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クレイン・クレイドル  作者: 倉利来
第1部第5章:幸福は、流れる
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第18話 茜刺す予兆

3日後カイは私服───11歳とは思えないほどの可愛い服に着替え、カナタと共に"施設内の電車"に乗り込んでいた。


「屋内に電車があるって、アメリカ支部はやっぱり異常な広さだな……」


次いで、カイは両手を広げマッドサイエンティストのように仰々しく言う。


「ビッグイズエクセレントだ」


「……なに言ってんだお前」


カナタがカイのことを白い目で見つめる。


そんなカナタに集合時間やその他諸々は任せていた。

ドリィが恐ろしいからだ。


カイは、反対にグラシィとは話したかった。

だが、グラシィの訓練所へ行こうすると即座にカナタに止められた。


『やめとけ、殺されるぞ。骨は拾いたくない』


あの見た目だ。

恐らくドリィと話している以上に、周りから痛烈な視線───いや、それを超えて直接的な危害を加えられる可能性があるのだろう。


もちろんカナタはその後、カイのカコンについて思い出し慌てていたが。

カイは面倒事の予感がしたのでやめておいた。


それを思い出すと同時に、少し嫌な気分になる。


(ああいうタイプの女の子は根強いファンが多いからな……)


ドリィは広く人気があるタイプ。

グラシィは狭く深い人気があるタイプだろう。


そんな回想をしながら長い間揺られていると、無機質なアナウンスが聞こえてきた。


「クレイドルレジャーパーク前です。クレイドルレジャーパーク前です」


それに従って席を立った。

カイは三半規管が弱いのでまだ揺られている気がしたが、カナタに悟られたくないので平静をよそおった。


■■■

「うっぷ」


「どうした?カイ。酔ったのか?」


ドアから降りると、カナタが心配そうに話しかけてきた。

先程の強がりは無駄だったようだ。

降りた瞬間に強烈な吐き気をもよおす。


カイは前日の睡眠の質によって、酔うか酔わないかがジャッジされる。

もちろん、昨日は緊張して3時間ほどしか眠れなかった。


「だ、大丈夫だし……このくらい余裕だし」


カイはなお強がるも、青白い顔で答えた。


10分ほど歩くと、集合場所についた。

幸いなことに、外の空気を吸っていたら酔いも完全に治ったようだ。

運が、いや神が味方してくれたのだろうか。


相変わらず、やけに新鮮な朝特有の空気を吸いながら辺りを見渡す。

まだ誰も来ていない。


そう、知り合いどころかまだ一人も来ていないのだ。


それを確認し、カイはカナタに怪訝な顔を向ける。


「お前、何時集合にしたんだ?」


「10時だな」


そう言われて、カイは改めてチケットを懐から取り出し、見直した。

10時OPEN!と書かれている。


(部屋を出た時間帯と全く合わない!)


時計台も9時前を示している。


カイは自分の浅はかさを恨んだ。

もちろん、カナタをそれ以上に恨んだ。


「お前、時間間違えただろ?」


カイは睨みながらカナタに言った。


「テヘへ、バレちゃった?」


カナタは別に可愛くもない顔で答えた。


■■■

カイはため息を吐きながらベンチに座った。

しばらく、いや2~3分ボーっとしているうちにパスカルの言葉が頭に浮かんだ。


『人生は暇つぶしの連続である』


(僕は暇が嫌いだ。何かしていないと落ち着かない……)


「って、暇を潰すものがない!」


カイは一人で絶叫する。


隣を見ると、カナタは縁側でひなたぼっこをする老人のようにボーっとしていた。


「お前、よく黙っていられるな」


「んー?そうかー?」


カナタは聞いているか聞いていないのか分からない声で、目を細めながらそう言った。


(コ、コイツのこの顔だけはイケメンじゃない。それどころかバカみたいだ……!)


大体の糸目キャラは完全に糸目だが、カナタの顔は目が悪い人間が視力検査で無理やり答えを探そうとしている表情に近かった。

目が半開きで、シワが寄っている。

それも含めて本当に老人のようだ。


カイは親友の弱点を見つけ、愉悦する。


この顔を見ているだけで常人なら暇は潰せるだろう。

しかし、カイには無理だったので、暇つぶしの方法について考えた。


「くそう、スマホはあるがゲームのスタミナは全然回復してないし、イヤホンを忘れたからアニメも見れない。どうすれば……仕方ない。腹を括ろう!」


カイはなぜか決意していた。

暇つぶしのために決意するというのは、

少々、いや大変不本意ではあるが。


決意の理由は父からの遺品、ライトノベル「サンタとサタン」にある。

表紙にはサンタコスと悪魔コスをしているずいぶんとご立派な美少女が描かれている。

一見、"ハーレムもの"に見えるのだが───


実際はそんなことは無い。

百合作品だ。男は一切出てこない。

父との会話を思い出す。


『ここの聖子ちゃんが、亜美ちゃんのベッドに……』


『やめろやめろやめろ!』


カイは慌てて叫んでいたのを思い出した。


「今思えば親父の形見がこれか。まぁ、親父らしいな。」


思わず口角が上がる。


(ん?久しぶりに笑いそうになった……?)


まぁ気のせいだろう、とカイはすぐに流してしまった。


早速スマホのデータを開いた。

ちなみに、なぜかスマホのデータは引き継がれていた。

外部との連絡は一切取れないし、ソシャゲでも組織に関するワードは一切打てないが。


そんな疑問を抱えながら、久しぶりに表紙を眺める。


「作/イラスト:マリン・ヒバラ」


("海"と"日"ってペンネーム綺麗すぎだろ……しかも、絵まで書いてるのか。)


父は作者と友人だったらしい。


「……本当にどこまでも僕と違う人だ。」


思わず声に出てしまった。

その言葉は劣等感よりも感心に近かったかもしれない。


「サンタとサタン」は意外と面白く、ページをめくる手が止まらなかった。


ちょうど聖子と亜美が参加するコスプレイベントが開始される直前の、100ページほどまで読み終えると───


「す、すみませーん」


鈴の音のような、可愛らしい声が聞こえてきた。

カイは続きが気になったが、手を止めスマホをしまう。


そしてベンチを立ち、声の主に振り向いた。


そこには予想通り金髪の美少女がいた。

彼女は息を切らしながら走ってくる。


カイが気の利いた言葉を考えている矢先、開眼しきったカナタがグラシィに向かって返答した。


「おはよう、グラシィ。まだ10分前だし全然問題ないよ」


「よ、よかった……」


(クソッ!僕が先に声をかけようと思ったのに……てか、さっきまで糸目だったのにコイツの目はどうなっているんだ……?)


内心で悔しがっていると、グラシィがこちらの方を向いたので、慌てて返した。


「お、おはよう」


「おはようございます!」


(げ、元気だな。あと、白の服が似合いすぎる!髪も前よりツヤツヤで……)


少しニンマリしながら気持ち悪いことを考えていると───


「あら、みんな早いわね」


雲のような朗らかさと、それを刺す茜が混じったような声がカイの鼓膜を震わせた。

思わずビクっとする。


「ふふ、グラシィさんだっけ?よろしくね」


ドリィはそう言うとグラシィに微笑みかける。


「よ、よろしくお願いします。ドリィさん」


グラシィは人見知りなのだろうか。

若干の遠慮を感じる。


この距離感はこれでアリだろう。

カイはそう思っていたが───


「おいおい、堅苦しいのは無しだぜ!お互い呼び捨てでもいいだろ!」


カナタが初々しい空気をぶち破る。


「ふーん。カナタがそう言うなら。じゃあワタシはグラシィって呼ぶわよ」


「わ、私はドリィちゃんで……」


カナタの一言で距離が近くなったようだ。

カイは親友のコミュニケーション能力を妬んだ。


(ク、クソッ。僕だって頑張ればグラシィさんのことを呼び捨てに───)


「じゃあ行きましょうか」


カイのよこしまな気持ちを遮るように、ドリィはスタスタと足早に入口へ向かっていった。


「あ、待ってよドリィさん!」


カナタもそれに続く。


しかし、それに対してカイは一つ疑問に思った。


(なんでカナタはドリィだけ"さん"付けなんだ……?)


顎に手を当て考えていると、突然キラキラとしたガラスのような声が思考を遮る。


「カ、カイ君。行きましょう!」


「う、うん」


グラシィは相変わらず元気一杯である。

笑顔も満開である。

カイはグラシィに続いて行く───


いや隣を歩く。

心なしか、グラシィが自分に寄ってきているようにも思えた。


(なんでこんなに元気なんだ?星座占いで一位にでもなったのかな。)


カイの疑問は尽きない。



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