第2話 絶望との抱擁 5
状況の打開はまず、観察からだ。
敵兵の数と位置関係を調べなければいけない。
カイはこっそり忍ばせておいた高倍率双眼鏡を取り出した。
なんと5km先まで見える。
「ッ、!━━━」
ちょうど5km程先に30弱ほどの小隊を見つけた。
確実に向こうもこちらを見ている。
こちらは全員体を隠している。
が、この距離で狙撃できる兵器を持っているのだ。
決して油断はできない。
ーーーん、、?
突如、カイは硬直する。
そして熟考し始めた。
『そういえば、さっき
僕たちは明らかに無防備を晒していた。なのになぜ打ってこないんだ?』
ーーー!!
カイの頭に名探偵のような電球が閃いた。
ーーーそうか!兵器のチャージには時間がかかるのか!
カイはとてつもなく腑に落ちた。
すぐさま、皆の方を向いて━━━
いや、目は見れないが視線を泳がせながら言う。
「敵兵の数は30弱程度。恐らくすぐは撃ってこないと思う。だけど、バスの運転手が殺られたんだ。気をつけた方がいい。」
すると、
カナタはニヤリと意味深な笑みを浮かべ、金髪の美少女の方を向く。
「聞き忘れてたが、グラシィのカコンは?」
「わ、私は見えてる人の身体能力とカコン、どちらか一つを強化できます。一人だけですけど……」
「上出来だ。俺は視力を強化できる。」
そう言ってカナタはライフルを取り出す。
カイはそれを聞くや否や、カナタに詰問する。
「お前、カコンなんて持ってたのか?」
「実はな」
やはり持っている人間は違う。
カイは、また落ち込んでしまった。
ふとカナタを見る。
今までに見たことの無いくらい真剣な表情だ。
これから他人の命を奪うのだから当然だが。
「よし、みんな俺の後ろに隠れろ。グラシィは俺にカコンをかけてくれ。」
「わ、分かりました。」
ふと、カイは疑問に思う。
「なぁ、そのスナイパーライフル射程大丈夫か?」
「まぁ、見てれば分かるって」
カナタは深呼吸する。
直後カナタの眼光が赤く揺れる。
少しかっこいいとカイは思った。
羨望の眼差しをカナタに向けたのも束の間、
彼は迷わず引き金を引いた。
パァンッ!
強烈な発砲音に思わず全員耳を塞ぐ。
カナタは、その後も迷わず引き金を引く。
5発ほど撃ったあと、双眼鏡越しに敵軍の動揺した様子が見えた。
「お前、どこからその武器を……」
カイは怪訝そうにカナタを見る。
「秘密。」
カイは武器庫と全く同じ返しをされた。
「カナタ君すごい!」
「やべー、かっけぇ!」
カイは辺りを見回す。
他の子供たちは興奮しているようだ。
しかし、グラシィは一人目を伏せていた。
体調でも悪いのだろうか。
そう、カイは予想した。
ーーーーーー
カナタのカコンは強化型で、一時的に驚異的な視力を得ることだろう。
カイは分析する。
ーーーま、まぁグラシィさんのカコンのお陰もあるか。
カイは必死に自分の存在価値を保ち続けていた。
だが、それ以上に気になることがある。
『カナタのスナイパーライフルは一体何なんだ?』
そもそもスコープが付いていない。
恐らくカナタの特注品だろう。
加えて、あの射程距離……
そんなことを考えていると、
一つのグループがカイたちに近寄ってくる。
「カナタ、やっぱすげぇな!」
「好きになっちゃったかも……」
「俺も好き」
ちゃっかり男も好きにさせちゃってる辺り、本当に人たらしだ。
「やめろよ、お前ら。買い被りすぎだって」
ーーー……僕の前ではあんなに調子の良いことを言うのに、謙遜なんかしやがって……!
カイが悶々と考えていると、
他グループの女子がカイの方を向く。
「ねぇ、カイ君?高倍率の双眼鏡持ってるの君だけだったよね。少し貸してくれないかな?」
「あ……いいけど」
ーーークソ、思わず女子の前では「あ」を付けてしまう。……ん?待てよ?
カイはふと拭えない違和感に気づく。
双眼鏡は基礎装備の中に入っていた。
しかし、用心深いカイは非常時に備えて、生き残る手段を増やした。
一つだけあった高倍率の双眼鏡を持ち込んだのだ。
カイはとっさに口を開いた。
「待って、なんで僕が高倍率の双眼鏡を持っていることを知ってるの?」
瞬間、静寂が訪れる━━━




