第15章 絶望の太陽
ドリィは眼前の光景に絶句していた。
何が起こったのか理解できない。
そのうちに生温く人の心を嬲るような醜悪な空気が自分を覆い初める。
それが否応なしにある事実を無理やり認識させた。
(う、うそ……カイ、なんでワタシのこと……)
ドリィはただ、友人が自分を庇って死んでしまった事に絶望した。
もちろん、目の前の男が自分に向けている殺意には気付かずに。
「つ、次は嬢ちゃんの番だぜ……す、すぐ終わるからよ……」
男が血で染まりきったナイフを舐めながらゆらゆらと自分の方へ近付く。
だが、その漆黒の瞳は現実を見ていなかった。
(カ、カイ……ようやくあなたのことが分かりそうだったのに、なんで……)
ようやく出会えた本当の友人。
それも下心無しで向き合ってくれた友人を喪失したことに、ただただ虚無になっていた。
「ヒ、ヒヒッ。よく見れば殺すのが勿体無いくらいのべっぴんさんじゃねぇか。これは一つ最後に楽しんじまうか……!」
男が刃物を自分の頬へ近付けるのが見えた。
鋭い痛みが走り、赤い雫が地面に零れ落ちる。
その痛みが自分をようやく現実へ引き戻した。
今、目の前の男が自分を殺そうとしている現実に。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
自分でも驚くくらいの悲鳴が出た。
死を感じた生物的本能からだろうか。
「う、うるせぇぞ!!おじさんのことが嫌いなのかよ!わ、分かったぞ!まずは気絶させて、それから……」
男がナイフをしまったのが見えた。
それも束の間、男はその血管の浮いた不気味な手を自分の首元にあてがってくる。
そのまま、その両手に力が込められた。
自分の体が持ち上がる。
「───ッ、ッッッ!!」
声が出ない、
力が入らない、
呼吸ができない、
世界が歪み始める。
「も、もうすぐおじさんと楽しいことができるからね、ふ、ふふふ……」
その言葉を聞いてドリィは悟った。
(あぁ、ワタシここで死ぬんだ。両親と妹にもっと、愛してる───いや、愛してもらいたかったな。)
意図せず不快な記憶が込み上げる。
上辺だけの友人。
愛想良くしていれば、みんな勝手に好きになってくる。
見せかけの愛を注ぐ両親。
妹ばかりに本物の愛情を注ぐ。
打算的な妹。
自分に懐けば仲睦まじい姉妹だと両親が褒めてくれる。
カイは───
(カイ、あなたならワタシのこと……)
そう思った直後、不意に首を絞める手が緩まる。
疑問に思い、目線を下に落とす。
すると、男の腹部から刃物と共に赤い液体が零れ落ちているのが見えた。
「……ん?」
男が間の抜けた声を上げる。
しかしそれも束の間。
「な、こ、これはい、いだっ。いだいいだいいだいいだい!!!」
その声が聞こえたと同時にドリィは地面に落とされた。
地球と体がぶつかる痛みよりも息ができる事実に安堵する。
世界が形を取り戻し始めた。
しかし、その安堵はすぐに驚愕に変わる。
(な、なんで……嘘でしょ?)
そこには男を嘲笑するカイの姿があった。




