第二話
キーにタッチする手を休め、外を見る。
窓の外は一面の海。
そんな訳はない。
普通に隣の建物の壁が見えるだけ。
その窓に反射する太陽の光。
時報のチャイムと共に、ぐぐぅと腹時計が響くのが何とも情けない。
「わかった、わかりましたよ。昼飯食べればいいんでしょうが」
情けない自分の体にため息をつきつつ、椅子を引いて立ち上がる。
見下ろしたフロアには、ざわざわと、迷彩を着込んだ集団が集まっていた。
☆
「準備、オーケーですね?」
十人ほどの集団に向かって、扉の前のオフィシャルが声をかける。
何もわからぬまま、申し込み、受付をし、オリエンテーリング、試し撃ち。
そして今、その集団の中に、僕はいた。
「オーケーじゃないです……」
ぶるぶる震える手をあげて、訴えてみる。
「じゃぁ、何で申し込みしたんですか」
脇から突き刺さるカスミの視線。
その手には、やたらと長いものが……
「なに、それ。凄いでかくない?」
「これですか?SG550って言うんですけど、かっこいいでしょう?」
……いや……かっこいいのは認めるけど……
「ストックが折り畳めるので接近戦もオーケーです!」
……うん……聞いた僕が悪かった……
「そう言いながら、好きそうなのを選んだんじゃないですか?」
そう。僕の手の中にも、銃が一丁。太腿にも一丁。
名前は……よくわからない、とりあえず、あったもので、撃てそうなものを、勘で選んでみました。
「はぁ……」
ため息をつきながら、扉を抜ける。
明るく照らされた世界には、先ほど上から見た光景よりもリアルな、まぁ、当たり前だけど、リアルなフィールドがあった。
グローブ越しに壁に触ると、ざらざらした質感。見上げた先の木も、作り物という気がしない。
「本物が植わってますよ」
まるで、僕の考えを読んだように、声がかかった。
「そこは、雰囲気的なもので。ここはまだ出来立てですからね」
出来立てだと本物だという意味がわからない。うん、さっぱり。
ウォォォォォン……
スピーカーからサイレンが響く。
フィールドの中央に、天井からつるしてあるシグナルが、赤く、そして、数が増え、緑に。
『散会』
インカムから聞こえる指示に、周りの人がさっと動く。
「え?え?」
訳も分からず、立ち尽くす。
「こっち!」
強く手を引かれ、近くにある壁の後ろへと引きずり込まれた。
「死にたいんですか!?」
ゴーグル奥の目が睨む。
「死にたくないよ!!」
思わず叫ぶ。
「初心者?」
でっかい舌打ちが聞こえてきそうな声。
えぇ、今日が初体験です、右も左もわからないです、いきなり連れてこられたんです。
「この時間を選んだのが間違いだよ。まぁ、諦めて」
そう言うとその人はさっさと移動していく。
なんていうか、動きが慣れている……それよりも、カスミは?
「畜生、何でこんな……」
チュン……
チュン?
『あぁ、そこ、見つかったみたいですね、狙われてます、マジ、ご愁傷様です』
インカムから聞こえるカスミの声。
『頭出さなければ当たらないんで、とりあえずそこで』
うわぁ、無責任。
「せっかく来たのに、何もしないでやられてはいそうですか、って訳にはいかないって」
恐る恐る、壁から頭を出してみる。
チュン。
ヘルメットを、弾がかすめる。
「……怖いです……」
泣きたくなってきました。むしろ、もう泣いてます、きっと。
ただ、草の向こうに何人か隠れて進んでいく姿は見えた。
とりあえず、隠れながら前進すればいいのか。
幸いにも、少し行った先に、同じような壁と、そこから茂みが続いている。そこまで行ければ、動きやすいだろう。
もう一発来たら、走れば間に合うか?
心臓が鳴り過ぎて、痛いのを通り越して。
じりじりとタイミングを計って。
チュン。
「今!」
壁まで、全速力で走り、最後は転がり込むように隠れる。
「はーっ、はーっ」
息が続かない。
『そんなにはり切らなくても』
またも、カスミの声。
「そっちが置いていくからでしょうが!」
叫んでも、どこにカスミが居るのか、皆目見当もつかない。
サッカー場程度の広さでも、こうなのか。
深呼吸。
落ち着け、落ち着け。自分に言い聞かせて、もう一度、深呼吸。
地面にはいつくばって、茂みの下から、前を見る。
遠くに、パララッ、パララッ。
おそらく、接敵したのだろう、銃撃の音が聞こえるようになった。
上を見上げると、シグナルはまだ緑。
脇に、残り時間のカウントと、双方の残り人数。
こちらは、既に何人か減っていた。
と、茂みの近くに、相手方のゼッケンをつけた人物が歩いてくる。
こちらにはまだ、気が付いていない。
銃のセーフティを解除。
狙いを定めて。
トリガーを。
バララララララララ……
「わっと」
一機に銃口が跳ね上がり、弾が明後日の方向に飛んで行く。
そのまま、トリガーを引いた指が、硬くなって戻らない。
三秒後……
「……えっと……」
弾切れ。
「……」
「……」
相手と、見つめ合ってしまった……
スチャッ、構えられ、真っ直ぐにこちらを見つめる銃口。
「あ、え、う……」
ズダッ。
ベストの上に、重い衝撃。
「げ」
ズダッ、ズダッ、ズダッ。
続けて三発。
背中に打ち込まれた衝撃と痛みで、意識はフェードアウト。
ゴーグルの表示が、レッドへ変わって。
いった気がしたけど、幻かもしれない。




