第2話 絶望との抱擁 4
この耳鳴りには聞き覚えがある。
訓練で数回経験した。
そう、銃声だ。
運転席を見ると運転手が倒れている。
いや、死んでいる。
足元とガラスには深紅の生きた証が飛び散っていた。
直後
「ドォォォン!」
惰性で走っていたバスが、何かにぶつかった衝撃が走る。
「うわぁぁぁぁぁ!」
「運転手さん、殺されちゃったよ!」
「どうしようどうしようどうしようどうしよう」
子供たちに動揺が広がる。
すると、
「みんな、落ち着け!」
カナタの一言で皆の動揺が一旦落ち着く。
「非常出口から外に出るぞ!」
カナタは普段から色んな子供と仲が良い。
そういう人間の一言には説得力がある。
そして、相変わらずのリーダーシップだ。
「カイ、俺の後ろを離れるなよ」
「そこまでしなくても大丈夫だって」
カイは、なぜか異常に落ち着いていた。
この後起きることを全く予想せずに。
■■■
外の景色は、荒野だった。
緑は根絶され、目が霞む様な焦土が地平線まで続く。
風はとてつもなく強い。
辺りには2〜3m程度の岩が点在している。
加えてもう一つ分かることは━━━
先程の運転手への狙撃。
間違いない、
敵がいる。
確実にカイたちを殺そうとしている。
「嘘、だろ...」
子供たちはパニックを通り越して、その場に立ち尽くしていた。
突如、カナタが叫ぶ。
「みんな、とにかく岩山に隠れるんだ!5人位のグループに別れて!それから配給のトランシーバーを装備して!」
今度ばかりは状況が飲み込めない者もいたが、
カナタの声を認識した者から一斉に行動する。
呆然としている者には、動ける者が喝を入れる。
そうして、5人ほどのグループがそれぞれ出来た。
「全く、教官は急に酷な訓練を入れてくるよな」
カナタがため息混じりに話す。
「この状況に対応できてるお前が怖ぇよ」
カイは相変わらず高スペックな親友に舌を巻いていた。
■■■
岩陰に隠れて数分後、
「ジジィッ、ジー」
トランシーバーの雑音と共に、聞き慣れた無頓着な声が聞こえてくる。
「あー、おう、お前ら聞こえてるか。
言い忘れてたが、あー、今日は実践訓練だ。
能力が使えるやつは惜しみ無く使えよ。
えーと、敵軍を殲滅するまでこの試験は終わらないからな。じゃあ。」
「言い忘れてたがじゃねぇよ!」
恐らく皆が一斉にツッコんだだろう。
「カコン...」
カイは呟く。
そして座学で習ったことを思い出す。
カコンとは、12歳までの子供に発現する超常的な力のことである。
カコンがある子供のことをポネラーと呼ぶ。
カイは、訓練で詳細について習った。
カコンは主に強化型、補助型、動異型に分かれるらしい。
まだ研究途中なようだが。
なお、カコンについては切り札となるため教官以外には話さない子供が多いらしい。
ちなみに、カイには才能が無かった。
最も施設の人間は、カコンの有無に関係なく、皆平等に扱うと言っていたが。
しかし、今回の訓練はカコンが使えない側からしたら絶望しかない。
カイは酷く胸が締め付けられた。
この状況で生き残るには隠れ続けるしかないのだろうか。
そんなカイの様子を見て、カナタは優しく切り出す。
「カイ、言ったろ?俺がお前を絶対に守るって。俺の近くを離れるなよ」
「う、うん」
今回ばかりは甘えさせてもらう他、無いだろう。
カナタがグループ全体に問う。
「この中でカコンを使えるやつはいるか?」
この非常時だ。
カコンについて聞いても構わないだろう。
「あ、あの、私使えます。グラシィ、
グラシィ・ラーレです。」
カイは思わず声の主に振り向く━━━
誰もが目を惹くような、それでいて落ち着く黄金の髪。長さは肩より少し下あたりだろうか。
深い海を宿した碧眼。
透き通るような白い絹のような肌。
繊細なガラス細工の様にか細く、儚い声。
先刻カイが一瞥した金髪の少女、いや美少女だ。
ーーーこ、こんな美少女うちの施設にいたんだな......
カイはふと、父と深夜に見ていたハーレムアニメのキャラを思い出した。
「あぁ、よろしく。俺はカナタ・モノミだ。こっちはカイ・マスダ。」
「よ、よろしく」
「よろしくお願いします。」
笑顔でグラシィは返す。
だが、どこか物憂げだ。
「他の二人は?」
カナタが聞き直す。
二人とも首を横に振る。
「そうか。じゃあ、俺とグラシィだけか。あ、気にしなくていいからな。」
ーーー相変わらず気遣いが上手いやつだ。
カイはカナタに感嘆しながらも、この状況をどう打開するかを考えていた。




