表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
190/214

出涸らしの庭

 銀の塔に戻ったエンルフは、ご機嫌だった。

 鼻歌を歌いながら廊下を歩いていく。

 途中、会ったグロードが変な顔で見てきても、軽快な足取りだ。


 そうやってしばらく歩いていると、柱の影から自分を見ている存在に気づく。


 振り返ると慌てて逃げていった。

 だが、その金灰の髪が気になって後を追いかける。

 辿り着いたのは、普段来ることのない室内の庭園だった。


 柔らかな光が頭上から降り注ぎ、白いアーチを輝かせる。

 薔薇の生垣の裏に男はいた。

 エンルフはそっと忍び寄り、彼を驚かせる。


「わっ!」


「わぁっ‼︎」


 途端に崩れる男を前にして、エンルフはケラケラと笑う。

 エンルフの様子を隠れて伺っていたのは、ソラスだった。


 長い前髪の隙間から、潤んだ銀の目が見上げる。

 エンルフはニッと笑うと、“立てよ”と急かした。


「な……なんですか。」


 弱々しい声でエンルフにソラスは問う。

 今にも逃げ出したいのが伝わってきた。


「お前こそ何なんだよ。

 オレの後ろコソコソつけてさ。」


 軽くエンルフはソラスの肩を小突く。

 よろめいたソラスは生垣にぶつかった。


「別に……。」


「言いたいことあるなら言えよ。

 見てるこっちまで息苦しくなる、アンタって。」


 ぽりぽりと頭を掻くエンルフ。

 前髪の隙間から、ソラスは睨みつける。


「あなたみたいな人にはわかりません。」

「オレみたいな?」


「好き勝手生きてる化け物に。」


 エンルフが目を丸くする。

 それから少し考えて、言った。


「そりゃそうだ。」


 ソラスは笑うエンルフを見て戸惑う。

 それから、俯いた。


 どこからかソラスを探すグレイの声が聞こえる。


「おーい、ソラス?

 僕はここにいるよ。」


 生垣でエンルフたちの姿は見えてないようだった。


「おい、返事してやればいいじゃねぇか。

 ソラスはここだよぉって。」


 揶揄うようにエンルフが言うと、ソラスはしゃがみ込む。

 そして目を背けて、グレイが居なくなるのを待った。


「……隠れてるんです。兄上から。」


「そりゃまた、どうして。」

「だって……兄上がいたら私はホンモノになれない。」


 ギュッとソラスは自身の服の裾を掴む。

 エンルフはただジッとソラスを見下ろした。

 黒い影がソラスを覆う。


「意味わかんね。」


「出来損ないって言いましたよね。私のこと。」


 ソラスが下を向いたまま語り出す。

 その声は震えていた。


「そうです……私は……兄上の後を追ってばかりで。

 何一つできないんです。」


 握った手が膝に打ち付けられる。

 エンルフは退屈そうに首を回すと、わざと柔らかい声を作った。


「おぅい、グレイ。ソラスだよー。」


 ソラスが勢いよく顔を上げる。

 その顔は“どうして”と言っていた。

 エンルフは肩を竦めると、そのまま言う。


「そんなんだから出涸らしなんだろ?」


 足音が近づいてくる。

 逃げようとソラスは腰を上げた。

 しかし、エンルフが服の裾をすかさず踏んで縫い止める。


「ソラス?演奏を聴いて欲しいんだけど。」


 生垣の横からグレイが顔を覗かせる。

 ソラスは顔を真っ赤にして、リュートを持つグレイを見た。


 グレイはソラスと、ソラスの服を踏むエンルフを見比べる。

 そして少し間を置いて、肩を震わせた。


「わ、私の……僕の弟に何するんですかっ‼︎」


 エンルフをグレイは突き飛ばして、ソラスを回収する。

 その背中にエンルフは舌を出した。


 グレイはソラスを庇うように抱き寄せる。

 ソラスは俯いたまま、グレイの服を掴んでいた。


「大丈夫?怪我してない?」


 優しく頭を撫でる兄に、小さくソラスは頷く。

 その様子を見てエンルフは鼻を鳴らした。


「過保護すぎんだろ。」


「乱暴者に言われたくありません。」


 グレイが睨み返す。

 だが、その瞳の怒りは強くない。

 つまらなさそうにエンルフは二人を眺めて言った。


「……だから出涸らしになるんじゃねぇの。」


 グレイは何かを言い返そうとして口を閉ざす。

 庭園の薔薇が揺れて、落ちた。

 エンルフは二人に背を向ける。

 花弁を踏み潰して、去っていった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ