四人の朝
「ほにゃあ、ほにゃあ!」
「おぎゃあ、おぎゃあ!」
洞穴に二人ぶんの泣き方が響く。
誓い合った日から季節は過ぎて、イリフェルは元気な男の子と女の子を産んだ。
エンルフは小さな手に指を伸ばす。
すると、やわらかい手が指を握り返した。
思わず泣きそうになって、イリフェルの方を見る。
すっかり消耗した彼女は力無く、エンルフに微笑んだ。
男の子はアラウム、女の子はアグロムと名付けた。
イリフェルがエンルフを見る。
「”ア“の名前を冠するの?王名よ?」
「お前とオレの子だ、そのくらいの素質はある。」
エンルフはニッと笑って、双子をあやす。
ほにゃぁ、となけばエンルフもほにゃぁと返した。
イリフェルはその様子を愛おしそうにみている。
ずっとこの幸福が続けばいいのにと、エンルフは思った。
しばらくして双子も少し大きくなり、体がむちむちとしてきた。
その頃には、“あー”とか“うー”とか喋るようになって、イリフェルとエンルフを見るとお喋りを始めるようになる。
「パパ。」
「あうあうあうあう。」
「パパ。」
「あうあうあう。」
「あーう!」
何かをしきりに喋っている赤ん坊に、パパと言ってもらいたくてエンルフは自分を指差す。
イリフェルはその様子に微笑んで、双子の小さな手を撫でた。
「まだパパは早いんじゃないかしら。」
「そんなことない、オレたちの子ならいける!」
熱心に言葉を教えようとするエンルフに、イリフェルは苦笑する。
でも結局、自分もママと呼ばせようと会話に参加していた。
イリフェルが喋るたびに赤ん坊はキャッキャと声をあげる。
その様子をエンルフは“ズルだ”と口を尖らせていた。
赤ん坊がその口を摘む。
「いてて。」
「あら、余計なことを言うなってアラウムがパパにお痛したわ。」
「そんなわけ。」
「天才ね、この子は。」
イリフェルが幸せそうにアラウムを抱きしめる。
それからわちゃわちゃと動くアグロムも抱きしめて、キスをすれば、より笑い声は強くなった。
「可愛いなぁ。」
エンルフがアグロムの腹をわきわきと撫でると、”あー“と声が返ってくる。
それが面白くてなん往復か撫でた。
「ぱぁあ!」
「おっ⁉︎聞いたか?惜しかったぞ今の。」
「そう?気のせいじゃなくて?」
そう言うとイリフェルが覗き込む。
「ばぶ。」
それまで“あ”とか“う”とかしか話さなかった赤ん坊が、突然違う言葉を喋った。
衝撃でイリフェルとエンルフは固まる。
「ばぶって言った!ばぶって言ったぞコイツ。」
「聞いたわ、本当に赤ちゃんってばぶって言うのね。」
二人は手を取り合って喜ぶ。
それを見ていたアラウムも、時間を置いて“ばぶ”となくようになった。
小さな双子の成長にエンルフは熱いものが込み上げてくる。
見ればイリフェルの目元は潤んでいた。
自分もきっとそうだろう。
この調子で成長すれば、双子が立つ頃には自分たちはどんな反応をするのだろうかと疑問に思う。
「あなたとの子を持てて良かった、エンルフ。」
イリフェルがエンルフを見てそう言う。
エンルフも同じことを思っていた。
二人は無言で額を合わせる。
きっと言わずとも、この思いは伝わっているだろうとエンルフは思う。
どうしようもないくらいに満たされていた。
*
エンルフはある朝、食料を調達する為に洞穴を出る。
イリフェルが赤ん坊たちを抱えて、エンルフに手を振った。
「お父さん、行っちゃうって。」
息子と娘の小さな手を動かして、手を振る動作をさせる。
それが堪らなく可愛らしくて、エンルフは口元がニヤけるのを抑えられなかった。
ラガルも言い得ぬほどの幸福感に包まれる。
「行ってくる。」
いつも通りの幸せな朝だと、エンルフは信じて疑わない。
洞窟の外では、風が木々を揺らしていた。
四人はそんなことも知らず、寄り添って笑っている。




