば女性でとても綺麗な声の持ち主。でも何故か安心感がある。最も謎の人物。でも、今はそれどころじゃあない)
「それより白羽織が来ているわね」
「土御門だ。奥の院から出てくるとは。ま、目と鼻の先だから当然と言えば当然だが」
「それだけ、この事態を重く見ているのよ」
「しかし、これは間違いなくとんでもないことになるな」
「ええ。これも動き出した歯車の一つ。状況はさらに大きな変化をとげていくわ」
既に用意されていた車両に二人と一団は数台に分かれて乗り込む。
車両が中心付近に近づくと、それは目の前に飛び込んでくる。中心から青や赤や緑の複数の色がオーロラの用に小さく揺らぎながら光輝いている。その美しさに目を奪われていると、黒羽織の集団と合流する。人数は十数人程で、八人ほどは、重力振の揺らぎの原因らしき空間に結界を張り、手前では機器類を多数置いた簡易のテントが設営されている。その中に入ると、一人だけ白い羽織を纏う男が立ちながら鷹揚に腕を組み揺らぎの一点を見つめている。咲宮耶と三条以外は首を垂れる。彼は二人が入ってきても振り向くことはなく一言だけ言う。
「二人とも遅かったな」
男の名は《 土御門 泰昌 》
土御門は代々奥の院を守護する立場の家系でヤタガラスの中でも有数の家柄で権力も実力も高い。その当主は代々最も能力の高い者が選ばれ白羽織と共に継承する。彼は代々の当主の中でも指折りで歴代最強と言われている。そんな彼と咲宮耶と三条は学園の同期でそれなるに見知った顔である。親しい間柄と言うより、それぞれが名家の出身で、お互いを認め合うライバル同士という関係の方が正しい。三条曰く、とても取っ付きにくく、無口で曲がったことが嫌い、一度噴火すると周りは大惨事、いつもは静かな活火山のような人らしい。しかし、エリートの血筋ながらとても努力家で人一倍訓練に励んでいたらしい。そして、彼もまた、咲宮耶と三条と同じように錦袋に入った神器が背中に背負われている。長さは2メートルは優に超え、彼の体格からしても見劣りはしない存在を放っている。
「不測の事態に備えよ。と、御前様の指示だ。調査その他諸々の事はお主らに任すとの仰せだ。これが検知されてから既に約3時間。瘴気は全く検知されておらず、空間領域自体はそれほど大きくはないが、軸がとても不安定でいつ破断してもおかしくはない。念の為、領域を結界で囲ってはいるが、奥の院に近すぎる。京の宿命ではあるがこれはあまりにも異常事態だ。どう思う?」
三条がモニターに映る数値をみながら答える
「数値だけ見ると安定しているようにも見えるけど。この状態がまだまだ続くのか。それとも何かを待っているのか。なんとも...」
「結局なにも解らんのか」
「当たり前でしょ。こんなことは全く初めてなんだから」
「ふん。科学も役に立たんな」
「まっ!!」
三条が口答えしようとするが、すぐに諦める
(こいつは、こういう奴だった)
「咲宮耶。お前の報告だと、どちらかが時間跳躍で現出するとあったが、次期にずれがある。どう思う?」
「巻物には断片的な事しか書かれていませんでした。そこから推測するしかありませんでしたが、導きだされたのは御前様です」
「その報告に虚偽はないのか?」
「ありません。もし虚偽なら御前様はそれすら見抜かれます」
(偽りは一切ない。それに、奥の院の長老衆はごまかせても、御前様を誤魔化すことは無理。御前様はきっと何もかもご存じで私たちの行動を見ている)
「ふん。なら良い。我らは己が使命を全うするのみ。かの信長が現出したとしても今の我々ならどうとでもなる。そのための俺達八咫鴉だ」
そう言った直後、彼は右耳に着けていたインカムを手で押さえて聞き入る。一瞬顔色が変わる
「御前様からだ。いよいよ始まるぞ」
そう口にしたとたん。目の前で、先ほどまで小さく揺らいでいた空間が激しく明滅を繰り返し揺らぎも、まるで生き物の様に動き回る。その中心には小さな球体が現れ激しく回転をしている。
「全員!備えろ!!」
土御門が叫ぶ。
その球体は徐々に大きくなっていく。それと共に光が輝きを増していき直視できない程になり、皆腕で光を遮る。それはドンドンと輝きを増し伴い、突然轟音と共に弾けるようにして消える。と同時に辺りを爆風が起こる。幸い後ろによろめく程度の爆風だったが、困惑させるには十分な状況だった。
全ての計器も停止して、目の前の空間も辺りも一瞬で闇包まれる。皆の顔に緊張感がはしり。三人とも神器の錦袋に手をかける。
「明かりを!」
土御門が大声を上げる。
数人がフラッシュライトを付けて、爆風の起きた中心を照らす。
そこには、一人の人間が横たわっていた。
皆が遅る遅る近づいていく中、咲宮耶は迷わず側まで駆け寄り抱き上げる。その手と肩は間違いなく小刻み揺れていた...
抱き上げたそれは、あきらかに女性で着物はボロボロ長い、長い髪は乱れ煤にまみれていた。
咲宮耶は震える声で口にした
「・・・雑賀孫市...お秀さま」
チリリリーン
どこからともなく、小さくとても小さく鈴の音が響く
・・・次回『動き出す時の歯車』
【人物紹介】
● 草薙 一真
本作の主人公。臆病で怠惰だが、いざという時に動くタイプ。神楽耶シンドローム唯一の生存者。
● 一ノ瀬 咲宮耶
内閣特務調査管理局・副局長(白羽織)。旧姓は鈴木。未亡人で美甘の養母。
● 三条 清音
科学局研究室室長。黒羽織。天才マッドサイエンティスト。
● 神原 優弥
黒羽学園の生徒。一真の友人。姉は神原柚子。
● 榊
元Aランク鴉で黒羽織。雪椿の使い手。先のランクオーバーで雪椿を失い重症を負う。
● 土御門 泰昌
奥の院守護の名家の当主。白羽織。
● 小日向
咲宮耶の補佐官。
【第17調査隊】
● 立花 弥生/立花誾千代の子孫
● 神原 柚子/神原神社の長女
● 霧島 玲/名門霧島家の一人娘
● 一ノ瀬 美甘/咲宮耶の養女
--------------------
【物語の重要人物】
● 雑賀 孫市
「雑賀孫市」は代々頭領の称号。本名は鈴木お秀。神器・鈴姫の使い手で八咫鴉。本能寺で信長を追い詰める。
● 織田 信長
戦国の革新者。黄泉の大太刀を使い、日本を魍魎の国にしようとした。物語の“深層”に関わる重要人物。
● 明智 光秀
信長の元重臣。冷静で知略に優れた武将。お秀と共に信長と対峙し、京を守るため魍魎と戦う。




