第三話
遠く。
サイレンの鳴る音が聞こえる。
ペチペチと、頬を叩かれる感触。
「終わってますよ、いつまで寝てるんですか」
うっすらと開けた目の前には、土埃に汚れたカスミの顔があった。
「終わった?どっちが勝ったのさぁっ!」
体を起こそうとすると、背中に走る痛み。
「あぁあぁ、また派手に撃たれましたね、痕残ってるんじゃないんですか、きっと」
痕?痕って何さ?
「撃たれた後。背中から、撃たれたでしょ。痛かったでしょ、痕残りますよ」
「いや、痛かったけど。痕ってなんだよ」
立ち上がると、まぁ、我慢できない痛みじゃない。
「銃で撃たれたんですから。かなり強めのマッサージ受けたぐらいの痛みだったでしょう?その分痕も残りますよ」
そんなのを立て続けに受ければ、それは失神もする。
てか。
「かなり危険なゲームじゃない。こんなの、社内レクに通るわけないでしょうよ」
一人も倒さないうちに終わるゲームなんて。
「通るんじゃないですか、きっと。採用する会社は多いですよ。普段の鬱憤を、とか言いながら」
へぇ……変な世界だ……
☆
「えー、今回は、このような奇抜な形で社内レクリェーションを実施することとなりました……」
二週間後。
貸し切りにされたその場所には、思ったよりも多い参加者を集め、社内レクリェーションの開催が宣言されていた。
てか。
「チーム分けって、とてつもなくランダム?」
配布されているチーム表には、事前登録をしたメンバーが3~4人で1グループとして記載されている。
「人数的には少なめ何ですが、その分フィールドを通常の半分、1ゲームを20分、総当たりをやったとしても3時間程。丁度いいと思いますよ」
脇のカスミはいかにも運営然として。
ちなみに僕たちは今日の参加はなしの予定。企画したんだから最後まで裏方で、ということらしい。
「では、ルールの説明を、カスミさん、お願いします」
「はい、では、本日のルール説明をいたします。目標は相手陣地の奥にあるフラッグをとること。とても簡単なルールです。それか、相手を全滅させること。誰が誰を撃ったのか、という記録は取りませんので、思う存分にやってください。ただ、ヒートアップして、殴り合いが始まったらその時点でチーム失格となります。次に……」
いや、今、何かさらっと怖いこと言わなかったか……?
「ゲーム中に気分の悪くなった方は、お渡ししてある白い布を上に掲げて棄権して、救急エリアへと退避してください。その他、問い合わせなどは随時受け付けていますので、お気軽に本部まで」
ちなみに、本部とはフィールドの端に白線で区切られたスペース、というわけではなく、一応安全に、2階のガラス越しの一部屋になっている。今日の居場所はココ。
「では、良いゲームを」
☆
なぜか、レクリェーションにお決まりのラジオ体操。その後に、ストレッチ運動がなぜか追加され、どんどんとやる気になっている面々の動きの凄いこと凄いこと。
その後、各チームごとに、事前に配布していた資料からお気に入りのチョイスで選んだ銃を受け取っていく。
見ていると、面白い。
ランダムチームなので、揃っているチーム、まったくちぐはぐなチーム。戦略も戦術も、この段階ではないよなぁ。当日配布だもんなぁ。
窓越しに見下ろすと、丁度第一ゲームが始まるところだった。
フィールドを二つに区切った場所にはネットが張られ、片側が草丈のやや高い草原エリア。もう片方が市街地エリアになっている。
事前の説明は、撃ち方、隠れ方。
あと、撃たれた時にはおとなしく寝ていろ、ということ。
誰も”猛烈に痛い”という説明、しなかったな……ま、いいか。保険入ってもらったし。
四つのチームがフィールドに入り、スタートラインに並ぶ。各人2丁ずつ持っているので、片側に長物を持っている人がほとんどだった。
って、あれ?
「なぁ、カスミさん?草原フィールドに長物2丁な人がいるよ」
「映画の見過ぎですね。いるんですたまに、あんな人」
その人は、始まると同時に二丁の銃を構えて猛然と敵陣へダッシュ。軽快に銃を打ち鳴らし……
「あ、弾切れだ……」
……ですよねぇ。
焦ったところに遠距離から撃ち込まれ、ぴくぴくと……
うん。凄いあるあるを見た気がする。
一方、市街地フィールドのチームはどちらも堅実な攻め手を見せている。
遮蔽物に身を隠し、時折覗き、合図をして前進をする。
「フィールドのサイズが縦90の横が60だから……」
「今回は、有効射程を20m程度の至近距離にしていますから、もう始まりますよ」
なるほど、確かに互いに接敵したところから、有効射程内で開始とは。
「律儀なチーム同士が当たったね」
「そうですね、草原とは偉い違いです」
上から見ているのと、実際にフィールドに居るのとは、きっとかなり景色が違うのだろう。待っているチームは上の観戦場所から見下ろしているので、お互いの動きが良く分かるはずだ。
あれ?
「さっきの草原は、20m以上距離があった気がしたけど」
「きっと、スナイパーがいるんじゃないですか?慣れた人なら40m位は軽く」
「はぁ、さようですか。って、倍じゃん。不利じゃん」
「それがゲームです。レクリェーションです」
うわぁ、実も蓋もない。
そうして、進んでいくゲームを眺め、一喜一憂し、時間は過ぎていく。
堅実にフラッグを目指すチーム。闇雲に突撃するチーム。全滅狙いで執拗に追い続けるチーム。
「誰が決めるんだろうね、このチームの戦略って」
「大体、どのチームにも一人、二人は混ざるんですよ、方向を決めたい人。自然と纏められる人は、堅実にフラッグ組でしょうね。突撃チームや全滅チームは、良く言えば、ゲームを楽しんでいるチームですね」
「悪く言えば?」
「バカ」
うん。この人の印象は、今回のレクを一緒にやったことでかなり変わったことだけは確かだ。
ぐぐぅ。
「えっと……」
「先に、ご飯にしますか」
☆
うちにしては奮発したなぁ、と思う仕出し弁当を食べる。
「ところで、エキシビジョン、どうしますか?」
唐揚げをつまみながら、カスミが言う。
「そんなのあったっけ?」
ミートボールと格闘しつつ、返す。
「やだなぁ、みんなの昼ご飯タイムが暇だから、スペシャルチーム同士でやろうって」
そんなこと、言ったっけか。いや、確かにさっきまで空白だった予定表に殴り書きが……
「で、どことどこ?」
「もちろん」
そう言って、自分の顔と、僕の顔を交互に指さす。
「あ?」
「い・い・ま・し・た・か・ら・ね」
はい……僕が悪いです……ミートボールが悪いです……
「相手も、特別有志チームで集めました」
いつの間に。
「さっきの間に」
ニコニコしながら言うカスミからは、いよいよ撃てるぞ、という気持ちしか伝わってこない。
そんなに打ちたいなら、本部なんてやらなければいいのに、とは、自分がやりたくて企画したものだから、そんなこともないのだろうが。
「練習してたんですって?聞きましたよ」
しまった。
「よっぽど、この間が悔しかったんですねぇ、って」
「誰がそんなこと」
「ここのオフィシャルが」
……お喋りオフィシャルめ……
「お気に入りのカスタムも見つけたんですって?いいじゃないですか、初舞台ですね」
☆
『それでは、本日のエキシビジョンを開催いたします』
フィールドに放送が響き渡る。
『フィールドを本来のサイズに戻し、草原エリアと市街地エリアとの混成フィールドとなります。人数も増えまして10対10。非常に見どころのあるゲームです』
その声を聞きながら、カスミと共にフィールドへと降り立つ。
「へぇ、なかなか渋い所来ましたね」
そう言うカスミは、先日と同じSG550と、太ももにはP229。
僕の手には。
「HK33SG/1、このフィールドなら有効、良い趣味です」
……らしい。よくわからない。一目ぼれだから、とは、言わない。
『こちら側は草原エリアから攻める形になります。草原が切れたところで途端に身を隠すのが難しくなるので、注意してください。配置はアタッカー、ディフェンダーがそれぞれ、自分の担当がわかる方はその場所を。後の方は……まぁ、ご自由に』
ゴーグル一体型のインカムから聞こえる声は、どこかで聞いた事のあるような声。
「さて、本日一番のひと暴れ、と行きますか」
このカスミさんの嬉しそうな声は、いったい何なのでしょう、よっぽど鬱屈したものがあるんでしょう。
そして、響くサイレンの音。
『ゲーム、スタート』




