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クレイン・クレイドル  作者: 倉利来
第1部第5章:幸福は、流れる
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第19話 太陽との抱擁

ここクレイドルレジャーパークは遊園地とショッピングモールが融合した施設だ。


カイが以前家族と行った、ネズミが支配する夢の国よりも遥かに大きい。

入り口をグラシィと共に通り抜けたカイはふと思う。


「この組織、どんだけ金持ってんだよ……あ」


心中で言ったつもりが漏れてしまった。

グラシィに笑われる。

照れながら、様々なアトラクションを吟味していると───


突如、二の腕が引っ張られる感覚。


「ねぇ、カイあれ乗ろ」


ドリィは強引にカイの腕を掴み、スタスタと早足に進む。


「ちょ、ちょ待って……ちょ、待てよ」


危うく転びそうになる。

必死に"偉人級アイドル"の真似をして止めるが彼女の足は止まらない。

されるがままに連れ去られる。


歩いていると突然、ポケットに振動が。

スマホを見ると唯一の組織内連絡手段、"ルイン"の通知が来ていることに気づく。


「後は頑張れ!( -`ω-)b」


よく分からない絵文字と共に親友から無責任な言葉が送られていた。


(頑張れってなんだよ!!!)


カイは頑張るより先に、強引なドリィに既に諦念していた。

向かった先は───


「★ビッグバン★」


と書かれている超急降下ジェットコースターだった。

明らかに死を覚悟するレベルだ。


「こう見えて絶叫系が苦手なんだよ……」


カイは別に意外でもない呟きをする。


それと同時に体が勝手に別のアトラクションの方へ動いていた。

だが、そんな挙動を遮るように───


ぐいっっ!!


再び二の腕が引っ張られる恐怖!


「ねぇ、またワタシのこと避けるの?それとも……」


(な、なんだよ……)


カイがそう思った刹那───


「こーわーいのぉ????」


ドリィが急に幼女の様な声で煽ってくる。


「こ、怖くねぇし!もっとやべぇ乗り物の方が楽しいと思って体が勝手に動いただけだし!」


カイはイライラしたのか得意の反射神経で答えた。


「ぷ、……あはははは!」


ドリィが盛大な笑いをこぼす。

カイは耳まで真っ赤になってしまった。


「じゃあ、いこ?」


ドリィに手を繋がれて、カイは乗り込んだ。



「し、死ぬかと思った……」


カイはまた青白い顔に逆戻りした。

ドリィの黒いレースの服が余計際立って見える。

そのドリィはと言うと───


「あー楽しかったぁ!ねぇカイ!次はあれ乗ろうよ!」


左手に写真を持ちながら、右手でクレイジーローリングというアトラクションを指差す。


(流石に限界だ……)


カイは係員からもらった写真を改めて眺める。

ドリィは笑顔だが、自分はゾンビのような表情をしていた。


(なんでドリィは平気なんだよ……いや、そんなことを考えている場合じゃないか。)


カイは立ち止まって意を決し───


いや、おそるおそる尋ねる。


「あ、あのさ。怒ってないの?」


死を覚悟するほどの強烈なアトラクションに乗っていなければ、

恐らく質問できなかったはずだ。

それを聞いたドリィは、切れ長の目を優しくした。


「怒ってた。怒ってたけど、もう怒ってないよ。」


「そ、そうなんだ」


カイは安堵する。

だが、それも束の間だった。


「あのさ、なんで怒ってたか分かる?」


ドリィの表情は優しいが声には若干の鋭利さを感じる。


(なんで怒ってたか?そんなの決まってる……)


「僕が、自分の命を軽く扱って、ひ、人を刺したのに笑ってたから……」


「はぁ……」


ドリィが盛大にため息を漏らす。


(え、違うの?)


カイは混乱していた。


「違うわよ。それもあるけど、それじゃない。あの時はワタシを助けてくれたし……」


ドリィの声は以前と同じように尻すぼみになっていく。


(なんか最後に呟いた?)


恐らく気のせいだろう。

カイは数週間前からの自分の行動に思考を巡らせる。

特に目立つ行動はしてない。というか何もしていない。

そう、何もしていないのだ。


(まさか……)


とある考えがカイの脳裏によぎる。

直後、その思考が確信に変わった。


「なんでワタシに話しかけてくれなかったの?な、なんでワタシが近くに行くと、

すぐカナタの所に行ったの?なんで……」


ドリィは言葉を詰まらせる。


「なんで、ワタシと目を合わせてくれなかったのよ……ワ、ワタシはずっとカイと……」


その漆黒の瞳が大きく揺れる。

今にも小さな雫がこぼれ落ちそうだった。

次の瞬間、カイは思わず───


ドリィを抱きしめていた。


「ごめん、ごめん……ドリィ。気付いてあげられなくて……」


カイは気付けば声を震わせて、謝っていた。

彼女の良い匂いがどこか懐かしさを思い出させる。

そのせいで、最初に泣いたのはカイの方だったのかもしれない。


■■■

何十回、何百回謝ったか分からない。永遠にも思える時が流れ───


「もう、結構大胆なんだね……」


ドリィの挑発ともとれる声でカイは我に返る。


「ご、ごめん」


カイは慌てて離れる。


「もう、別にいやじゃないのに……」


少し気まずい沈黙が訪れる。だが、それも心地よかった。

こうしてドリィとの距離が戻ったのだから。

だが、直後───


「おーい」


良く通る声がその愛おしい沈黙を破った。

二人共慌てて写真を後ろに隠す。


「おー、何かあったみたいだな?」


ニヤニヤしながらカナタが話しかけてくる。

それに対し、珍しくドリィがもじもじする。


「べ、別に何も……」


後ろにはグラシィがいる。

心なしか、不機嫌そうだ。


(ムスッとした顔も絵になるなぁ。)


恐らく、カナタに乗りたくもないアトラクションを連れ回されたのだろう。同情する。

カイはカナタに向かって、意を決して答えた。


「別になんもねーよ」


その顔は───


満面の笑みを浮かべていた。

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