第一話
誰にだって、日常はある。
僕には、仕事をして、家に帰って、TVを見て。
適当に、親と電話をして。
友達と、たまに会って話をして。
近くのコンビニで、お酒を買ってきて、飲むくらい。
大体、その繰り返しが、大方の日常。
つまらなくない、といえば、嘘になる。
でも、積極的に、例えば、仕事をやめて、世界に出たいとか。
今流行りの、フルダイブ型のゲームに身を投じるとか。
そこまで、変えてやろう、なんて、そんな気はなかった。
あくまでも、自分の身の回りは変えないで、そこそこに刺激のある生活が送れれば。
大体、誰だって同じでしょう、そんな思いは。
外に出ようって、積極的な人の方がおかしいんだ。
そんな、考えを持っていた。
☆
「お疲れ様でした」
今日も、いつもと同じように、仕事が終わった。
机の上を片付けて、着替えて、いつものように帰る。
本屋にでも寄ろうか、なんて、ぼーっと思っていた時。
「どこ行くんですか、これからレクリエーションの打ち合わせですよ」
衝立の向こうから、声をかけられた。
「は?聞いてないけど」
「この間のミーティングで、社内レクの下調べに週末行くって話、しました」
そう言って顔を覗かせたのは、社内随一地味メガネのカスミだった。
「そんなこと、言ってたっけ?言ってたか?言ってたような……」
ミーティングの無い様なんて、大体自分に関係ないことがほとんどだ、聞いている人の方が少ないだろうに。
「久しぶりのレクだから、楽しいものにしようって、提案しました」
自分の顔を指さしながら、自信満々に言うカスミ。
あぁ、こんなやる気のあるやつだなんて、知らなかったよ。
「楽しいものって何だ、ボーリングか?」
運動系全般が、得意ではない僕が、社内レクなんて楽しいはずがないじゃないか。
そんな、うんざりした声が顔にも出ていたんだろう。
「そんな、大した運動じゃないですよ、すぐに終わるし、白熱するし。好きな人は好きだと思いますよ」
そう言って、一枚のパンフを出してきた。
「何だこれ……ガン…シューター?」
パンフレットの表紙は二丁の銃が描かれた、コミックの表紙みたいなもの。
中身は、新規にオープンした施設の説明と、利用料金など。
「ベタな名前。新手のゲーセン?これのどこがレクなのさ」
「撃ち合いって、楽しいですよ。それに、これなら怪我もそんなにしないですし、熱中すること間違いなし、です」
「いやいや、撃ち合いって時点で、ケガするよね」
「だから、安全な打ち合いですって。行ってみましょうよ」
そう言って、カスミが手を引っ張る。
残念なことに、その施設の住所はわりとここの近く。
これは、用事がある、とかで、逃げられる場所じゃない。
「わかったよ、わかりました。付き合えばいいんでしょ」
そう言うと、にんまりとした顔で、うんうんと大きくうなずくカスミ。
「もう、予約は取ってあります!」
……まじか……
☆
「こんな所、あったんだ。気が付かなかった」
バスを降りた先にあったのは、大きい体育館のような建物。
意外にも、人は多かった。
「早く早く、始まってますよ、もう」
そう言ってさっさと先に進むカスミの背中は、いつになく楽しそうだ。
明日が休み、ってだけじゃなさそうだな、このウキウキ感は。
「何してるんですか?」
「わかったよ、今行くよ」
ドアをくぐると、なんというか、独特の香りがした。
汚い、というイメージはない。
むしろ、非常にきれいな、場所。
汗臭さすらない。
なのに、独特の、熱気。
真っ直ぐ進むと、中を見渡せる観客席についた。
「なに?これ」
窓の向こう側には、一段低くなって、広いスペースがつくられていた。
大きさは、サッカー場くらいあるだろうか。かなり、広い。
そこに、大小さまざまな、壁。オブジェ。木。
そして、ゴーグルとベストを着た、人。
手に構えているのは、銃。
構えて、撃つ。
チュン。
窓ガラスが、音を立てる。
「え?」
「あぁ、気にしないでください、流れ弾ですよ」
カスミはそう言いながら、中を食い入るように見ている。
「や、待って。流れ弾って何さ。実弾?」
「違いますよ。エネルギー弾のコアが弾けた音です。証拠に、ガラスにキズ、無いでしょう?」
あまり、怖くて見たくないんだけど。
なんて、言えないな。恐る恐る窓に近付くと、確かに、当たったであろう場所にキズは、無い。
「何だよ、エネルギー弾って。大体、どういうルールなんだよ、これ」
「来るときに説明したじゃないですか。撃ち合いですよ、撃ち合い。実弾じゃなくて、実弾っぽく見える、加工エネルギー弾です。簡単に言うと、当たれば負け。当たったら、そりゃ痛いですけど、死ぬわけじゃないですし」
その説明を再度聞くだけで、もう目の前が真っ暗なんですけど。
「もう少ししたら、次の競技が始まります。受付に行って、着替えて、参加ですよ!」
えっと……無茶、言わないでください。
僕を、日常に返してください。




