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銀塔の異物

 花がやけに多い。

 生き物も、妙に集まりすぎている。


 エンルフが塔へついて最初に思ったのはそれだった。


 黒目の兎たちに見つめられ、渡った虹の橋は生ぬるく湿っている。


 エンルフは塔の中へ入った。

 中は白亜に輝き、銀の装飾が煌めく美しい場所だった。

 エンルフは思わず、目を見張る。


 だが、どこか冷たい白は、張り詰めた空気を醸し出していた。


 ラガルは前に見た銀の塔と変わらない様子に、既視感を覚える。

 その感覚すら、エンルフのもののように思えた。

 エンルフは感じていないようだが、四方八方から見られているような視線を感じて、嫌な気分になった。


 グロードは迷わず足を進め、一つの大扉の前で立ち止まる。


「この先にはウォリケがいる。無礼は働くな。」


 グロードの忠告を受けても、エンルフはどこ吹く風だった。

 それよりも、今この場所をもっと見たい気持ちが勝っている。

 扉が開いて、中に通されてもそれは変わらなかった。


 その先にはラガルがかつて見たように、椅子に座った眼帯の老人――ウォリケがいた。

 彼は杖で床を叩くと、グロードに言う。


「横の巨人はなんだ?」

「侵入者です。土地に入っていたところを捕まえました。」


 エンルフはニコリとウォリケに笑いかけると、無遠慮にも近づいていこうとする。

 周りの兵士に即座に止められたが、お構いなしに潜り抜けた。


「よ、ウォリケさま。

 オレはエンルフ、グロードの可愛いワンワンだ。」


 グロードは青ざめた。

 ラガルも、咄嗟に止めようとするが意味がない。


「……痴れ者か?」


 ウォリケが椅子に座ったまま、エンルフを見つめる。

 空気が静まり返った。

 だが、ウォリケの鷹の瞳は細められる。


「いや……違うな。」


 兵が一瞬、騒ついた。

 ウォリケがゆっくりと顎をあげる。


「お前、何が見えている?」

「うん?」


 エンルフは首を傾げた。


「片目の無い爺さんと……それから白い床、天井。

 殺意剥き出しの兵士たち。」


「外で何を見た。」


 ウォリケは改めてエンルフに聞く。

 ラガルはこれほどまでに長い時間を感じたことは無かった。

 エンルフは頬を掻くと、答える。


「気味の悪い楽園。

 出来すぎてて、壊したくなるな。」


 ウォリケの瞳孔が僅かに揺れた。

 ラガルはもうこの場から去りたかった。

 だが、足は動かない。


「……面白い。」


 老人から出た言葉は、ラガルの予想していたものとは違った。

 ウォリケはグロードを見ると、語りかける。


「この犬、しばらく繋いでおけ。」

「はっ。」


 ウォリケは立ち上がり広間を出て行く。

 そのとき、エンルフを見ると口の端を持ち上げたような気がした。


 エンルフは犬の吠える真似をしながら、その様子を見ていた。


 ウォリケの背中が扉の向こうに消える。

重い音が広間に響いた。


「ワウ。」


 エンルフはふざけた調子で吠える。

 兵たちは動かない。

 グロードも、何も言わない。

 ただ眉を寄せた。


 気づいていないのか。

 それとも、気づいていて――無視しているのか。 


「なあグロード。」


 エンルフは楽しそうに笑う。


「あのジジイ、オレのこと気に入ったろ?」

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