弱者の理由
ティダウは目を丸くしてコルプトを見ている。
「殺し合いって……本当お前容赦ねぇな。」
そう言って頭を掻くと、コルプトの肩に手を置く。
「去年と同じでいいだろ。
死鳥の谷に一番に着いたやつで。」
「同じものではダメだ。」
そう言うとコルプトは部屋を後にする。
ティダウは慌てて後を着いて行った。
「……だから、お前は……だろう!!」
部屋を出ると怒声が聞こえてきた。
コルプトが顔を上げる。
ティダウは肩を竦めると、コルプトの方を向いた。
声の主も場所もわかっていた。
自然とコルプトの足が向かう。
ティダウは止めようと口を開きかけたが、意味はないと悟り、つぐむ。
二人は階段を下り、長い廊下を歩いて行った。
コルプトはなぜ来たのかわからなかった。
吹き抜けの先の扉から声は聞こえてくる。
「申し訳ございません!父上っ!」
激しく体を打つ音。
そこは剣の稽古場だった。
息を潜め中を覗けば、白髪の混じった黒髪の男が誰かをなじっているのが見える。
ヴィータナグとウラガフだ。
「剣筋がぶれている、集中をしていない!
それでは王にはなれん!!」
「っ、は、はい!」
ヴィータナグの持つ木剣がウラガフの背中に叩きつけられる。
息を切らすウラガフは、もう立ち上がることもできなかった。
汗が血と混じり、床に滴り落ちる。
コルプトはその様子を見ていた。
いつもと同じ光景だ。
幼い頃から、そうだった。
ヴィータナグは一度も手加減を知らない。
ふと視線を感じたヴィータナグが振り返る。
咄嗟にコルプトは扉の影に隠れようとしたが遅かった。
「何を見ている!」
顔を赤くさせたヴィータナグが、コルプトの方に向かってくる。
一歩二歩後ずさったところでコルプトはヴィータナグに捕まった。
ヴィータナグの手がコルプトの腕を掴む。
力が強い、指が食い込んでいる。
「……。」
コルプトは抵抗せず。
ただ、床に倒れたウラガフを見る。
「答えろ。」
ヴィータナグが冷たく言い放った。
コルプトは目線を合わせず、言葉を吐く。
「……弱いから、打たれている。」
一瞬、空気が止まる。
ヴィータナグの眉が動いた。
「……何だと。」
「強ければ、打たれない。」
コルプトは続ける。
「ならば、弱い方が悪い。」
沈黙が落ち、ウラガフが顔を上げる。
ヴィータナグはコルプトを見下ろした。
「……気味の悪い奴だ。」
吐き捨てるように言う。
「だが、理屈は通っている。」
ヴィータナグは興が冷めたのか、ウラガフを一度見下ろしその場を去る。
コルプトは何も言わずに、ウラガフを見つめていた。
「……憐憫のつもりか。」
低い声が響く。
震える声は地の底から、立ち上がるようだ。
ウラガフは涙の滲む瞳で、コルプトを睨むと唾を吐き捨てた。
「何のつもりかと聞いているっ!」
ウラガフの持つ木剣が、コルプトに突き立てられた。
ティダウは今にも爆発しそうなウラガフを前に、慌てた様子でコルプトの腕を引く。
しかしコルプトはウラガフを見据えたまま動かなかった。
「お前は弱い。」
ウラガフの顔が歪む。
「ヴィータナグの言われるままに、動いているだけだ。」
コルプトが言い捨てると、ウラガフは踏み込む。
そして手に持った剣をコルプト目掛けて振った。
だがコルプトの腕の一振りで、剣が氷に弾かれる。
「お前は我の後ろにいるべきだ。」
落ちた木剣が床の上を回り、音を立てる。
二人の溝に落ちる、その音はどこまでも遠い。
「ふざ……けるな!」
ウラガフはコルプトの襟を掴むと、突き飛ばす。
よろめいた彼をティダウが支えた。
「ふざけるなよ、コルプト。
お前はただの飾りで……私が選ばれた王になる!
二度とその面を見せるな!」
コルプトはその赤い顔がヴィータナグそっくりだなと思った。
稽古場に取り残された二人。
ティダウは肩を下ろす。
そして体重を預けているコルプトを立たせた。
「怪我はないか?」
「あるわけがなかろう。」
いつもの調子で答える主に、ティダウはため息を吐く。
コルプトの横顔はいつものように冷淡であった。




