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第二話

キーにタッチする手を休め、外を見る。

窓の外は一面の海。

そんな訳はない。

普通に隣の建物の壁が見えるだけ。

その窓に反射する太陽の光。

時報のチャイムと共に、ぐぐぅと腹時計が響くのが何とも情けない。

「わかった、わかりましたよ。昼飯食べればいいんでしょうが」

情けない自分の体にため息をつきつつ、椅子を引いて立ち上がる。

見下ろしたフロアには、ざわざわと、迷彩を着込んだ集団が集まっていた。



「準備、オーケーですね?」

十人ほどの集団に向かって、扉の前のオフィシャルが声をかける。

何もわからぬまま、申し込み、受付をし、オリエンテーリング、試し撃ち。

そして今、その集団の中に、僕はいた。

「オーケーじゃないです……」

ぶるぶる震える手をあげて、訴えてみる。

「じゃぁ、何で申し込みしたんですか」

脇から突き刺さるカスミの視線。

その手には、やたらと長いものが……

「なに、それ。凄いでかくない?」

「これですか?SG550って言うんですけど、かっこいいでしょう?」

……いや……かっこいいのは認めるけど……

「ストックが折り畳めるので接近戦もオーケーです!」

……うん……聞いた僕が悪かった……

「そう言いながら、好きそうなのを選んだんじゃないですか?」

そう。僕の手の中にも、銃が一丁。太腿にも一丁。

名前は……よくわからない、とりあえず、あったもので、撃てそうなものを、勘で選んでみました。

「はぁ……」

ため息をつきながら、扉を抜ける。

明るく照らされた世界には、先ほど上から見た光景よりもリアルな、まぁ、当たり前だけど、リアルなフィールドがあった。

グローブ越しに壁に触ると、ざらざらした質感。見上げた先の木も、作り物という気がしない。

「本物が植わってますよ」

まるで、僕の考えを読んだように、声がかかった。

「そこは、雰囲気的なもので。ここはまだ出来立てですからね」

出来立てだと本物だという意味がわからない。うん、さっぱり。

ウォォォォォン……

スピーカーからサイレンが響く。

フィールドの中央に、天井からつるしてあるシグナルが、赤く、そして、数が増え、緑に。

『散会』

インカムから聞こえる指示に、周りの人がさっと動く。

「え?え?」

訳も分からず、立ち尽くす。

「こっち!」

強く手を引かれ、近くにある壁の後ろへと引きずり込まれた。

「死にたいんですか!?」

ゴーグル奥の目が睨む。

「死にたくないよ!!」

思わず叫ぶ。

「初心者?」

でっかい舌打ちが聞こえてきそうな声。

えぇ、今日が初体験です、右も左もわからないです、いきなり連れてこられたんです。

「この時間を選んだのが間違いだよ。まぁ、諦めて」

そう言うとその人はさっさと移動していく。

なんていうか、動きが慣れている……それよりも、カスミは?

「畜生、何でこんな……」

チュン……

チュン?

『あぁ、そこ、見つかったみたいですね、狙われてます、マジ、ご愁傷様です』

インカムから聞こえるカスミの声。

『頭出さなければ当たらないんで、とりあえずそこで』

うわぁ、無責任。

「せっかく来たのに、何もしないでやられてはいそうですか、って訳にはいかないって」

恐る恐る、壁から頭を出してみる。

チュン。

ヘルメットを、弾がかすめる。

「……怖いです……」

泣きたくなってきました。むしろ、もう泣いてます、きっと。

ただ、草の向こうに何人か隠れて進んでいく姿は見えた。

とりあえず、隠れながら前進すればいいのか。

幸いにも、少し行った先に、同じような壁と、そこから茂みが続いている。そこまで行ければ、動きやすいだろう。

もう一発来たら、走れば間に合うか?

心臓が鳴り過ぎて、痛いのを通り越して。

じりじりとタイミングを計って。

チュン。

「今!」

壁まで、全速力で走り、最後は転がり込むように隠れる。

「はーっ、はーっ」

息が続かない。

『そんなにはり切らなくても』

またも、カスミの声。

「そっちが置いていくからでしょうが!」

叫んでも、どこにカスミが居るのか、皆目見当もつかない。

サッカー場程度の広さでも、こうなのか。

深呼吸。

落ち着け、落ち着け。自分に言い聞かせて、もう一度、深呼吸。

地面にはいつくばって、茂みの下から、前を見る。

遠くに、パララッ、パララッ。

おそらく、接敵したのだろう、銃撃の音が聞こえるようになった。

上を見上げると、シグナルはまだ緑。

脇に、残り時間のカウントと、双方の残り人数。

こちらは、既に何人か減っていた。

と、茂みの近くに、相手方のゼッケンをつけた人物が歩いてくる。

こちらにはまだ、気が付いていない。

銃のセーフティを解除。

狙いを定めて。

トリガーを。

バララララララララ……

「わっと」

一機に銃口が跳ね上がり、弾が明後日の方向に飛んで行く。

そのまま、トリガーを引いた指が、硬くなって戻らない。

三秒後……

「……えっと……」

弾切れ。

「……」

「……」

相手と、見つめ合ってしまった……

スチャッ、構えられ、真っ直ぐにこちらを見つめる銃口。

「あ、え、う……」

ズダッ。

ベストの上に、重い衝撃。

「げ」

ズダッ、ズダッ、ズダッ。

続けて三発。

背中に打ち込まれた衝撃と痛みで、意識はフェードアウト。

ゴーグルの表示が、レッドへ変わって。

いった気がしたけど、幻かもしれない。

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