第六話
今日も、仕事終わりに待ち合わせをした。
待ち合わせ場所はいつもの通り。
フィールドが見渡せる二階、展望と休憩スペースを兼ねた自販機前。
気分は、いつも以上にうずうずしている。
だって、今日は二人。
初めての。
☆
『今日は、マンツーマン。場所は無理を言って貸し切りにしてもらいました』
インカムから聞こえるのは、ミドリの声。
『相手との距離があるうちには、狙撃の可能性を考慮しながら前進。遮蔽物を利用しながら、相手がいるであろう想定ポイントを目指し、進んでください』
ゲートをくぐった先のフィールドは、前回の森の中、ではなく、今日は街の中だった。
欠けたブロック塀。穴の開いた家の壁。
路肩に止まっている自動車。
『見通しはかなり悪い。ただ、それはお互い同じ。無理せずに行きましょう』
そして、灯るシグナル。
赤から。
青へ。
サイレンの音。
『さぁ、スタートです』
深呼吸をした。
いつもの、ブザーを聞くたびに跳ね上がる心臓を、落ち着かせる。
一歩。
フィールドに足を踏み入れる。
ブーツの下から、砕けた砂利の感触が伝わる。
スタート地点の前はT字路になっていたので、壁際に身を寄せ、先を覗く。もちろん、誰もいない。
身を隠せる場所。電柱を見つけ、そこまで走る。
手に持っているのは、先日ミドリから借りたHK33。なし崩し的に、どうやら貰ってもいいらしい、という勝手な判断。
電柱の先は、数メートルで十字路、その先がT字路。
十字路まで続く壁が、上半分壊れている。
「とりあえずは……」
その壁が壊れているところまで進み、頭を出す。と。
シュッ。
目の前を、何かが、通り過ぎた。
『想定内の行動しすぎ。まぁ、初心者ならば仕方ないですが』
まてまてまて、既にここはミドリの射撃のレンジの中か。
それよりも。
「いきなり撃ってくるって、どういうつもり。今日はレッスンじゃないの」
『レッスンです。実戦形式の』
「ということは」
『見えれば当然撃ちます』
性格の悪い。
『撃たれないように、相手を撃つにはどうしたらいいか』
「見つからないように隠れて、相手を見つける」
理屈は、確かにそうかもしれない。けど。
「それができたら苦労はしないし、大体、どこから撃ってきたのかわからない」
『それは考えてください。とりあえず、今の頭の位置と、弾の飛んできた方向と、弾の創った跡を直線で結べばまぁまぁわかるかと』
それをじっと考えろという、無理難題。
言われて、弾の飛んで行った方向を向く。もちろん、頭は隠して。
反対の壁を見ると、確かに新しい穴が一つ、増えていた。
今の頭のある位置からは、やや下。
ということは、高い所から撃ってきた?
ポケットから、小さな鏡を出してその手を壁の穴へ。
少しずつ動かすと……いた、ずっと向こうの、壁の上に。
『見つけたみたいですね。では、その鏡も』
そういうと、手の中で鏡がパンッ、と、音を立てて砕ける。
「ちょ、これ私物なんだけど」
『あ、ごめんなさい、そうとは知らず』
頭きた。
壁の下半分、残っている場所に身を隠すように、這って進む。
穴を通り越し、十字路へ。
十字路は、背の高い4WD車が止まっていてミドリ側へは通れなかった。丁度、道を塞ぐ感じになっている。
背の高い車か……
下を覗くと、何とか通れそうなスペースがある。
屈んで、その下に入る。
「ホコリ臭い、オイル臭い……」
我慢しつつ、這って進むと、タイヤの陰に隠れて向こうを見る。
壁の上に、人影。
這って戻って、手に持った銃を前へ。
腕が不自然に伸ばされているのが、とても痛い。それでも、何とかストックを肩に当てて。
スコープを覗くと、その中にミドリが見えた。
あぁ、なるほど。
そう思いながら、セフティを解除、レバーをEへ。
深呼吸をして。
トリガーを、引いた。
ダンダンダン。
衝撃が肩に響く。
踊るスコープ。
『おっと』
着弾の音は聞こえない。
再度、トリガー。
続けて、肩に衝撃。
『そうそう、その感じ』
スコープ越しに見るミドリ。こっちを見て、凄い余裕。
『じゃ、場所移動で』
そういって、ひらりと、壁の上から姿を消した。
「……」
ごそごそと。
車の下から前進。
そしてまた、壁際へ。
地道に前進。
ふと、思い。
セレクトレバーをFへ。
手に持った銃の重さを感じながら少しずつ進み。
距離は相当に縮まったはずだと、自分に言い聞かせる。
そういえば、ミドリの銃は何という名前だっただろう。
あの距離から狙えるのだから、短い銃ではないはず。
そんなことを考え、また足を踏み出した。
☆
「あと少しなのに」
カスミが言う。
目標のフラッグまではあと30mといったところ。
そして、その前には、サブマシンガンでこちらを伺う人と。
ズダッ。
目の前の地面を、掘り変えず様に、弾を送り込む人と。
「進めない」
この場所まで、何人か進んでいる。
玄に目の前には、遮蔽物である壁を抜けた先には。
何人かが、横になっていた。
「遮蔽物が少ない、ここから前に進んだら、狙い撃ちか」
えげつないステージ。
「後ろからの援護は」
「もうないよ、残っているのは二人だけ」
そう言うと、弾倉の残弾をチェック。
こちらはあと十二発。
「カスミは」
「後五発。弾幕張るには、少ないね」
なら。
「当ててよね」
そう言い残して。
レバーがFなのを確認して。
僕は、飛び出した。




