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崩落の契約

 ウラガフの言葉にメフェルは聞き返そうとする。

 けれどそんな時間はなく、追われるように外へと飛び出した。


 廊下の向こうから男たちが走ってくるのが見えた。


 シーナは慌てて道を探すが、他に道はない。

 ミムラスが銃を構えて、前に出るのが見えた。


「その必要はない。」


 ウラガフは窓を叩き割った。

 冷気と破片が吹き込み、全員が身をすくめる。


「早く!」


 怒鳴るウラガフの声でシーナは現実に引き戻される。

 ガラスの割られた窓枠を越えると、一同は転がるように洞窟まで走って行った。


「火よっ、燃え上がれ!」


 振り向きざま、メフェルが火の魔術を飛ばす。

 だが威力の弱い火が追手に当たっただけで、すぐに蹴散らされてしまった。


「前だけ向いて向いて走れ!」


 イーヴァが一番後ろで立ち止まり、一同に背を向ける。

 その横をシーナは通り抜けて行った。

 一瞬足を止めかけて、後ろを振り向いた。


 イーヴァは背中に担いだ戦槌を降ろし、その手に構える。


「早く行け!」


 イーヴァの声が後ろで聞こえた。

 その声量に押されて、シーナは走り出す。

 一同から離れたイーヴァは大きく槌を振るった。

 その余波で洞窟が震える。


 背後で轟音が弾けた。

 振り返ると、崩れ落ちる天井の下をイーヴァが駆け抜けている。


「走るのよ!」


 メフェルが叫ぶ声が聞こえた。

 全員が我に帰り、洞窟の先へと走っていく。

 天井から石がパラパラと崩れ落ちる。

 ウラガフが振り向くと入り口に、巨大な岩盤が落ちるのが見えた。


 しばらく走り、洞窟の揺れも収まったところで一同は歩みを止める。


「何考えてんの⁉︎」


 最初に声をあげたのはミムラスだった。

 小さい体を震わせて、イーヴァに抗議をしている。


「天井崩すとかありえない!

 アタシたちもペシャンコだったかもしれないのに!」


 シーナも息をついたところでイーヴァを見る。

 ミムラスの意見は尤もだった。


「逃げ切れたからいいだろ。」

「よくない!」


 ミムラスは腹を立てながらその場に座り込んだ。

 緊張の糸が切れたことで全員の気持ちが緩んでいた。

 が、その場に似つかわしくない男が一人いるのを思い出し、視線が自然とそちらへ向く。


 ウラガフだ。


「……なんだ。」


 彼は集まる視線に構えながら、口を開いた。

 怒られる前の子どものように肩を縮こませている。

 メフェルはじっと、彼を見つめると話しかけることに決めた。


「なんだって……あなたどういうつもり。」


「さっき言った通りだ。

 私もコルプトを探す。

 そして殺す。」


 ウラガフはメフェルに答えると剣の柄を握り締めた。

 どうやら彼は本気のようだ。


「それなら連れてけないわ。

 ここで死ぬか、諦めるか選んで。」

 

 メフェルは杖を構えると、ウラガフに突き出す。

 彼女の髪が風もないのに揺れた。

 ワンピースの裾が持ち上がり、熱気を纏う風が吹いてくる。

 

 彼女も本気のようだった。


 一触即発といった様子にシーナは息を呑む。

 急いでイーヴァを確認したが、彼は腕を組んで二人を見るばかりだった。


「……復讐もするなというのか。」


 ウラガフの声は掠れていた。

 メフェルは視線を外さずに頷く。


「ええ、手を出した瞬間にあなたを殺すわ。」


 その言葉にシーナは動こうとする。

 間に割ろうとしてイーヴァに止められた。


「止めるな、シーナ。俺も何も言わん。」


 その手には力が籠っていた。

 イーヴァが顎をやる先では、大人しく二人を見ているミムラスがいる。


 しばらくしてウラガフが口を開く。

 

「……いいだろう。

 だがお前が先に辿り着けると思うな。」


 そう言って彼は柄から手を離す。


「見つけるまでの一時共闘だ。

 私はお前には殺せない。

 やれるものならやってみるがいい。」


「わかったわ、あの人には指一本だって触れさせない。」


 メフェルが纏っていた空気が変わる。

 張り詰めていた糸がわずかに緩んだ。

 ウラガフも張っていた肩を降ろす。


「……終わったか。」


 イーヴァが言う。

 メフェルとウラガフはお互いに頷いた。


 シーナの喉の奥に黒いものが詰まる。

 それでも、口は勝手に動いた。

 

「……殺、す。」

 

 口の中に刃物が生まれたようだった。

 弱々しい手で短剣をなぞる。


 もしも予言の通りに全てが進んでいれば。

 そのときは。


 シーナの瞳に暗い影が差し始めていた。


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