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守りの侮辱

 試練の日、広間には若者たちが集められていた。

 皆、手に武器を持っている。

 けれど今年は様子が違った。

 並ぶ若者たちの中に、ひとまわり小柄な影が見える。


 周囲はその人物を避けるように、垣根を作っていた。


「コルプトがいるぞ。」


 誰かが言った。

 その声は右から左へ流れていく。

 少し離れたところでウラガフは、仇を見るような目でコルプトを睨んでいた。


「お兄様、がんばれー!」


 ティーソエルの無邪気な声が、響く。

 けれどウラガフはそちらを見もしない。

 穴が空くほどコルプトを見つめていた。


 そんなウラガフを見るのはヴィータナグだ。

 彼は祖父の隣で腕を組み、ウラガフにきつい視線を送っている。


 祖父は広間を見渡し、ゆっくりと息を吸うと言葉を発した。


「殺せとは言わぬ。

 だが、最後まで立てぬ者に器たる資格はない。」


 広間が静まり返る。

 誰もが、その言葉に息を呑んだ。

 中には、興奮で震えるものさえいた。


「それでは、始め!」


 高らかに開始の宣言がなされる。

 雄叫びがあちこちから上がった。


 若い男が目の前にいる相手に襲いかかる。

 剣が肉を打ち付ける。

 鈍い音が響く。


 血の匂いが滲んだ。

 若者たちの目の色が変わる。

 息が浅くなり、肩が上下した。


 興奮の渦に巻き込まれているのは、コルプトも同じだった。

 瞳孔が開き、世界が眩しい。

 

 喧騒が喜びの声のように、響き渡る。

 熱気があたりに満ちて、雪を溶かす。

 牽制し合う者、争いあう者、観察する者。

 様々な者がいた。

 その中でコルプトもまた、時が止まったように周りを見つめる。


 若い戦士がコルプトを警戒するように、眺めていた。

 けれど、向きを変え他の者に襲いかかる。

 辺りに脱落した者たちが増えてきた。


 血がコルプトの足元に飛んだ。

 輪郭が縁取られたように赤が白に映える。


 血が沸々と湧き上がってくるのがわかった。

 コルプトは体の底から、うねりが湧き上がるままに、魔を解き放つ。


 世界が一変する。


 凍てつく炎が乱れ、氷の華が咲いた。

 鋭い棘が女の足を裂き、男の脇を貫く。

 一瞬で赤く染まる広間に、コルプトの側にいた若者たちは動きを止めた。


 そして示し合わせたように一斉に襲いかかる。


 コルプトは腕を前にかざすと、瞬きをした。


 霜が走り、冷気が彼らを包む。

 一人の若者は足の裏が地面に張り付いて、また一人の若者は氷像のように腕が固まって、誰一人としてコルプトに近づけない。


 コルプトは辺りを見回す。

 もうそこに、挑もうとするものはいなかった。


 歯を震わせながら若者が膝から崩れ落ちた。

 その背の奥にウラガフが見える。


 彼は剣を振い、敵を薙ぎ倒していく。


「ウラガフ……。」


 コルプトの薄い唇から言葉が溢れる。

 吸い寄せられるように近づいていく。


 一人、ウラガフが剣で男を薙いだ。

 二人、足を切りつけて戦士が膝をつく。

 三人、切り掛かってきた女を打ち落とす。


 最初こそ、順調だったが十人、十一人と相手が増えていくとウラガフの方にも疲れが見え始めた。

 

 いつの間にか彼は囲まれ、肩で息をしていた。

 頬からは赤い血が滴り、汗が薄らと滲んでいる。


 剣の切先が揺れた。


 その隙を突いて、若者の一人が襲いかかる。


「っ!」


 ウラガフは振り返り、剣で防ごうとするが間に合わない。

 刃が目前に迫った。

 そのとき、青い光が走る。


 薄く氷が走る音がしたと思えば、ウラガフの前に見知った背中が現れる。

 そして氷の盾が広がった。


 コルプトだ。


 コルプトが寸前で、若者とウラガフの間に割り込んだ。

 剣が弾かれる音がする。

 風が強く吹いて、辺りの雪を巻き上げた。


「お前は、我の前に出るな。」


 輝く白い光の粉が舞い落ちる。

 薄く凍りついたコルプトの横顔は、ただまっすぐ前を見ているだけだ。


 ウラガフは何も言わずに、目を見開く。


 ウラガフの喉がひくりと鳴る。

 助けられたことより先に、見られていたことが耐えがたかった。


 青い光の本流が辺りを包む。

 その炎に照らされて、ウラガフの剣を握る手がいつもよりも白く……震える。


 しかしコルプトは気が付かない。


 祖父の目が細くなる。

 その口元に、かすかな笑みが浮かんだ。

 ヴィータナグは苦々しい顔をする。

 奥歯を噛み、義理の父を睨みつけるしかなかった。

 

 ウラガフが剣を握る手に一層力を入れる。

 唇が切れるのも構わないほど強く噛んだ。

 怒りのままに腕を持ち上げる。


 震える切先は、それでも確かにコルプトを指していた。


 

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