第七話
「終わりましたよ」
そういって、頬をペチペチと叩かれる。
「うん……」
まだ、目の焦点が合わない。
「まったく。あれのどこに作戦があるんだか。仕損じも良い所です」
ため息をつきつつも、カスミの表情はにこやかだ。
「勝てたんでしょ?」
「勝てましたよ」
そう言うと、手を差しだすカスミ。
「ただ、今度はもうないですからね」
☆
遮蔽物の後ろから、思いきり走り出す。
身軽になるために、HK33は置いていく。替わりに太腿から抜いたP228ハンドガンを手に持って。
思わぬ行動、なのだろう、サブマシンガン、MP5を構えた方はびっくりしている。
そこに向けて、228を撃つ。
目的は、相手を驚かせること。
そして、注意をこちらに向けること。
走りながら、しかも、シングルアクションでは弾なんか当たるわけがない。
距離は走って20m強。
銃口が、こちらを向き。
一発。
牽制に、スナイパーのいる方へ。
少しでも、スナイパーの動き求められれば。
そうすれば、置いてきたHK33とSG550があれば、きっとカスミが仕留めてくれる。
続けて、撃ち続ける、とにかく。
何か、叫んだかもしれない。
そのうち。
スライドがガチャリと止まり。
全弾撃ち尽くした僕のところへ。
MP5の銃口が。
☆
「え~、今回、このような、大変奇抜な社内レクリエーションを実施することができ、また、参加していただいたみなさんは、楽しんでいただけたことと思います……」
一日が経つのはとても早かった。
ゲームは終了。
午後の部も終わり。
閉会式。
「カスミさん、とてもめんどくさいです。この部分こそ、カットはできないですか」
「この部分をカットしたら、今日の保険が下りなくなります。我慢してください」
などと、訳の分からないやり取りをして時間をつぶす。
「今回のレクリエーションの活躍を、ぜひ、職場に戻ってからも期待したいものです……」
嫌なセリフ。
そして、式の終了後。
貸出していた中の回収、服の回収とクリーニングの手続きなどをして。
建物を出たのは、結局8時過ぎになっていた。
バスの時間は終わっていたため、駅までゆっくり歩く。
「うん、今日は、まぁまぁ楽しかった」
「まぁまぁ?いつもよりも張り切り過ぎ。あんな事するなんて思わなかったって、みんな言っていたのに」
そうかな。
「大きなケガもなかったし、次回の開催もありそうだし」
「趣味と実益を兼ねたレクリエーションを、会社のお金で再度やろうなんて、ね」
「レクリエーションなんて、そんなものだと思うけど」
そうかも。
「じゃ、今日はこの辺で」
駅に着き、互いに別方向なので改札で別れる。
いつものように、帰りの電車に揺られる。
今日の一日は、短かったかな……長かったかな……
明日は、また仕事か。
少しだけ。
ほんの少しだけ、憂鬱になった。
楽しみを見つけた、気がする。
その楽しみのために、頑張ろうと思う。
でも。
頑張った結果が、出るのか、不安がある。
ぐるぐると考えているうちに、うとうとと。
今日は、疲れたな。瞼が重く。
『なかなかの活躍だったじゃないか』
そう声をかけられて、ハッとする。
座っている席の反対側に。
誰かが、居て。
こちらに、銃を構えて。
その銃口が、僕を狙って。
指が動いて。
ゆっくりと、銃口から何かが出てきて。
スライドが、徐々に下がっていって。
僕の方に、どんどんと向かってきて。
あぁ、この弾は、頭にあたるな、なんて、冷静に、その弾を見つめて。
ニヤッと笑ったその顔を、見ながら。
頭に、強い衝撃が……
ゴン。
「いった……」
うとうとしていたらしい。
後ろの窓ガラスに、盛大に頭をぶつけて。
あぁ、周りの人がくすくす笑っている。
恥ずかしい……
☆
タタン、タタン、タタン……
部屋の中に、音が響く。
断続的に。
しばらくすると、レバーがストップし、何も出なくなる。
そして、目の前に動いてくるターゲット。
「大分、的に当たる様になりました」
そう評してくれるのは、今日も付き合ってくれているミドリ。
「それはどうも」
言いながら、的を確認する。
弾痕は、概ね真ん中に集まるようになってきていた。
「そう言えば、この間のゲームのビデオ、見ましたよ」
新しい的を手配しながら言うミドリの言葉に、顔が赤くなる。
「あれ、もう消去してよ」
「そうはいかないでしょう、あれはあれで、まぁ間違ってはいないですからね」
うるさいなぁ。
あれはただ単に……
「あれはただ単に、負けたくなかったから……」
「負けず嫌いね。随分熱くなりやすい様で」
「なにそれ、馬鹿にしてんの?」
「ほめてるんですよ。勝とうという気持ちは重要です」
気持ち、ね。
「気持ちなんて」
「はい?」
ずっと奥に移動していく的に対して、腹ばいになって狙いを定める。
「気持ちなんて、意味はない。結果が続かないことに、意味はない」
そう言って、スコープ越しに的を見る。
「気持ちは参加賞程度、ですか」
トリガーを引く。
ダダダンと。
肩に響く衝撃に続き、スコープの向こうで、的が揺れる。
「今、こうしているのは、参加賞以上のものがほしいから」
そう言って、更に引く。
断続的に発射される弾。
それに対して、ミドリは何も言わなかった。




