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クレイン・クレイドル  作者: 倉利来
第1部第4章:命の価値
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第13話 枯草と太陽

悪夢のような訓練から数週間が過ぎた。


孤独の、いや地獄の日々が続いた。

うんざりとした記憶を思い出しながら制服に着替える。


「あの訓練以来、カナタとは一度も話していないな……」


座学は基本一人で受けているから問題はない。

得意であるのも理由の一つだが。


しかし、実践等の合同演習は───

正直かなり苦労した。


その理由は、もちろんペアがいないからである。

周囲は自分には見向きもせず、カナタばかりを気遣う。

普段から周囲に話しかけていない、いや、話しかけれない自分も悪いのだが。


そんなことは関係なかった。

カイの、カナタへの憎悪は日に日に増すばかりだ。


まるでどこにも居場所のない枯れ草、それもドス黒く枯れた雑草のような日々を過ごしていたが───


『カイ君!一緒にペア組も!』


突如、日輪のような少女が話しかけてきた!


「ドリィさんには感謝してもしきれないな……男子からの視線は怖いけど。」


ドリィは人気者なので、そういった注目を集める人物から話しかけられると、どうしても視線を集めてしまう。

もちろん、嫉妬のたぐいであると思うが。


カイはドリィとの思い出に浸りながら、服を着替え終わる。


そのまま、一抹の───

いや多くの不安を抱えながら部屋を出た。



■■■

雪目になりそうな、どこまでも続く白い廊下を歩く。

ふと目を閉じると、残像とともに今日の訓練内容が脳裏をよぎる。


「今日は地雷除去か……正直、危険すぎてやりたくない。」


だが、逆らえばどうなるかは身に染みて分かっている。

否応なしに、分からせられた、といった方が正しいだろうか。


周囲も日に日に減っていく人数を見て察しているようだった。

改めて組織の残酷さを認識し、足が震える。


だが、悠長にしていられないので必死に実技場へ足を進める。

とてつもない牛歩ではあるが。


到着したと同時に重苦しい扉をカードキーで開けると───


「あー、今日は話していた通り、地雷除去の訓練を行う。んー、危険も伴うが、帰ってきた暁には

レジャーパーク一日行き放題チケットが配られるから頑張れよ」


相変わらず間の抜けた声でモルト教官が訓練の説明を行っていた。


(やべ、遅刻してたか……)


定刻通りに部屋を出ていたと思っていた。

しかし、考え事、主に不安についての思慮をするあまり足が止まっていたようだ。


「あー、あと念の為ナイフとかの基礎装備も……って今来たのかよカイー、遅いぞー」


「ご、ごめんなさい」


カイは震える声で目を伏せながら言う。

以前の威勢は微塵も残っていなかった。

周囲の笑える声が聞こえ余計に萎縮してしまった。


「んー、まぁいい。お前は着いたら着替えろ。よーし、これで全員揃ったなー。バスに乗りこめよー」


その言葉がカイの既視感を掘り起こさせる。


「この状況どこかで───」


刹那、カイの脳を苦痛の記憶が容赦なく襲う。

体が鎖で雁字搦めに縛られた。


「ッ!!!足が1歩も動かない……呪いでもかけられたっていうのか!」


そんなカイの苦悩を気にもせず、気付くわけはなく、カナタは迷わず乗り込んでいた。


「クソッ!なんでアイツは何事も無かったみたいに!僕はあれだけ苦しんだのに!」


カイは怒りを込めて鎖に抵抗する。

だが、全く身動きがとれない。

脳が送る電気信号を体中の筋肉が拒否しているようだ。


しまいには手足が震え、呼吸が乱れる。

今にも世界がぼやけ始め、遠く───


「もう、カイ君、ワタシが近くにいるからってそんな緊張しなくていいのにぃ」


突如、ドリィがひょっこり顔を出し、あざとい笑顔を浮かべながら話しかけてきた。


「いや、ちが……」


カイが反論しようとした刹那──

その鎖が解き放たれ、まるで、花畑に包まれたように安堵した。


(な、なんだったんだ……でも、とりあえずドリィさんの勘違いのお陰で動けるようになったぞ……不本意だけど。)


安堵したのも束の間。

ドリィは強引にカイの手を引くと「いこ!」と、眩しい笑顔を向けながらバスへ連れていった。


平時ならためらうはずだが、今回は違った。

彼女の足に自然と体がついていく。

カイは心の奥底で『ありがとう』と呟いた。


■■■

ドリィに手を掴まれながらバスに乗り込み、カイは隣に座った。

隣人がいることに安堵したのも束の間───

男子からの痛烈な視線で我に返る。


カイの脳が反射的に狙われた草食動物のように覚醒する!


(よく考えたらこの状況、周りから恨まれても仕方ないじゃないか!)


「あ、あのドリィさん」


「もー、普通に呼び捨てでいいわよ、カイ」


カイは、先程の脳の覚醒が嘘かのように穏やかになった。

それもそのはず、カイは父の影響でグイグイ来られると冷めるタイプなのだ。

カイは極めて冷静な口調でドリィに問いかける。


「じゃあドリィ、なんで僕の隣に座ったの?」


ドリィが嬉しそうにこちらを見て話す。


「んー、なんとなく?カイって他の男子と違って威圧感ないし、それに……」


終わりにかけて段々と言葉が尻すぼみになる。

カイは気になったが言及しないことにした。

それ以上踏み込む勇気がなかっただけだが。

そんな小事を経て、バスが出発する。


■■■

普段なら騒がしいはずだが、今日のバスは妙な静けさに包まれていた。

地雷除去訓練と聞いて緊張しているのだろうか。

だが、そんな静寂をものともせずドリィが切り出す。


「あのさ、カナタ君となんかあったの?」


ストレートな質問にカイは一瞬戸惑う。

だが、同時にこの質問はカイにとってはありがたかった。

他人に、ドリィのような太陽に気遣ってもらえるのは暖かさを感じる。

誰も気遣ってくれなかったせいか、その暖かみは段違いだ。


「やっぱり雰囲気で分かっちゃうよね……気を遣わせてごめん。」


カイは、ドギマギしながらあまり目を見ずに精一杯の感謝を伝えた。

するとなぜかドリィは不思議そうに返した。


「あ、いや謝らなくていいの。ただワタシにできることがあればいいなって」


(謝った、だと……?)


カイは、自分の感情とは裏腹に謝罪が出ていたことに衝撃を覚えた。

母の言葉が自然と脳裏に浮かぶ。


『もう、すぐに謝るんだから。そんなごめんごめん言ってたら、こっちも謝りたくなっちゃうわよ』


懐かしい思い出に安堵しようとしたのも束の間。


『───んは、───に───ね!』


突如、脳が"誰か"の靄に支配された。


「……ッッッ!!!」


(一体なんなんだよ!!僕の中に誰かいるとでもいうのか……?)


ドリィは、頭を押さえるカイを心配そうに覗きこむ。


「……カイ?車酔いでもしたの?」


カイはそれを受けて声を絞り出した。


「だ、大丈夫。僕こう見えて、乗り物強い方だから」


「そう?」


嘘である。

カイは母親の遺伝で乗り物に滅法弱い。

前日の睡眠時間にもよるが。

そんな些細なことは気にせず、ドリィは続ける。


「あ!そういえば第二訓練所の───ちゃんがさ……」


カイが誰かに自然と"ありがとう"を言える日は来るのだろうか。



ドリィはカイの性格を鑑みてか、よく話してくれる。

心のざわめきが少しずつ消えていくのが分かった。

リラックスしている状態の時間感覚はあっという間だ。

気付けば───


「おーい、到着したぞー」


今回はしっかりと乗車していたモルト教官の呼びかけが聞こえた。

子供たちはぞろぞろと、気だるそうに降車する。

モルト教官のオーラでも移ったのだろうか。

カイもドリィに続いて降りる。


(今回は手を繋いでくれないのか……少し残念だな。)


■■■

カイが物陰で軍服に着替え、集合場所に戻ると唐突に───


「あー、このアーリスって機械を使って地雷探知するぞー」


モルト教官はそう言ってバスの腹から次々機械を取り出す。


「んー、じゃあ、めんどくせーからバスの隣のやつとペアな」


「相変わらず適当な人だな……」


カイはモルト教官の白髪混じりの頭を見ながら呟いた。


「だけどこれは嬉しいな、僕にとっては好都合だ。ありがとうモルト教官。」


カイはこっそり感謝を伝える。

面と向かっては絶対言えない。

カイはモルト教官の白黒より、もっと身近な赤を振り向こうと───


(ん?今カナタがこっちを見たような……?そんな訳無いか。見る必要が無いもんな。)


カイは気を取り直してドリィの方を向く。


「よ、よろしく」


「ん、よろしくね」


ドリィは芍薬にも似た華やかな笑顔で答えてくれた。


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