↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/252

魔獣と少女

 ラガルは足を止めた。


「……血の匂いがする。」


 森の奥から、かすかに風が流れてきていた。


「ナザレムに着いたら人を雇いたい。今のままじゃ戦力不足だ。」


 二人で竜に挑むには、明らかに戦力が足りなかった。

 

「依頼人はいい顔しないでしょうね。」

「知るか、黙ってればいい。そろそろ村に着くぞ。」



 村人たちは訝しげに見ていた。

 しかしメフェルの大きな杖を見ると、空気が変わる。

 やがて村長らしき初老の男が出てきてメフェルをもてなし出した。

 

「こ、これはようこそ魔術師様。」

「今晩ここに泊めていただけないかしら。」


「もちろんそれはいいですが……ただ横の亜人は。」


 村長が渋ると、ずいとラガルが前に出て威圧する。

 村長は怯えたように下がった。


「やめなさいよラガル。」


 その様子を見てメフェルが彼を咎めた。

 そんなやりとりをしていると、村の子供たちが集まってきて二人の観察を始める。


 

「あれが亜人?はじめて見た。」

「魔獣と人間の子どもって本当?」

 

「あっちに行ってなさい。」


 大人の一人に追い払われたが、それでも子どもはお喋りをやめない。そのうち一人の子がラガルではなくメフェルを指さして純粋な疑問を口にした。


「魔術師様も亜人なの?変な髪の色。」


 大人は焦り、魔術師様の目が届かない場所に子どもをいかせようとする。メフェルはそれらを気にした様子もなく、ただ、ふふと笑って言った。

 

「とって食べたりしないのに。」

「お前ら魔術師は魔術のためならやるだろう。」

「流石にそんな蛮行しないわよ。」


「俺にはやった。」


「ラガル……。」


 ただの他愛ないやりとり、その空気が一気に冷える。ラガルの鋭い睨みがメフェルを貫いた。

 そんな重苦しい空気は小さな子どものうち一人が近づいてきて切り裂かれた。


 その子どもは他の子どもの輪とは別のところにいた少女だった。随分とみすぼらしい格好をして痩せこけた頬をしている。


 少女はおずおずと口を開いた。


「お姉ちゃんたちは魔獣狩りなの?」

「ええ、そうよ。」


 にこりとメフェルは笑って答える。優しく答えたつもりだったが、何故か少女は思い詰めた表情をして自らの手を握りしめた。

 

「魔獣を倒す……。」


「なにかあったの?」


 メフェルが問えば、バッと顔を上げ一目散に駆け出す子ども。


「あっ!行っちゃった。」


 ラガルは小さな背を凝視する。

 すると先程の初老の男、村長が話しかけてきた。

 

「すみません、魔術師様。」

「いいのよ。」

 

 それまで少女の背を眺めていたラガルだったが、その背中が森の中に消えるとすぐにメフェルへ声をかけた。

 

「おい、それよりも追うぞ。」


「え?」

「あのガキ、血の匂いがする。」


 ラガルは低く唸るように言った。



 村の外れ、少し人の手が入った森の中。少女は茂みの側でうずくまっていた。その影には小さな黒い生き物が隠れている。

 

「ミア出ておいで……逃げなくちゃ。」

「くう。」


 ミア、と呼ばれた生き物は小さく鳴き声をあげると少女の手をペロペロと舐める。

 

「ふふ、いい子。」


 そのくすぐったい温もりに、少女が笑顔を見せたときだった。後ろから足音がして振り返るとそこには二人の魔獣狩りがいた。


「やはりな。」


 少女は慌てて生き物を隠そうとするがもう遅い。

 ラガルとメフェルが近づく。

 

「これは魔獣の子⁉︎今すぐ離れなさい!」


「きゃっ!」


 メフェルの声に、魔獣が毛を逆立てて唸る。

 ラガルが口を開いた。


「どうりで匂うと思った。おいお前、そこを退け。」

「ど、どいたらミアになにをするの!」

「みあ?名前までつけて人形ごっこか?それは魔獣だ、人間が飼い慣らせるものじゃない。」


「や、やめて!ミアをころさないで!」


「退けろ。」


 ラガルは少女を引き剥がそうとする。

 

「待ってラガル、話を聞きましょうよ。」


「は?何を言っている。子を探しに親がやってくるかもしれないんだぞ。」

「こ、こない!この子の親は死んじゃったから!私と同じなの。私も雨に一人で泣いてたから。」


 少女は悲しげな瞳でそう言った。メフェルは少女の様子に、声を柔らかくして話しかける。

 

「そう、同情したのね。あなたここでずっと匿ってたの?」

「お願い村のみんなには言わないで殺されちゃう。」

 

「獣の心は気まぐれだ、いずれ人を襲う。」


 少女の懇願など関係ないとラガルは剣を抜き、獲物へ向けて構える。


「ラガル待ちなさい!」


 咄嗟にメフェルがラガルを静止する。その声にチラリと目線だけで彼は答えた。


「その魔獣を殺してはいけないわ。」

「なぜだ。」

「なぜってわかるでしょう。今殺してしまえばこの子はきっと……。」

「関係ない、殺す。」


 いかにもラガルらしい簡潔な答えだった。そこに一切の迷いはない、ただ標的を見据えて刃を振るわんとする意思があった。

 そんな彼にメフェルは強い声を発する。

 

「これは命令よ。」


 そういうとようやくラガルは諦めたようで舌打ちと共に剣をしまった。


「ありがとう魔術師のお姉ちゃん。」

「メフェルよ。たしかに彼のいうことも一理あるけど全ての魔獣が人を襲うわけじゃないわ。でももうその子に構っちゃいけないわよ。」


「どうして。」

「自然の中で生きれなくなってしまうわ。」


「もう遅いだろうが。」

「黙りなさいラガル。」


「い、嫌……ミアには私がいないとダメなの。私もミアがいないと……また一人。」


 そう呟く少女は俯いて泣いてるようだ。メフェルにはかける言葉が見つからず、そんな彼女を見ているだけだった。


 少女を村まで送り届けたあと、二人は会話する。

 ラガルはメフェルを馬鹿にしたような態度で呆れていた。


「どうせまた会いに行くぞ。いつか食われる。」


「あの子にはミアしかいないのよ。」


「だからなんだ。」


 ラガルは吐き捨てるように言う。


「可哀想で生かして、死ぬのは誰だ。」


 メフェルが黙る。

 そのときだった。

 

「魔獣だー!」


 男は叫んでいた。

 二人は顔を見合わせ走り出す。

 そして村の中心部に行くと予想通りミアがいた。


「魔獣の子だぞ!」

「魔術師様が来ていただろう、呼んでこい。」


 村人たちが代わる代わる叫んでいる。魔獣の子がいるということは親もいる。村の中に魔獣が出たということで騒然としていた。


「ミア、どうして来ちゃったの!やめて!」


 そんな騒ぎの中、少女が魔獣の子を守るため前へと躍り出た。


「どうして庇う……まさか連れて来たのはお前か孤児!」


「やめなさい!一体何事?」


 そこへ丁度メフェルとラガルが辿り着いた。メフェルが大声で村人たちを止め、少女と村人たちの間に割って入る。

 ラガルはメフェルの前に出た。

 

「よかったな、見逃したおかげで死骸が二つできるぞ。」


「……ラガル、それは違うわよ。」


 ラガルの場違いな冗談にメフェルは目線で釘を刺す。

 少女は大勢の前で震えながらも精一杯の抵抗の声を上げた。


「この子は何もしてない!なんで殺そうとするの!」

 

「それはこの世の穢れだ!闇より生まれた獣だからだ!光を奪うものだ!」


 熱量を増した村人たちが少女へ石を投げる。その一つが少女の額にあたり、魔獣の子はグルルと唸り声をあげた。そして怒りのままに村人へ飛びかかった。


「ミア、だめぇ!」

冗長な表現を一部削りました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。