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クレイン・クレイドル  作者: 倉利来
第1部第3章:萌芽する何か
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第10話 少年の叫び

カイはカナタの言葉に目を見開き、その意味について熟考した。


(僕のため?どういうことだ?あんなに裏切られて、生きる意味を見失って、それで得たものは……)


カイの脳内に一つの結論が導き出された。

答えは一つしかない。


「僕にもカコンがあったんだね。」


酷く落ち着いた声で発した。

胸の中で起きている洪水とは裏腹に。


安堵とも悲哀ともつかない激情が入り混じる。

まるで、自分の価値を見つけたかのような、

それでいて、その価値を否定されたような、

そんな二律背反が胸中に渦巻く。


そして改めて、自分の言葉を反芻する。

先程の自分の言葉が脳内に焼き付いているようだ。


(僕にも、カコンがあるのか……)


嬉しいのか、怖いのか、自分でも分からなかった。

その一方で、確かな事実を認識していた。

それも、今日戦場に出されて初めて認識した事実。


それは、そこそこ頭が働く程度でこの非情な世界では生きていけないことだ。


そんな自分にも、カコンは存在していたのだ。

しかし、素直に喜べはしない。

内心で皮肉混じりに呟く。


("死"を恐れる僕にぴったりの力じゃないか。)


今回自分が逃げなかったのは状況のせいだ。

大事な人がいたなら逃げていただろう。

カイは、そう思っていた。


だが、カイは忘れていた。

父と母が殺された時、激情と共に突き進んだことを。

先刻の敵兵に特攻する中で覚えた"何か"を。


カイは本当に"死"を恐れているのだろうか……?


「それで?なんで僕に内容を教えなかったんだよ。僕が尻尾を巻いて逃げる前提だったのか?」


カイはカナタに冷たく説明を促す。


「……訓練の内容をお前に伝えていたら、きっと逃げ出していた。そう上は判断したらしい。」


その言葉は、カイの洪水を決壊させるのに十分だった。


「当たり前だろ!ふざけるな!カコンがあるから死ねって?死んでも大丈夫だから殺すのかよ!」


自分でも驚くほど大きい声が出た。

グラシィが口に手を当て涙目になっているのが見えた。

だが、言葉が止まらない。


「人の命は道具じゃない!そんな、価値の分からないやつがいるから戦争は終わらないんじゃないか!」


ついにグラシィが泣いてしまった。

女の子を泣かせてしまったのは気が引ける。

だが、叫ばないと自分が自分でなくなってしまう気がした。


「僕の……人の命を何だと思ってるんだ!死んでも生き返る?そんなのは普通ありえない。ありえないんだよ。このカコンは呪いだ……」


その声は次第に嗚咽交じりになっていく。


「分かってる。分かってるさ。お前も、グラシィさんも、命令されたに過ぎない。他の奴らみたいにレジャーパークなんかに釣られて無かった。」


カナタの震え、グラシィの翳りを思い出す。

だが、自分の心には酷い穴が空いていた。

思い出したところで埋まるわけがない。


「僕は、僕は───」


消えそうな声で呟く。


「もう、世界を信じられないよ。」


その言葉は、憂鬱な空間を更に貶めるには十分だった。

カナタは目を伏せたまま、一言「すまなかった」とだけ発した。

拳は相変わらず震えているが、本人だけはその事実に気づいていないようだった。


それから沈黙が続いた。

グラシィはずっと泣いている。

カイは申し訳なく思ってしまった。


彼女に非はない。

親友と違って隊を先導していたわけでも、自分を殺す合図をしたわけでもない。

それどころか訓練中ずっと悲しんでいるように見えた。

カイは声をかけようと───


突如、上空から空気を切り裂く音が聞こえてくる。

ヘリコプターは周囲を風で巻き込みながら着陸した。

扉からはモルト教官が出てくる。


「ようー、お前ら辛気臭い顔してどうしたー?」


カイは脳天気な一言に思わず叫びそうになる。

しかし、先刻の叫びで活力を使い果たしてしまった。


「あー、まぁそれもそうだな。あんなことがあったんだし。詳しくはヘリで説明してやるよ」


寂れた、殺風景な土地を後に3人ともヘリに乗り込む。

カイは、何か大事なものをそこに置いていった気がした。


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