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選ばれたはずの器

「試練の内容が決まったか。」


 コルプトは祖父の前に跪く。

 祖父は、族長の椅子に座りコルプトを見下ろしていた。

 長の広間にはヴィータナグ、ウラガフも呼ばれている。


「……殺し合いか、お前らしい。」


 祖父は目を細めると、しばし考えた。


「だが、みだりに里の若者を減らすわけにはいかぬ。」


 コルプトは顔を上げないまま答える。


「弱き者に価値などありません。」

「そう急くな。」


 祖父は指先で肘掛けを叩く。


「殺し合いを命ずるのではなく、生き残りを競わせよ。

力なき者は途中で脱落し、強き者だけが残ればよい。」


 そう言って、一拍息を吐いた。

 何も言わずコルプトは床を見つめる。

 祖父が再び口を開く。


「今年の試練は、ただ器を選ぶだけでは足りぬ。」


 その場の空気がわずかに変わった。

 ヴィータナグが眉を動かす。


「……何を仰る。」


 祖父はゆっくりと、ウラガフとコルプトを見比べた。


「いつまでも曖昧なままではおけぬ。

 どちらに黒王の徴が強く出るか、今年ではっきりさせる。」


 ウラガフは息を呑む。

 ヴィータナグの瞳が鋭くなった。

 長い髭を撫でながら祖父は言う。


「予言年に生まれたのはコルプト。

 だが、胎に宿ったのはウラガフ。

 ゆえに里でも割れておる。」


「割れる必要などない。」


 ヴィータナグが低く言い放った。


「器はもう決まっている。」


 祖父はその声を受け流し、なおも続ける。


「ならば尚更、試さねばなるまい。」


 コルプトの唇が僅かに震える。

 だが、表情は変わらない。

 

 一方ウラガフは目を見開く。

 そして興奮を抑えようと、深く息をしていた。


「見極めるだけでは足りぬ。

 コルプト、今年の試練にはお前も参加するのだ。」


 祖父の言葉に、コルプトの頭が動く。

 ほんのわずか、心の奥がずれる感触がする。

 ヴィータナグは眉を顰めた。

 拳が握られて、白くなっている。


 一瞬、広間が凍りつく。

 だがそれは祖父の言葉で破られる。


「兄弟だからと手心を加えることは許さぬぞ。」


 コルプトは短く返事をした。

 


 *


 間を出た先で、ティダウが待っていた。

 隣にはウラガフのお付きで弟のリダウがいたが、会話はなかった。

 

 ティダウは出てきたコルプトを見ると嬉しそうに駆け寄る。


「コルプト!どうだった。」


 耳のいいティダウのことだ。

 その会話は全部ではないにしろ聞こえていてもおかしくない。

 けれども、何も聞こえなかったように彼は尋ねるのだった。


「お爺様に、試練に出るように言われた。

 ウラガフとどちらが予言に相応しいか……戦う。」


 コルプトは答える。


「ふん、決まっている。

 勝つのはウラガフ様だ。」


 そばで聞いていたリダウが静かに言った。

 リダウはコルプトを嫌っている。

 それは昔から一方的だった。


「コルプトに決まってんだろ!」


 ティダウがリダウに言い返す。

 父の違うこの兄弟はあまり似ていない。

 けれどこうしてムキになって、睨み合ってる様子はよく似ていた。


 コルプトがその様子を見ていると、背にした扉が開く。


 中から、ヴィータナグとウラガフが出てきた。

 次はリダウが嬉しそうな顔をする番だ。


「邪魔だ。」


 ヴィータナグがその黒い瞳でコルプトを睨みつける。

 コルプトは何も言わずに道を譲った。


 ウラガフとすれ違うとき、目が合った気がした。


 しかしお互い言葉を交わすことなく過ぎ去っていく。


 コルプトは振り返らなかった。

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