第9話 親友の思い
カイは薄紫の眼差しで、身も凍らせるほど冷酷に眼前の人物を見つめる。
そして、そのままぶっきらぼうに言葉を放った。
「一応、話だけは聞いてやる」
カナタは俯いたまま、「ありがとう」と答えた。
握りしめた拳が小刻みに震えている。
反対に虚ろな瞳は焦土の一点を見つめている。
カナタの心はまるで、今この場所に存在しないようだった。
◆
流石の彼でも今回ばかりは、腸が煮えくり返った。
「どうしてですか!」
彼は非情な王に問う。それに対し、王は一言告げた。
「合理的な判断だよ。」
王はまるで彼の様子をうかがっているかのようだ。
一呼吸置いて更に説明する。
「こうでもしなければ、"少年"は自分の有用性に気付けないだろう。」
彼は反論しようとするが、それを遮るように王は続ける。
「それにいつまでも臆病なままでは兵力にならんだろう?"少年"のカコンは実用性があるのか、
何度でも生き返るのか、それを今回は試す。」
ようやく王の淡々とした説明が終わった。
しかし、それと同時に抑えていた激情がとめどなく湧き出る。
それが彼の口から意図せず溢れ出た。
「だからと言って、こんな……アイツはまだ11歳の子供です!こんなやり方では心が壊れてしまいます!
俺は……俺はようやく生きる意味を見つけたんです!アイツが俺の前からいなくなったら、俺は生きる意味を失う!」
これほど叫んだのは自分の人生で初めてだったかもしれない。
それもそのはず、彼は"少年"に他の人間には向けない感情を抱いていたからだ。
そのせいで言葉が止まらない。
だが、一呼吸置く。
自分は冷静だ。
そう言い聞かせる。
息を呑み、吐き出し、心の中の怒りという異物を取り除く。
そうすると、思考はクリアになり始めた。
(……むしろこれはチャンスかもしれない。交渉の余地がある。)
彼は、先ほどまでの激情が嘘であったかのように
冷静に話し始めた。
「どうしても今回の訓練を行うというのなら、一つ"約束"してください。」
王は彼の言葉に対して不敵な笑みを浮かべた。
「先ほどの叫びも含め、お前が私に口答えするとはな……フ、フフッ……ハッハッハ!面白い!聞いてやろう!」
なぜだろうか、王は彼の言うことに賛同した。
普段はあれだけ非情だと言うのに。
気に入られているのだろうか。
いや、王にとっては───に過ぎないのかもしれない。
突如、彼の思考が途切れ始める───
「カ───の───を、───ください。」
「それはできんな、"彼女"は私の───」
「では、どうすれば?」
「もし、"少年"が"彼女"を倒すことができたなら───」
◆
カナタはハッと気付く。
(俺は今、どこにいる?)
乾いた空気が、それを運ぶ風が頬を撫でる。
太陽の日差しがうるさい。
やけに口が乾いている。
そうだ、今からカイに話さなければ。
緊張などとっくに克服したと思っていたのに。
「どうした?早く言ってみろよ。僕を見殺しにするよりは簡単だろ?」
カイは今までにないほど冷たい声で自分に言う。
その声に威圧され、思わず息を呑む。
乾いた喉が余計刺激されるのを感じた。
しかし、それをきっかけに集中できた。
緊張という異物を中和する行為に。
(よし、大丈夫だ。)
その確信とは裏腹に、カナタは俯きながら震える唇を開く。
「今回の訓練はお前のためだったんだ」
ようやく発したその言葉に自分でも吐き気を覚えた。




