第2話 絶望との抱擁 1
カイは男の言葉をゆっくり飲み込み、そして改めて心中で反芻した。
ーーー『クレインクレイドル』。
カイも、一度は耳にしたことのある名前だ。
父親がぽつりと呟いたこともあるし、学校でも何度か話題に上がった。
あの施設に入れれば、十八歳まで何不自由なく暮らせる。
贅沢もできる。
就職先も安定していて、この不景気の中でも
年収一千万はいくらしい───
そんな噂まで出回っている。
カイが一方的に友達と思っている連中は、
こんなことを言っていた。
「そんなにすげーなら、オレ孤児になってみてぇな!あははは」
カイには到底、冗談として理解できなかった。
カイは、そこでようやく自分が
"孤児になった"という現実が胸に沈んだ。
孤児のための施設。
ーーー僕は孤児になったのか。
それより───
『どうして......僕の名前を?』
そう言おうとしたが喉が張り付いたように動かない。
ーーーなんで...
その様子を察して、男はカイに紙とペンを渡した。
「君のお父さんの遺書に書いてあったのさ。
自分と妻に何かあったら、息子をクレインクレイドルに入れてくれと」
男は、まるで他人事のように淡々と告げた。
───実際、他人事なのだから当然だが。
ーーー親父が遺書を......?
そんな柄じゃないとカイは思っていたが、やることはしっかりやってくれたのだろう。
「あぁ、そう言えば自己紹介がまだだったね。
私はアンベート。クレインクレイドルの代表をしている。よろしくね。」
ーーーアンベート。
───どこかで聞いた覚えがある。
カイは、父と一緒に見ていたニュース番組を思い出す。
そこに映っていたアンベートは、
どう見ても七十代の老人だった。
だが、目の前の男は別人のようだった。
年齢も四十歳前後にしか見えない。
違和感に囚われているうちに施設の説明が終わってしまった。
ーーー......暮らしていれば、そのうち嫌でも分かるか。
カイは後にその現実を思い知らされるとは、この時は知る由もなかった。




