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呼ばれている

 風が強く吹いた。

 炎が巻き上がる。

 凹凸に抉れた地面が惨状を物語っていた。


「どうする?まだやる?」


 エンルフが手に火をつけながら尋ねる。

 グロードは戦槌に雷光を纏わせ、エンルフを睨んでいた。


「……いいや、もういい。」


 フッと、圧が消える。


「その方がいいぜ、その手の中で軋んでるの、まだ生きてるみてぇだしな。」


 グロードの握る戦槌が僅かに軋んだ。

 槌の表層が剥がれて、磨かれた白が覗く。


「余計な世話だ。」


「グロいよな、銀の目って。それ……オレらのだろ?

 泣いてるぜ。家に帰して、ママに会いたいよぉって。」


 エンルフはニヤニヤとグロードの戦槌を見つめる。

 その様子にグロードは、眉を顰めた。


「……言ってることがわかるのか?」

「まさか、適当だ。」


 エンルフは肩を竦める。

 

「喋るわけねぇだろ、骨が。」


 ややあって戦槌を見る。


「――まぁ、使えるもんは使えばいい。」


 グロードは目を瞬かせた。


「アンタら、そういう連中だろ?」

 

 一瞬だけグロードは目を細める。

 価値を見出したように。


「気に入らんが――。」


 彼は暫く黙る。


「気に入った……。」


 そう言うと戦槌を背負い、グロードは後ろを向く。

 そして短く言った。


「来い。」


 飼われた。

 そう、ラガルは思った。

 エンルフも同じことを思ったようで、キョトンとする。


 しかし、一度笑みを浮かべると昔からそうであったかのように、グロードの隣に並ぶ。


 その距離がラガルにはひどく懐かしく感じた。



 しばらく歩いて行くと雨も止み、銀の塔とその周りにかかる虹の橋がよく見えるようになった。

 七色の輝きが反射して、世界樹を美しく彩る。


 エンルフがその光景を眺めていると、不意に黒い煙が上がっているのが見えた。


 グロードは何も言わずにその方向に進む。

 エンルフもとりあえず着いて行く。


 その先には小さな掘立て小屋が並んでいた。

 だが軒並み壊されて、煙が上がっている。


 大きな人影が足で小屋を潰しているのが見えた。

 周りには小さな人影が逃げ惑っている。

 この光景は珍しくない、エンルフは思った。


「巨人め。」


 グロードはエンルフが隣にいるのにも関わらず悪態を吐く。

 そして、戦槌を手に取ると、影たちに近づいていった。


 逃げ惑っていた影たち――人間はグロードに気づくと、ホッとしたような顔を見せる。

 巨人は空気が変わったことに気づいて、顔を上げた。


 そして徐に顔を歪めると、グロードに唾を吐いた。


「来やがったか……灰の目め!」


 グロードは戦槌を構えて、声をあげた。


「ここで何をしている。」


「ニンゲン狩りだ、わかるだろう?

 俺たちの土地にこんなものを住まわせやがって。」


 ラガルは驚いた。

 こんなに大きな魔族は、今では滅多に見られない。

 長く生きた魔族は皆、戦争で死んでしまった。


「お前も巨人だろう、なぜ灰の目と一緒にいる。」


 巨人がエンルフに尋ねる。


「なんとなく。それよか、やめた方がいいぜ爺さん。

 アンタ、死ぬぞ。」


 エンルフは隣のグロードを見て答えた。


「オレが止めてんじゃねぇよ。

 そいつが殺すだけだ。」

 

 グロードは今にも襲い掛かりそうなほどの殺気を放っている。


「だからなんだ。王が死んだ今、生きてる意味など毛頭ない。」


 巨人はグロードに向かって拳を構える。


「巨人の面汚しめ、お前はそこで縮こまってるがいい。」


 エンルフは何度言われたか、わからない言葉に苦笑した。

 そのままの笑みで一歩後ろに下がる。


「嘘つきめ。」


 生きる意味がない、か。

 

 その違和を、ラガルははっきりと感じていた。

 ——なぜか、自分が言ったような気がして。

 

 巨人の動きが、一瞬だけ止まる。

 

「死にたいなら他の方法だってあるんだぜ?」


 今だ、とでもいう風にグロードが動いた。

 

 彼は地面が凹むほど強く蹴り上げる。

 飛び上がった一撃で、巨人の頭は二つに割れ。

 歓声が巻き起こった。


 酷くつまらない光景にエンルフは欠伸をした。


「やっぱ弱ぇな。」


  死体ではなく、その向こうで怯えている人間たちを見る。

 だが興味はすぐに失せた。


「どっちも変わんねぇや。」


 視線を上げる。

 その先にある、銀の塔。


「あっちの方が面白そうだ。

 壊れ方が派手そう。」


 ——あそこに呼ばれてる気がするな。


 エンルフはニヤリと笑った。


 グロードはその横顔を一瞬だけ見た。


 妙だった。

 怒っているわけでもない。

 興奮しているわけでもない。

 ただ、何かを待っているような目。

 

 今浮かべてる笑みは自分のもののはずなのに。

 ラガルは、それを止められないことだけが、はっきりとわかっていた。


 もう、自分ではない。

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