表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
195/211

境界線

「銀の土地に入り込む不埒な輩がいないか、今日も見回りにいけとのことだ。」


 エンルフの目の前にどっかりと座り込んだグロード。

 髭を触りながら言った言葉は、どこか面倒臭そうにも聞こえる。


「ふーん、大変なんだな。おうじ様。」


「丁度いいからお前も来い。散歩だ。散歩。」


 他人事のように返事をしたエンルフだったが、グロードに強制的に巻き込まれる。

 散歩という言葉に“へっへっ”と犬の真似をしていたら、襟を掴まれて外へと連れ出された。


 引きずられている間に、塔の兵士たちがエンルフを見て笑う。

 手を振られたのでエンルフも手を振りかえした。


 塔の外に出て、海を越える。

 久々の大移動にエンルフはウキウキしていた。

 潮の匂いが気持ちいい。

 船から身を乗り出して風を感じる。


「どこまでいくんだ?」

「ネインバイドの手前までだ。」


「あの国か。」


「国じゃない、不法定住者どもの集まりだ。」


 そう言うとグロードは船を漕ぐ手を早めた。

 スピードを上げる船体に、エンルフは声をあげる。


「今日はあの辺りの巨人をしばくぞ。」

「えー?オレ必要か?」


 そんな話をしているとあっという間に対岸に着いた。

 グロードは船を陸にあげると、大きく伸びをする。

 エンルフも真似をして伸びをしてみたら、肩が鳴った。


 しばらく砂浜を海沿いに歩いていると、日が高くなってくる。


 不意にエンルフの腹が鳴ったような気がした。

 ぐぅうと、音が聞こえてくる。

 そろそろ昼どきかと思ったとき、またぐぅうと音が聞こえた。


 グロードがエンルフを見る。

 エンルフはグロードを見る。


 互いに、互いの音ではなかった。

 二人は顔を見合わせたまま、耳を澄ませる。

 どうやら音は浜辺の奥の森から聞こえてくるようだった。


「あの向こうにいるのなんだと思う?」


 最初にエンルフが聞いた。

 少し考えてグロードが答える。


「デカい、クマとか。」

「いんや、グロード。馬鹿でかい狼かもな。」


 答えを確かめようと二人は森の奥に足を踏み入れた。

 土の上に積もった落ち葉が、柔らかくしなる。

 エンルフが木の影からそっと覗いたとき、そこにいたのは自分の背丈の二倍ほどの巨人だった。


 大の字になって仰向けに寝っ転がっている。

 それがイビキをかいて、気持ちよさそうに寝ていた。


「お前の当たりでいいよ。

 だってアイツ毛むくじゃらで臭そうだし。」


「恩にきる。」


 エンルフとグロードが、くだらない会話をしているとその巨人は起きて木の影にいる二人を見つけた。


「なんだ?お主ら。」


 巨人は長い青の髭を撫でて、二人に尋ねる。

 グロードは戦槌を構えると巨人に言った。


「最終通告だ。この土地から出てけ。」

「あん?お前、灰の目のグロードか!

 ここは元々わしらの土地だ。」


 巨人は起き上がると、グロードにそう言った。

 エンルフはウンウンと頷いて聞いていたが、グロードに睨まれると肩を竦める。


「お前らの王は死んだ。

 今、大地を治めるのはウォリケだ。」


「知るか!散れ!」


 巨人が足を上げて踏み込むと、霜が地面に走る。

 それが爆発して、あたりに破片が飛び散った。

 その様子を見てラガルは驚く、自身を含めて魔法を使える魔族は今では少ない。

 破片がエンルフの元にまで届くと、エンルフはピンと指で氷を弾いた。


「手貸した方がいいか?」

「いらん。」


 グロードはそう答えると戦槌を振り上げる。

 巨人の足元に滑り込むと、一気に振るった。

 咄嗟に巨人は空中に飛び上がったが、宙では無防備だ。

 グロードの一撃が当たる。


 ズザザと轟音を立て、木々を巻き込みながら巨人は吹き飛ばされた。


 その様子にエンルフは拍手をする。


「巨人のくせに、灰の目に与するとは頭のおかしい奴め!」


 巨人がエンルフを罵倒する。

 しかし彼は何食わぬ顔だ。


「おぉおお!」


 巨人が声を上げて、グロードに氷を纏った拳を振り下ろす。

 グロードは槌で迎え撃つ。

 バチバチと、戦槌は電光を纏い氷を粉砕する。


「っらぁ!」


 グロードの力む声が聞こえたと思えば、巨人の腕は跳ね返されていた。


 エンルフはじっとその様子を見る。


「助けて欲しいか?」


 巨人に尋ねると、巨人はエンルフを睨んだ。

 そのとき地の底が這うような音がして、白い雪が舞う。

 季節外れの雪にエンルフたちは目を疑った。


 気づけば吹雪が二人を襲う。

 視界が白に染め上げられる。


 吹雪が収まる頃には巨人の姿が消えていた。


「ち……、逃げられたか。」


 グロードがそう言う。

 エンルフはべちょべちょになった体を、手で拭った。


「もう散歩終わりか?」

「終わりだ、終わり!」


 声を荒げてグロードが言う。

 エンルフはグロードの肩に手をかけて、“そんな日もあるさ”と言った。


 二人は行きと同じように帰路に着く。

 帰りの船で、エンルフはさっきの巨人の言葉を少しだけ思い出した。

 

 ――ここは元々わしらの土地だ。


 けれど潮風が気持ちよくて、その違和感はすぐに流れていった。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ