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影を殺せ

 ラガルはずっとソラスを探し続けていた。

 夜な夜な歩き続けて、ようやくソラスの部屋を見つける。

 白い豪奢な扉の前には見張り兵がいて近づけない。

 諦めて遠くから部屋を見ていた。


 何度も部屋に通う内に、ソラスはよく銀の塔の中の庭園へ向かうことを知る。

 そのときを狙ってラガルは彼に接近することに決めた。


 庭園はいつか来たときのように、美しいままだった。

 薔薇が咲いて、白いアーチが掛かっている。

 そこに蹲るソラスがいた。

 また兄から逃げているらしい、ラガルはそっと近づくと囁くようにして声をかける。


「ソラス。」


「ひっ!」


 上擦った声がした。

 ソラスは、勢いよく顔を上げるとエンルフを見る。

 ラガルは無理矢理、顔に笑みを作るとソラスに尋ねた。


「何してるんだ。」


 ヒクヒクと口の端が引き攣る。

 けれど、そんなの気にならないくらい力強くソラスを見つめた。

 ソラスの前髪の奥で視線が外れたのが見える。


「また、兄から、隠れてるのか。」


 這うように、言う。

 言い当てられたソラスは肩を震わせると、顔を隠した。


「……いいよな、グレイは。」


「放っておいて……!」


 そっと落とした言葉にソラスは拒絶の声を上げる。

 しかし、ラガルは彼の肩に手を添えると、続きの言葉を囁いた。


「ああなりたい、違うか?」


 スラスラと言葉が出てくる。

 まるで自分が本当にエンルフになったかのように。

 いや、元々そうであったように。


 ソラスは首を振る。


「違う、兄上は……兄上だ。」


 ラガルはソラスの隣に座り込んだ。

 鳥の声が聞こえてくる、静かに薔薇が落ちた。

 花の甘い香りが立ち込めて吐き気がする。


 ラガルは横目に落ちた薔薇の蕾を見ると、視線をソラスに戻す。


「みんなグレイ様と言う。」


 言葉が刃を持ったような気がした。


「お前の名は聞かない。」


 ソラスの喉が小さく鳴った。

 聞こえないフリをしてラガルは続ける。


「兵士もウォリケも兄弟たちだって、皆グレイに夢中だ。」

「やめて……。」


「誰かが笑みを向けてくれたことがあるか。

 お前に対して、ソラスに対して。」


 段々とソラスの震えが強くなって、顔が赤くなる。

 ラガルは目を細めた。


「誰もお前を見ない。

 いつも影だ。

 けど、お前こそが一番になるべきだ。」


 ソラスの体が固まる。

 それは、彼を見ているラガルでもわかった。

 あとはもう少し、彼の心を溶かすだけだ。


「ソラス……お前がなればいい。」


 僅かにソラスの頭が動く。

 腕の隙間から不安げな銀の瞳が覗いた。


「なる……?」


 ポツリと聞き返す彼に、ラガルは笑みを深める。


「グレイになればいい。」


 眉を顰めたソラスに、ラガルは声を顰めた。


「兄がいる限り、お前は影だ。」

 

 小さく、小さく。

 けれどその言葉はハッキリと庭に響き渡る。


「殺せ。――殺して奪い取れ。」

「っ!」


 ソラスは顔色を変えてエンルフを見る。

 ラガルは動じずにソラスを見つめる。

 そっと、ソラスの長い前髪を横に流す。


 グレイそっくりな顔が、目を見開いていた。


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