顕現
炎が渦巻き、ラガルの体を包む。
青い揺らめきは次第に赤に変わり、周囲の物を焦がし溶かしていく。
ぐにゃりと溶けたように空間すら歪ませる熱。
ティーソエルは思わず一歩後ずさった。
ウラガフの肌がチリと焦げる。
熱さに涙が滲んだ。
視界が霞んだところで、ラガルの薄青の髪が溶ける様に伸びていった。
あっという間に腰元まで達した髪は、全体が濃い紫に変わっていく。
熱風に髪が靡き、瞳が見える。
その目は相変わらず光を映さなかったが、やけに鋭くなっている。
ラガルは笑いながら、ぎこちなく手を動かした。
手を握ったり、開いたりしながら、炎を出しては消している。
「ヘェ……いいじゃん、なかなか。
ホントだったんだな。秘術ってやつは。」
妙に軽い声がラガルから聞こえた。
髪を掻き上げると、彼は周りを見渡す。
ウラガフも唾を飲んで、言葉が出ない。
だが、確信があった。
これは、“コルプトではない”と。
「……エンルフ?」
ティーソエルが恐る恐るというふうに、聞く。
ラガルはゆっくりと頷こうとしたが、急にハッとした表情で口を動かす。
その顔は苦しんでいるようにも見えた。
「違う、俺は。」
「すごい!」
ティーソエルが紅色の頬をして、ラガルに言う。
そして石の台を指差すと、興奮した様子で言った。
「溶けちゃった!」
そのままラガルに抱きつくとティーソエルは、明るい声のまま話す。
「ねえ、できるよ。ボクらなら。
世界樹なんていらない、灰の目なんていらない。
僕らで世界を作り直そう、お兄ちゃん。」
――灰の目。
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がカッと熱くなった。
腹の底から感じたこともない何かが湧き上がってくる。
無意識のうちに炎が漏れ出た。
膨張し、自分でも止められない。
ラガルは一瞬、動きを止めたが、炎が噴き出ていくのに一種の陶酔を覚えていた。
「……ああ、殺そう一匹残らず。」
自然と言葉が出る。
それに自分でも驚いた。
地の果てから響く声にティーソエルは手を叩く。
ウラガフは影に囚われたまま、震えていた。
何が起こってるのかわからない。
いや、わかりたくなかった。
よりによってティーソエルに裏切られたなど。
もしも影が体を縛っていなかったら、膝から崩れ落ちてしまいそうだった。
頭が揺れる。
心が闇の中へと放り込まれる。
呆けていると、ラガルと目が合った。
その目は動揺しているようで、いつもの感情のない瞳ではない。
憎いのに目が離せない。
「う、ウラガフ。」
ラガルは何かを言いかけたが、それが止まる。
ティーソエルがラガルの手を取って、体を引き寄せたからだ。
そしてそのまま影に沈むと、二人の姿は見えなくなった。
取り残されたウラガフから、影が引く。
そしてそのまま、地面に膝をつくとウラガフの手から剣が滑りおちる。
「……嘘だ、嘘……だ。」
剣がカラカラと音を立てた。
否定しようにも、現実だという証拠は何も変わらない。
せめて夢であればよかったのに。
ウラガフは温度のない床に爪を立てる。
痛みも何も感じなかった。
天地がひっくり返ったかのような感覚だけが体を支配して、息が荒くなる。
倒れることもできない体を自分の意識だけが支えて、ウラガフはどうすることもできない虚無の中にいた。




