悪友
「お前、最近機嫌がいいな。」
月が綺麗な夜。
鼻歌を歌いながら酒を飲んでいたら、グロードにそう言われた。
エンルフは少し赤くなった顔で、目の前の男を見上げる。鬱陶しい髭面の筋肉玉だ。
「なんだよ、機嫌良くちゃ悪いか?」
「いや、何があったかと思ってな。」
グロードがそう言って隣に座る。
いつの間にか彼の手にも酒が握られていた。
「かぁー!美味い、やっぱ酒だなぁ。」
「お前ずっと飲みっぱなしじゃねぇのか?」
エンルフがクイっと器を傾けて酒を飲む。
グロードはイヤイヤと首を振ったが、当てにならない。
「ソラスとグレイに、絡んだって?」
月を見ながらグロードがエンルフを見る。
エンルフは首を傾けて、“どうだったかな”と溢した。
どっちかというとエンルフは絡まれたと思っている。
グロードはそんなエンルフの様子に苦笑したように笑って見せた。
「兄上方は……お前とは相性悪いだろう。」
「まあグレイはオレ嫌いだ。
ソラスもなんかウジウジしてるし。」
「フリードともなんか揉めたって?」
「あいつは面白ぇよな。妹の方はねぇけど。」
仮にも王族の前だというのに、エンルフは一切取り繕わない。
むしろ、グロードの兄や姉の悪口を嬉々として言った。
グロードはなんとも言えない表情でそれを聞く。
「オレ、お前が一番いいよ。
わかりやすいし。」
「それ褒められてんのか?」
エンルフは膝を叩いて、グロードの肩に手を乗せる。
グロードは最初は嫌な顔をしていたが、諦めたように手を重ねると二度叩いた。
二人はしばらく大人しく飲んでいたが、だいぶ酔いも回って楽しくなってきたようだった。
ここらで遊びでもしようと、取っ組み合いを始める。
「いいかー?エンルフ、こっから出たら負けだからな。」
ベロベロに酔ったグロードが、床の線を指して笑う。
エンルフは頷くと、首を回してグロードを挑発した。
「取っ組み合いでオレに勝てたやつはいないぜ?」
「それを俺の前で言うとは大した奴だ。」
ラガルは呆れながら酔っ払い二人の、馬鹿を見ていた。
こんなに酔うほど酒を飲んで何が楽しいのか、一切わからない。わかりたくもない。
だが、嫌でもエンルフの感情は流れ込んでくる。
「じゃあ、よーい!」
グロードの掛け声で始まった。
ピクリとエンルフの足が動く。
すかさずグロードは、大股で踏み込んで体の下からエンルフに腕を回した。
それが見えていたかのようにエンルフは後ろに避けると、今度は同じ技をグロードにかける。
お互い一歩も譲らない白熱した争いだった。
いつの間にか客も増えて、ちょっとした騒ぎになる。
エンルフがグロードに持ち上げられた。
慌ててエンルフはグロードのズボンを掴むが、遅い。
ぐるりと世界が回ったかと思うと、エンルフは投げ出されて線の外側に放られてしまった。
「たぁ!」
グロードの声が響く。
そのときだった、勢いよく床を滑ったエンルフの体が、飾り棚のぶつかった。
そして棚から調度品が落ちてくる。
エンルフの頭にぶつかって、スコーンと可愛い音がしたあと。床に調度品が落ちて粉々に割れた。
大きな音が鳴り響く。
「まぁ、なんの音?」
そこのちょうど良くフリーデがやってきた。
目の前の惨状を見て、目をパチクリとさせる。
「あ、いや……これは。」
バツが悪そうにグロードが言うと、すぐに何かを察したフリーデはグロードの首を掴み、地面に座らせる。
エンルフも一緒に座らせられた。
「良くって?この銀の塔は――。」
そこから十三時間にも及ぶ説教が始まる。
寝落ちかけたエンルフに容赦ない平手打ちが飛ぶ。
イビキをかいたグロードには鉄拳が落ちた。
それだけであのグロードが、しょんぼりと黙ってしまうのだ。
エンルフは誓う、このフリーデという女には逆らわないことを。
こうして騒がしい夜の一幕が終わるのだった。




