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クレイン・クレイドル  作者: 倉利来
第1部幕間①:狂気の内側
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第23話 特殊任務

小鳥のさえずりと、窓から注ぐ柔らかな日差しがカイを優しく起こす。


「ふわぁぁぁ……」


大きく伸びをした。

今日は特殊任務当日だ。


相変わらず重い体を起こすと、寝癖のついた頭で朝食を玄関前へ取りに行く。


「朝食と夕食だけは、勝手に玄関前に置いてあるんだよな……」


カイは食べながら愚痴をこぼした。

昼食は食堂へ行かなければいけないのに。


「まあ、その食堂のおかげで普段あんまり話せないグラシィと話せるからいいか。」


訓練所が別である彼女との交流は食堂くらいしかないのだ。


カイは食べ終わると諸々の支度をして、部屋を後にした。


■■■

気の遠くなるような白さの廊下をひたすら歩いていると、青髪の少女とすれ違った。


一瞬こちらを見られた気がする。

カイは話しかけられるのが苦手なので、顔も見ずに早足で去った。


(なんでこんな時間に他の人がいるんだよ……でも妙に懐かしい気がしたな。)


そんなことを考えながらエレベーターの前に着く。

階層のボタンを押し、最上階へ向かう。


気の遠くなるような道中だ。

家族と"3人で"行った日本一高い建物など比べ物にならない。


うとうとしていると、無機質なアナウンスで起こされた。


「最上階、特殊任務発着所です」


カイはその声で「ハッ」と我に返り、エレベーターを後にする。


(やばいやばい。ボーッとしてたら危うくまた戻される所だった。さすがにまた往復5分もかけて昇るのは地獄だ。)


白い廊下から一変して、黒い光沢のある廊下を進むと機械的な扉が現れる。

カードキーでそれを開くと一気に冷たい外気が流れ込んできた。


(さ、さむっ!ち、地上1000mはダテじゃないな……)


カイがぶるぶる震えていると───


「おーい!遅いじゃないか!カイ!」


相変わらずの大声でカナタが手を振る。

暴風の中ですらちょうどよく聞こえた。


「お、おお前、よよく、へへ、へいきだな」


歯と唇と身体全体を震わせながら話す。


しかしカナタは「ん?」と首を傾げるだけだ。

彼にとっては丁度良い気温なのかもしれない。

もっとも、カイは死にそうだが。


「あー、お前ら、寒いから早くヘリコプターに乗るぞー」


モルト教官が気だるげな声でカイたちに話しかけた。

カナタはそれに平気そうに従うが、カイは少女のように両肩を抱きながらヘリコプターへ向かうのであった。


■■■

「あ、あったかーい」


ヘリコプターに乗るや否やカイがホカホカと顔を緩めて呟く。

周りには花が浮かんでいるようだ。


一方のカナタは怪訝そうにずっとこちらを見ているが。

なんなら、制服をパタパタさせて暑そうに扇いでいる。


油断しきっているカイを現実に引き戻そうとしたのだろうか。

モルト教官は運転しながら唐突に話し始めた。


「あー、今日は密林地帯での任務だ。んー、敵の数は多くないが、事前調査によれば中々の精鋭らしい。まぁ、お前らなら大丈夫だろ」


ついでに「ハッハッハッ」と最後に乾いた笑いをつける。


カイはそれを聞いて一瞬で表情を呆れ顔にした。

任務にこれから挑む現実よりも、モルト教官のいい加減さが気になったのだ。

そのままモルト教官に返す。


「相変わらず適当ですね……」


すると意外や意外。

モルト教官の口調が真面目になる。


「んー、そんなこともないぞ。こう見えて、俺、いや上はお前らの事を高く買ってるんだ。特にカイは地雷除去訓練の時、ドリィの事を助けただろ?あれは上も大層評価していたぞ」


カイは彼の口調とその評価に二重で驚く。


「ええっ!地雷を踏んだ人間が死んだとしか言ってないのに!」


「ハッハッハッ。お前らを監視してない訳が無いだろ。上にドローンがいたことに気付いてなかったのか?」


「俺は気付いてましたけどね」


カナタがすかさず付け加えた。


(こ、こいつ。どこまで優秀なんだ……)


カイは相変わらず視野の広い親友に辟易した。


(というかドローンがあるなら助けてくれればいいのに……まあ、僕もドリィも結果的に無事だったからいいけどさ。)


結果的に無事だったことしか覚えていないが。


そんなカイの愚痴を遮るようにカナタが話しかける。


「おい、カイ。今日は頼むから周りをしっかり見てくれよ。お前のゲーム機を買うために俺がわざわざ特殊任務紹介してやったんだから」


カイはそれを聞いて先ほどの劣等感の影響か、拗ねてしまった。


「わ、分かってるよ。てか、タリルがないと買えない方が悪いんだもん!」


そう、今回の特殊任務はスウォッチのヌテラティースのために受けたのだ。


「ハァ……」


カナタの深いため息が聞こえた。


■■■

窓から地上を見下ろすと深緑が段々と近付いてくる。


どこを見渡しても生命が溢れている、そんな気がした。


「あー、お前ら着陸準備しとけよー」


「「はい!」」


ヘリコプターは比較的開けた場所に着陸した。


そのまま、三人は扉から降りる。


カイは降りるや否や、鬱蒼と生い茂る緑の暴力が目に入った。

改めて自然の恐ろしさを実感する。

人間以上に。


気付けば段々と心臓の鼓動が速くなっていた。


(どうしようどうしよう。ヤバい虫とかヤバい蛇とかヤバい猛獣とか……)


その心配を遮るようにモルト教官が軍服を渡す。


「あー、この軍服はな、周りから完全に皮膚を遮断する構造になっている。んー、首元だけは注意しろよ。あー、あと猛獣用の麻酔銃も渡しとく。まあ、この辺では滅多に見ないから杞憂だがな」


カイの自然に対する心配は全て克服されたようだ。

しかし、いつもよりズッシリとしたその軍服に違和感を覚える。


(なんか重いような気が……まあ、機能が充実していれば当然か。)


心配事と疑問がなくなりカイは再び先刻のようなホカホカ顔に戻った。


カナタはそんな様子のカイを先刻のように怪訝そうに見る。


「ん?なんだその顔。これから人間という恐ろしい猛獣を殺しに行くんだぞ?」


カイはハッとし、モルト教官に向かって手を上げる。


「教官!その麻酔銃は人間にも効きますか!」


「んー、射程がないから無理だな」


カイは大きくうなだれた。


■■■

軍服に着替えているとモルト教官が急に近付いてきた。


「なあ、カイ」


「な、なんですか?」


カイは慌てて胸と股間を隠す。


「お前、胸は必要ねぇだろ」


モルト教官のため息が聞こえた。


「あー、そんなことより、お前最近変な夢とか見てねえか?そのーなんつーんだ、"白い夢"とか」


(……ん?なんでそんなことを?変な夢なら見るけど、白い夢は"一つも"見てないな。)


カイは以前の謎の男の悪夢や、幼い少女を庇う夢しか覚えていなかった。


「いえ、全くこれっぽちも見てません」


カイは首を横に振りながら答えた。


「あー、そうか。ならいい。じゃあ、俺は一旦帰るからな。まあ、テキトーに頑張れ」


そういうとモルト教官はそそくさとヘリに乗り込んでしまった。


(相変わらず変な人だな……)


疑問に思いながらもやけに重い軍服に着替える。

カイだけ以上に着ぶくれしているようだった。


■■■

二人は空の光がほとんど通らない、薄暗い緑の中を進んでいた。


もちろんカイはカナタの後ろを隠れるようにして進む。

体が大きいから助かる。


しばらく進んでいると、カナタが突然振り向き小声で話しかけてきた。


「おい、カイ。お前そんなんでいいのか?グラシィとドリィに良い所見せられないぞ?」


「な、なんでその二人が出てくるんだよ!てかさ、別に今は隠れててもいいだろ……」


最初は強気だったのに段々と語尾が沈んでいく。

情けないと自分でも思うが仕方がない。


カナタは歩みを止め、そのままため息混じりでカイに向かって話す。


「お前さ、二人見る時と他の女子見る時で顔違いすぎんだよ。"何年"お前の親友やってきたと思ってるんだ。明らかに恋する男子の顔だぜ?まぁ、二人っていうのが贅沢だけどよ」


カイには全く自覚がなかった。


(そんなに僕顔違ったかな?)


だが、それ以上にしゃくなことがある。


(というか、カナタの観察眼はやっぱり異常だな。やっぱり架魂カコンの力かな……)


自分よりカッコいい架魂カコンに苛立ってしまった。


カイはまたもや劣等感を感じたのか口を尖らせながら言う。


「残念でした!僕はどっちも可愛いと思うけど、どっちも好きじゃないですー!」


「そうかよ」


カナタはカイにあっさりとした一言を告げて、再び密林の奥へと足を進める。


(本当に好きじゃないし……てか、カナタの顔ニヤけてたな。やっぱり癪だ!)


カイも頭を抱えながら後を追うのであった。

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