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第四話

仕事帰り。

どうしても先日のことが忘れられなくて、もう一度だけ。

もう一度だけ、そう思って、寄り道をすることにした。

バス停を降りて、入り口をくぐる。

階段を登って、観戦席へ。

窓の向こうには今日も、出来上がった景色と、そこで戦い合う人たちがいた。

「やっぱり、うまいなぁ」

上から見ているとよくわかる。

眼を離すと、どこに居るのかもわからなくなるくらいにじっとしている人。

遠くから、そこに狙いをつけて構える人。

攻略に向け、着々と前進する人。

そして、飛び交う銃弾。

もちろん、弾なんかが見えるはずはない。

撃たれた、とわかるのは、銃口から出る炎と、飛び散る地面、時折動かなくなる人。

それを見て、初めてどこに飛んだかがわかるだけのこと。

落ち着いてみているからそこまで見れるのだけれど、いざもう一度、あそこに立ったら同じ気持ちで見られるのかはわからない。

たぶん、見られないのかな。

「この間はどうも」

「うわぁお‼」

よほど集中して見ていたのだろうか、すぐそばに来て、声をかけられるまで全く気が付かなかった。

「そんなにびっくりすることないじゃない。かえって失礼」

ムスッとした表情。

見覚えのない、背の高い人。

「えっと、どちらさまでしょうか」

恐る恐る。

窓辺に腰掛けてみていたので、自然と見上げる形になってしまった。

「この間はマスクしてましたし。同じフィールドに居ましたよ」

んー……

「初心者なんて言って、その後何も言わないで帰ってしまったので、気にはしていたんですが」

あぁ、あの時の。

「気にはしてないですよ、初心者なのは事実ですし、何も言わなかったのは、落ち込んでいただけで、びっくりしただけで、カスミなんて大っ嫌いだって頭でいっぱいだっただけで……」

いいながら、あれ、おかしいな、何で。

「いや、ちょ、いきなり泣かれるとかすると、凄い、その、ごめんなさい」

目の前でワタワタしている、大きな人。

「違うんです、思い出したら、つい」

ポケットから取り出したハンカチで、涙を吹いて、あぁ、恥ずかしい。

「今日は、リベンジにきました」

そう言って、真っ直ぐに目を見つめ返した。

「この間のリベンジ、ですか?それは、笑わせるジョークか何かですか?」

片眉をあげて、この人はそう返してきた。

「ジョークじゃない。至って真面目な話。丁度いい、付き合ってもらっていいですか」

窓辺から立ち上がって、それでも若干高い位置にある顔を見つめ、改めて。

「お願いします」

こちらは、いたって真剣だ。

何で?何でこんなに意地になる?わからない。けど。

じっと見つめていると、頭をポリポリと掻き。

「わかりました。ではまず、きちんと練習をしてから、でいいですか?」

仕方ない、と。

どうやら、応じてもらえそう。



「こないだの銃。見た目だけで選びましたね」

場所を移動して、受付をした後。

まずは合う銃選びから、と話をされて、レンタルコーナーへと移動。

「とりあえず大きいの、とか、とりあえず沢山撃てそうなの、とか。持てもしないものを持って、悪態をつく人」

奥へと移動しながら、そんな言葉を、ネチネチ、ネチネチ。

……この人、性格悪い。

「体格が大きくないなら、なるだけ反動の少ないものを。あと、扱いが比較的簡単で、少し小さめのものがいいと思います」

「その心は?」

「反動が大きいと、この間みたいに天井ばかりを撃つことになったり、長いものだと手が届かなかったり、重かったり」

なるほど。

「そうするとオススメは?」

「どう、参加したいのか、にもよりますけど」

「自分は当たりたくない。相手には当てたい」

「我儘な要望ですね」

「ほっといてください」

「おすすめは、そうですね。MP5あたりがいいと思うんですが」

そう言って、壁を指す。

そこにあるのは、70㎝位の黒い銃。

おぉ、かっこいい……でも。

「ちっちゃい」

「我儘ですね」

「うっさい」

そうすること数十分、オススメを言われては、首を横に振るということを繰り返し。

「どんなのがいいんですか、だから」

「だから、当たって、軽くて、そこそこ小さいのがいいんでしょ」

何回、そのやり取りを繰り返しただろうか。

「わかりましたよ、じゃぁ、これを使ってみてください」

そう言うと彼は、レンタルルーム奥の部屋に消えていく。

えっと、オイテイカレマシタ。

待つこと数分。

現れた彼の手に持たれていたのは、一丁の銃。

「かっこいい……」

「HK33SG/1、秘蔵品です」

「いいの?」

「貸すだけですから」

そう言って手渡されたその銃は、思っていたよりは……

「重い」

「その銃に合った撃ち方をしてください。銃が決まったら、今度は射撃練習です」



再度、部屋を移動して。

施設内にある練習場へとやってきた。

「ここ、入るの初めて」

位置的には多分、フィールドの下になるのだろうか。

仕切られたレーンごとに丸を重ねた的が置いてある。

「弾倉を、入り口のオフィシャルに渡してきてください。玉込めは自分ではやりませんから」

「そういえば、この間もそうだった」

教えてもらった通りにレバーを引き、外れた弾倉を入り口脇のカウンターへと出す。

少し待つと、中身が入ったLEDランプが灯った弾倉が返ってきた。

それを持ってレーンの所へと戻る。

「MAXで40発弾倉です。ただ、ゲーム中には弾倉入れ替えができないので打ち切ったらそれで終了ですから」

そう言いながら手慣れた手つきで、目標の距離をレシーバーに入力。

その距離に的が動くのを確認してから、弾倉を装填。

レバーを引くとおもむろに床に伏せて。

「まずは、撃ってみせるので、見ていてください」

スコープを覗き、トリガーに、指をかける。

一呼吸。

ダン。

おとなしめの音。

そして、遠くで揺れる的。

「うそだぁ」

的は、はるか前方。

肉眼では、何が書いてあるのかも見えない距離にある。

それが、揺れる。

ダン、ダン、ダン。

立て続けに発射音。

揺れ続ける的。

10発ほど打ったところで。

「わかりましたか」

「わかるかっ!」

「おかしいですね」

そう言うと銃にセーフティをかけ、床に置く。

「銃身の下についている足、バイポッドを出して、安定させて撃ちます」

言いながら、レシーバーのボタンを押すと、すっと、的が近づいてくる。

「後は、呼吸を落ち着けて。スコープを覗いて、中心を狙って撃てば、大体当たります」

的についた跡は、正確に中心の黒丸を貫いている。

「とりあえず、やってみてください」

何とも、無責任なこと。でも、付き合ってもらっているから、文句は言えないか。

「えっと、伏せをして。スコープを覗いて。的を見て。トリガーを……」

引けない。

「セーフティ、解除してください。あと、レバーはシングルファイアで」

「なにそれ」

「一回トリガーを引いて、弾一発、です。あと、銃の後ろのストックを、肩に当てて。そこに頬をつけて」

なるほど。

では、改めて。

落ち着いて、深呼吸して。

スコープを、改めて覗いて……

ダン。

撃った衝撃が、肩に響く。

的の、右上に。

「撃った時に、力が入り過ぎです。もっとリラックスして」

そんなアドバイスが、この後残り30発分続いた。

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