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奪われた者たち

 ウラガフの後を追って、洞窟を進む。

 この先にあるのは王都だ。


「エンルフ……奴の目的はきっと、世界樹だ。

 もし本当に魂を取り込んだってなら。」


 彼は顎に手を添え、何かを考えるように俯いた。


「そもそも、奴の死後……死体がどこに行ったかさえわからなかった。まさかお前たちの元にあったとはな。」


 イーヴァがウラガフを見る。

 ウラガフは横目でイーヴァを確認すると、言った。


「……私も詳しくは知らない。だが祖父が死後、匿ったと聞いている。」


「そうか。」


「お前は魔族ではないだろう。

 なんだ?」


 じろりとウラガフの虹彩が動く。

 イーヴァは躊躇いもなく、額の鉢巻を外した。

 銀の石が顕になる。

 ウラガフはそれを見ると、驚きと共に苦虫をすり潰したような顔をした。


銀の目(グロード)!!」


「驚いただろう。怨敵(ノフサル)と手を組むことになるとはな。」


 イーヴァがカッカと笑う。

 ミムラスが下から口を挟んだ。


「今は仲間なんだから、喧嘩とかしないでよね。」


「……するものか。」


 ウラガフが答える。

 シーナがその背中を眺めていたとき。ピタリと、ウラガフの足が止まった。


「どうしたの?」


 メフェルが尋ねる。


「これを見ろ。

 どうやらこの道を通って行ったようだ。」


 ウラガフが指差す先は地面だった。

 メフェルが驚いた声を上げた。

 シーナも後ろから覗く。


 見れば岩がドロドロに溶けていた。

 赤黒い塊がそこら中にある。

 ミムラスが足を乗っけてみると、キンと鳴った。


 恐る恐る、足元を覗いて見るとガラス質になった黒い地面が一同を映している。


「炎の魔力が残っているわね。」


 黒い鋭利な輝きを撫でて、メフェルは言う。

 イーヴァがガラス片を拾う。

 もう熱は残っていなかったが、そこには情念が留まっているような気がした。


「エンルフの炎……。」


 イーヴァがそう呟く。

 シーナは胸がひやりとした。

 ラガルが最早、本当にラガルで無くなってしまったような。


「先に進みましょう。」


 その気持ちを誤魔化すために、シーナは提案する。

 全員が足を進めていく。

 道中あちこちに焦げた跡や、焼け爛れた跡があった。

 それはまるでラガルが苦しんでいるかのようだ。


 一方、イーヴァは一歩進むごとに肺が重くなるのを感じていた。


(殺さなくてはいけないのか?)


 彼は問う。

 焼けるような熱を肌に感じた。

 まだ千年前のあの炎を覚えている。


(エンルフ、お前をまた……俺は。)


 今はもう姿も薄れたあの男。

 その影だけが胸に残っていた。

 喉の奥が急に乾く。


「エンルフって、何をしたの。」


 ミムラスがイーヴァに尋ねる。

 

「世界を壊そうとした。」

「それってどういうこと?」


「世界樹を壊そうとしたんだ。」


「えぇ?それってヤバくない?」


 ミムラスが口に手を当てる。


「……だから殺した、俺たちは。」

 

 イーヴァはウラガフを見た。

 

「……お前は少し似ている。」 

「祖父にもそう言われた。」


 ウラガフが自分の頬を触る。

 そして何かに気づいて、下を向くと、メフェルが食い入るように彼を見つめていた。

 すぐに彼女は視線を逸らす。


 解けた岩を踏み締めると、ぎしと音がした。

 白い息を吐きながら、ウラガフは前を見たまま言う。


「エンルフは我らにとって英雄だ。」


 ミムラスがウラガフを見上げる。

 その顔は不思議そうだった。


「世界樹を焼こうとした奴が?」

 

「奪われたんだ。」

 

 ウラガフはそう言って、イーヴァを見る。

 その視線はどこか責めるものだったが、イーヴァは目を逸らさない。


「住処も名前も……全部だ。」

 

 闇の中にウラガフの声がこだまする。

 無数の反響が終わりのない道をかたどった。


「だから……燃やしたくなったんですか?」


 シーナが尋ねる。


「……ああ。」


 少し間があってからウラガフは答えた。


「それ、筋が違わない?

 それで世界を燃やすの?」


 ミムラスが顔を顰める。

 ウラガフの目が細くなった。

 

「檻の中で笑えと?」


 息を吸う音が聞こえた。


「やってみろ。」


 彼の表情がなくなる。


「……それでお前たちは“魔族”と呼ぶ。」

 

 

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