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クレイン・クレイドル  作者: 倉利来
第1章 エンドレス・ペイン
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第1話 雪解、迅雷、そして廻離(かいり) 3

ジンの思考が止まった。



「━━━」




身体からだが動くのを拒絶している。


息が詰まる。呼吸が苦しい。


胸が熱い。熱い。熱い。












───いや、これは痛みなのだろうか。


そう理解した瞬間とめどない鮮血が足元に散らばっているのを見た。



ジンは驚愕と動揺を押さえながら声を絞り出した。


「誰、だ...?」


重力に抗えなくなったように、その場に倒れ込む。

冷たい床の感触だけが、まだ生きていることを彼に実感させる。



「知る必要は無い。お前は死ぬのだからな。」


フードの男は無機質な声で話す。




「あ、なた? ジ、ジン... ジン!

嘘、よね?死なないで!

私が何とかするから!」


誰のものか断定できない手が死にかけのジンの体を揺さぶっている。

恐らく妻であろう。目線が動かせないので分からないが。





「親、父...?」


カイの不確かな声が聞こえる。


世界の輪郭が徐々にぼやけていく。

ジンは、必死に意識を保ち続けていた。





「次は女、お前の番だ。今楽にしてやる。」





「━━━ッ!」


隣で人が倒れる音が聞こえた。


ジンは直感で誰が刺されたのかを把握した。


ーーーハァ...ハァ...う、そ、だろ...?


ユキも刺されたのだ。


ユキは必死で呼吸をしながら、

声帯から言葉を絞り出す。




「ハァ、ハァ...あ、な、た、わ、たし、い、ままで幸せだ、った。死、ぬ時、も一、緒な、んて、」



「こ、こん、なとき、に、あ、いのこく、はくか?

お、まえらし、いな。」




「親、父?...そ、そんな...お、おや、父さん!母さん!」


カイの泣き叫ぶ声が、淀みと共に聞こえる。

恐らく、脳の血液が足りなくなってきたのだろう。




「まだ息があるのか、━━━フッ、まぁ遺言ぐらいは聞いてやろう」


フードの男が余裕を見せる。



ユキは意を決したように最後の力を振り絞る。



「カ......カイ、わ、た、 した、ちは ずっと

かぞく。 あ、 なたも、 そして━━━ 」




ユキの声が途切れる。

完全に意識を失ったのだろう。

もしくはもう死んだのか。



ーーーだが、俺はこれだけは伝えなければ...!


朦朧もうろうとする暗闇の中、ジンは最後の力を振り絞る。




「カ、イ━━━お、まえ、の━━━い、る ハ ━━━

を さが、せ 」




「フッ、訳の分からない遺言だ。」


最後に聞こえたのは、無慈悲にもフードの男の声だった。


■■■


眼前の光景にカイは絶句を通り越していた。最早、激情のみが彼を動かす。


「そ、そんな、父さん、母さん

う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」



「うるせぇガキだな、今すぐ両親の元へ送ってやるから安心しろ。」


フードの男がうんざりした顔で話す。


「だが、あの方の指示は両親だけだったはずじゃ...?」


「構わん。どうせ施設に入っても使い潰されて死ぬ。」




カイは男たちの会話を聞いていたが、

迷わずフードの男目掛けて突進する。




ーーー許さない許さない許さない許さない許さない

父さんと母さんを殺したお前を許さない絶対に殺してやる!!!

父さんが受けた100倍の苦しみと母さんが受けた100倍の苦痛でお前らを殺してやる!


カイは罵詈雑言の数々を頭の中でフードの男に浴びせていた。


そんなことを考えてもたかだか小学生が、大人に叶う訳はない。


一瞬で無慈悲に腕を捕まれ、次の瞬間───













「あ」


ーーー赤いなぁ


その赤の理由を考える間もなく、世界が暗闇に包まれた。






カイはこの瞬間のことはあまり憶えていなかった。

憶えているのは父と母の苦痛に歪む顔、

そして"かぞく"という母の言葉と

"さがせ"という父の言葉。

それだけが確かだった。


■■■


「ナイフが消えただと!?こいつ、まさか...」



「あぁ、これはあの方に報告しなくては」


男たちは狼狽ろうばいした声をあげた。


だが、最早決してその声を聞く、いや聞ける者はここにはいなかった。


■■■






見た事のない景色だ。

目が焼けるような白がどこまでも続く。


自分の呼吸の音のみが部屋に共鳴する。


カイは混乱を押し殺し、自分の中で状況を整理する。


ーーー何の部屋だろう。

僕は何をしていたんだろう。

そうだ、親父、お袋...


ようやく自分の置かれた状況を理解し、嚥下えんげする。


カイは正真正銘一人になった。





ーーー全く実感が湧かない。

一人ってなんだ?

孤独ってことか?

僕はもう誰にも頼らず、生きろってことか?


そんなとめどない思考がカイを襲う。





思わず足をバタつかせる。


しかし、全く動かない。

まるで足が脳信号を拒否しているかのように。








足元を見る。


足枷がめられている。


意味不明な状況に脳の処理が追いつかない。




ーーーな、なんなんだよ...




もう一つ確かなことは


酷く固い、大理石のような仰々しいイスに座らせられていることだ。


動こうとしたが、身体がイスに癒着ゆちゃくしたように動けない。


どうやら手錠もめられているようだ。








カイがしばらくもがいていると、一人の男が入ってきた。


不敵な笑みを浮かべた色白の男だ。

反対に目は黒く、不気味さを感じる。

男はその青白い唇を開く。













「やぁ、カイ君。クレインクレイドルへようこそ」

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