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糸口

188:糸口

 いつもの監禁部屋の中。

 エンルフはブツブツとしきりに何かを呟いていた。

 聞いても文章になってない言葉の羅列で、フリードはそれをつまらなさそうに見ていた。


「もはや壊れたか。つまらん。」


 そう言うとエンルフの鎖を外す。

 部屋の扉を開けて、顎で指した。


「ほら、二十五年ぶりの自由だ。好きにどこでも行け。」


 エンルフは顔を上げる。

 自由と言われてもどこへ行けばいいのかもわからなかった。

 焦点の合わない瞳が、扉を捉える。

 けれどその先へ行くという発想がもうない。


 ラガルが体を動かす。

 フリードを睨むと、胸ぐらを掴んだ。


 いきなり俊敏な動きを見せたエンルフに、フリードは驚く。


「……イリフェルはどこだ。」


「なに?」


「イリフェルはどこだ!」


 ニヤリとフリードが笑った。

 黙ったまま下を指差して、腰を振る。

 それから嬌声をあげてエンルフを煽った。


「今ごろ、誰とも知らない父親の子を産んでるだろう!」


 エンルフはフリードを殴ろうとしたが、必死にラガルが押さえつける。

 最早、これが記憶の再現なのか今なのかもわからない。

 けれど自分にできることはしようと、ラガルは動く。


 また虚な目でブツブツと喋り出すエンルフを、気色悪いものを見る目でフリードは見た。

 ラガルはフラフラとおぼつかない足を引きずって、部屋から出る。


(きっとイリフェルは地下牢に閉じ込められている。)


 ラガルはそう思った。

 それから自身の首輪を触る。

 これのせいで何もできない、体が常に熱く気怠い。

 肺が苦しくて息も浅い。


 早くなんとかしなければいかなかった。


 ――殺せ。殺したい。殺す。


 あの声と自身(エンルフ)の声が混じって聞こえてくる。

 頭が酷く痛い。

 誰か協力者が必要だった。


 同じく黒いものに苛まれている人物。

 ラガルは注意深く周りを見る。

 城の兵士たちは、独り言を言いながら彷徨くエンルフを怪訝な顔で見ていた。


 ふと、視線の先にキラキラしたものが見えた。

 柔らかな金灰の髪が揺れる。

 世界樹の宝石だった。

 白い装束が何よりも輝いて、その場にいるだけで空気が澄む。


 グレイが兵士に微笑んで話をしていた。

 その光景は、今のエンルフには別の世界の出来事のように見える。


 蛾のように吸い寄せられて、エンルフは近づいた。

 彼に気づいたグレイは一瞬驚いた顔をしたが、哀れなものを見る目でエンルフに手を伸ばした。


 兵士がすぐさまグレイとエンルフの間に立つ。


「エンルフさん……。」


 けれどエンルフはその呼びかけにも答えない。

 ラガルは後ろの、ソラスを見ていた。

 今日も隠れるようにしてグレイと兵士の会話を見ていた。


 歯を食いしばって、憎いものでもみるように。


 見つけた。

 ラガルはそう思った。

 思わず笑みを浮かべてしまう。


 笑みを浮かべるエンルフに、兵士とグレイは動揺した。

 ラガルは計画を練るべく、一歩下がる。

 ソラスと目が合ったような気がした。


 二歩下がって、距離を取る。

 そしてそのまま踵を返して歩いてく様子に、誰もがホッと息を吐く。


 その日から、ラガルは初めてソラスの部屋を探し始めた。


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