転校生の初登校
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いよいよ月曜日の朝がやって来た。拓真の転校生として初の登校日である。
家庭の事情とはいえ、梅雨時の6月初めに転校などタイミング的にどうなのかと思いつつ、気恥ずかしいながらも朝のホームルームで自己紹介をした。
「井上拓真です」
少し垢ぬけた拓真を見るクラスメイト達は、物珍しそうに見る目やら、他所者を警戒するような目まで様々な反応を見せていた。
いずれにせよ、興味津々といった様子なので、やはりクラスの一員として打ち解けていくには、それなりに苦労しそうではある。
ざわめく雰囲気の中、愛想笑いを振りまいていれば、ふと窓側の後ろの席に目が止まる。
(あの女の子。どっかで見たような……)
この教室の中でただ一人だけ、俯きかげんにしている少女がいた。
長い髪が邪魔をしていて表情はわからないが、瞳だけはこちらをキツく睨んでいるのだ。
それは氷のように冷たい視線。
そのような表現が適当なのかどうなのか。
何故か一人だけ違う空気を放っていた少女を、一度でも気に留めてしまったがいけなかった。それ以降益々気になってしまい、何度も彼女に目が行ってしまう。
気が付けば余計にぎこちない笑顔になっていた。
転校生の紹介が終わると、担任の教師が今思い付いたかのように一人づつ自己紹介を提案。
すると終始照れくさそうな空気の中で出席番号順に各自アピールタイムが始まった。
趣味や特技、人によっては自慢話を添えて名前を言うが、実のところ拓真は他人の名前と顔を一致させる事があまり得意ではない。
仲良くなった奴から覚えれば別に問題ないし、今までずっと一人に慣れているから今更だよなと、ほぼ全てを聞き流していた。
それでも気になっていた少女の名前は知りたかったので、彼女の自己紹介だけは聞き逃すまいと心待ちにしていたのだ。
「山崎咲良です」
結局クラスの一番最後に順番が回って来た彼女。起立するも全く笑顔を見せず、ぼそりと名前を言っただけで、直ぐに席に着く。
(え! あの女の子。昨日シカトした奴だ!)
この時拓真はようやく気付いた。
昨日、家の前ですれ違った少女が山崎咲良だったことに。
俯いていたので座っている姿では全く判らなかったが、それでもなぜか自分は彼女を意識していたのが不思議だった。
咲良が立ち上がってその顔を姿を見た瞬間に、ようやくその理由がはっきりしたような気がする。べつに運命的なものとは思わなかったが。
「じゃあ、井上君の席は……あそこね、山崎さんの隣」
担任の教師が指した場所は、あろうことか咲良の隣だった。いや、この場合は幸運なことになるのかな? とにかく挨拶無視のリベンジは果たせそうだ。
黒く澄んだ長い髪に凛とした佇まい、ほっそりとした体形だったが、ブラウスのおかげで出る所はしっかり強調されていて、女性らしさをかもし出していた。
ただ二重の大きな瞳の目つきは、他の誰よりも威圧的なものを感じる。
それでも咲良は、誰がどう見ても間違いなく美少女である。
いきなり気になる美少女の近くになるとは、田舎の高校も捨てたもんじゃないなと、拓真はしみじみ昨日の出会いに感謝していた。べつに運命的な出会いとか思っていないけど。
転校早々ではあるが、どうしても咲良の事が気になってしまう拓真は、授業中であろうと思わずちらちらと彼女を見てしまう。
そんな拓真を知ってか知らずか、全く無反応な彼女。一切彼の方は気にせずに、ただ黒板と教科書を見るだけだった。
授業の間の休憩時間は、一人席に座り読書をしている咲良。
他のクラスメイトもそれは日常的な風景といった感じで、彼女には誰ひとりとして近づきもしない。というか被害が降り掛からないように、みんな一定の距離を取っているようだ。
昼休みはクラスの男子に誘われて、校舎の屋上で弁当を食べる事となった。とはいえ拓真は弁当持ちではなかったため、先程売店コーナーでパンと飲み物を買ってきている。
「井上君。先に言っておくが、天狗姫とはあまり関わらないほうが身のためだぞ」
弁当のご飯を頬張りながら忠告をしてきたのは、拓真を昼食に誘った鈴木亮太だ。彼はこのクラスの中心的人物だそうで、転校生の面倒役を買って出ているらしいのだ。
「天狗姫って誰?」
「井上君の隣、山崎咲良のあだ名だよ。皆そう呼んでいるぜ。まあ、本人の前では言ってないけどな」
天狗姫。その呼び方で、ある程度誰かは想像出来ていたので拓真は驚かなかった。しかし、それでも山崎咲良についてあまり良くない話から始まったので、少し眉をしかめてしまう。
「何で? 堂々と彼女に言えばいいと思うけど」
「だってそれは彼女が怖いからな。頭のいい奴って何考えているか判らないだろ、下手に怒らせるとどんな仕返しが待っているか……」
「山崎さんて、頭いいんだ」
「それな! 学年で勉強は常にトップ。運動だってすげえぞ、男子を凌ぐ競技だって幾つかある。容姿は見ての通り完ぺきだ。俺もそれは認める」
「じゃあ、別になんの問題もないんじゃないの? 仲良くすれば良いだけだろ」
「何言ってる! 井上君だって身をもって体験しただろ、山崎咲良が天狗姫たるゆえんを」
彼女は気高く、同年代の人達と自分の世界は違う。
話すだけ無駄、友達関係など以ての外と考え、誰とも喋らない。
亮太は高校生になってから山崎咲良の事を知ったため、それ以前の事を知らないと言った。
「それって、女子とも同じなの?」
「ああ、誰とも喋らない。でも唯一口を開くのは授業中に先生との会話位。まあ当たり前ちゃ当たり前だけど」
「……ふうん、そうなんだ……」
それが拓真が最初に得た咲良の情報だった。確かに、休み時間中でも彼女は一人机に座ったまま、誰か近付いて会話をしているということは無かった。
クラスの中で女の子が一人孤立してしまうという事に、拓真は腑に落ちなかった。
孤立する問題自体は本人にあるとしても、やはり周りの友達がそうしている、そう仕向けていると考えてしまう。
まあ、今まで孤独を貫いていた拓真が、いろいろと言えた義理じゃないが。
「彼女一人。本当はクラスからいじめられているとか……」
「いいや、それは絶対ない! こっちは受け入れようとしたが、むしろ山崎が徹底して避けたからな、それで結果的に仲間はずれになっているわけだ」
「そっか」
(なんだよ、それじゃあ今までの俺と一緒じゃんか)
拓真は曖昧な返事を返し、咲良の事はやっぱり気になると言った表情。それを見た亮太は再度念押しをする。
「なあ井上君、転校早々孤立したくなかったら俺の忠告は聞いとくべきだと思うぞ」
「……わかったよ鈴木君」
拓真も今まで好き好んで孤立していた訳ではない。そこにはそれなりの理由があった。なので、転校してきたこの新しい環境で極力ボッチは避けたいのだ。寂しいから。
「うん、よろしい。ところで井上君! あそこにいる女子グループ、みんな結構可愛いと思わない?」
拓真達と同じく校舎の屋上で昼食を食べている女子五人組みが居て、どの子も知らない顔だったから多分他のクラスなのだろう。
亮太が可愛いと言った女子は確かに可愛かった。でも今の拓真にとってそんな事はどうでもよく、むしろ咲良は今どうしているのかが気掛かりで仕方がなかった。
「彼女は今、一人でお昼なんだろうな……」
「ん?」
「いや、なんでも無い」
折角隣の席になったんだから、どうにかして彼女と仲よく出来ないものかと拓真は思考を巡らす。
孤独を貫く咲良へのリベンジは、友達になってやる事だ、それしかないと勝手に決めつけた。
(でも、どうやって……)
正面で拓真の表情を伺っていた亮太は、軽くため息を吐きつつ弁当のおかずを口にはこんでいた。
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