第14話 霧は不穏とともに
カイとドリィは担当地区へ進んでいた。
他の子供達も同様にそれぞれの担当地区へ進む。
道中、ドリィは明るく話しかけてくれていた。
だが、カイは時々空返事になっていた。
そのせいでドリィに何度か、「ねえ、聞いてるの?」と睨まれてしまった。
その度にカイは謝罪をした。
謝罪をする度に、ドリィはまた上機嫌になる。
意外とドSなのかとカイは思ってしまった。
空返事の理由は、カイはこの市街地を一種の閉鎖的な洞窟であると感じていたからだ。
そんなやり取りを経て二人は担当地区にたどり着いた。
カイは改めて辺りを見回す。
不気味な静けさがここを市街地ではないと錯覚させる。
人の気配は全くなく、家屋は淀んでいるように見える。
カーテンも閉まっていて、不自然だ。
辺りには、僅かに霧が立ち込めている。
コウモリがいつ飛び出てきてもおかしくないと感じた。
(まるで昔見た魔法映画の冒頭みたいだ。)
恐らく、事前に政府を通じてクレインクレイドルが命令しているのだろう。
カイは、そう予測した。
組織の対策は万全である。
カイは軍服に付いているピンマイクが喉に触れる度に、息が詰まりそうになった。
(万が一住民に組織の内部情報を漏らしたら、一発で消されるだろうな……)
現状からして杞憂ではあるが、足取りが重くなる。
「無いねー地雷」
カイは突如聞こえた気だるげな声で我に返った。
隣を見るとドリィが面倒そうにアーリスで地雷を探していた。
(ドリィは緊張感がないのか……でも、お陰で気が楽になった。)
「う、うん。モルト教官が元々多くないって言ってたもんね」
カイは、ドリィの存在がこの不気味な霧を中和していると感じた。
そのお陰で地雷処理とは程遠い、緩い会話を続けることができた。
カイにとってドリィと2人きりなのは悪くない。
いや、実に幸せな気分だった───
調査の区間が5kmであることを除けば。
(範囲は広いけど、確実に進んでいこう。時間が沢山あるから焦る必要はないな。)
■■■
2kmほどドリィとのんびり会話しながら地雷探索をしていた。
しかし、そんな和やかな雰囲気を遮るようにふらふらと酔っ払いのような人影が霧の向こうから姿を表す。
(こんな時に外出している人間がいるのか……?妙だな。)
カイの不安をよそにドリィが大きな声で呼びかける。
「すみませーん!今は外出自粛命令が出ているはずでーす!家に戻ってくださーい!」
こういう時決して声を出せないカイは、ドリィの一声に感激する。
だが、その呼びかけを意にも介さず人影はみるみるこちらに近づいてくる。
まるで何かの獲物を狙っているかのように。
意図的に。
「ほんとに危険ですよー!ここら辺地雷あるかもなのでー!」
ドリィは再び呼びかけるが、一向に男が止まる気配は無い。
(日本語が分からないのか……いや、今のアメリカでそれはありえない。)
カイが顎に手を当てて考えていると、突如男が立ち止まる。
男は病的な双眸を見開き、ドリィに向かって言い放った。
「お、お嬢ちゃん……悪く思うなよ!」
突如、男の懐からナイフが飛び出す!
ドリィはあまりの衝撃に状況が整理できず、魂が抜けたかのように動けない。
(なにやってんだ!こういう時に限って反応が鈍いなんて!)
カイの反射神経が作動する。
アーリスを投げ捨て咄嗟にドリィを押しのけるが、次の瞬間───
「───」
(あ、つ、熱い。熱い熱い熱い熱い熱い……い、たいのか?)
脳が痛みを認識し始めた途端、刺されていることに気づいた。
激しい熱さが継続する痛み。
一瞬では無い、確実に生命を死に至らしめる痛み。
爆死とは違う、脳が痛みを認識することを拒絶できない痛み。
カイは"初めて"味わう痛みに絶望した。
視界が揺れ、呼吸がままならなくなる。
いや、呼吸をする度に吐血してしまう。
命が、確実に削られていくのが分かった。
足の力が抜け、膝をつく。
男が自分からナイフを抜く。
同時に全身の力が血液と共に抜ける。
それが決定打になったのだろうか、その場になすすべなく倒れ込む。
カイの意識はそこで暗闇に沈んだ。




