石は砕かれて光る
石の天井は高く、冷たい匂いがした。
床に染みが残る、音のない部屋。
中央に石の台が一つ置かれている。
台の上に手を乗せると、昨日片付けたはずなのに白い粉が残っていた。
コルプトは目を伏せると、いつも通り台の前に立った。
――簡単なことだ。
石を磨くように魂を磨く。
古きを新しきに注ぐ。
死にゆく魂を宝珠へと変えて、生者へと受け継ぐ。
そうやって蠱毒は重ねられていく。
終わりなきアディムの輪。
それが我の仕事で、かくあるべきとされてきた。
先祖から受け継ぎし、古の術。
「……。」
ティダウが部屋の中へ入ってきた。
彼は、大きな布に包まれた何かを運んでくる。
それを石台の上に乗せると、布を剥ぐ。
女の死体だ。
先日の抗争で命を落とした年若い戦士だった。
女の手首に手を伸ばすと、爪で皮膚を切る。
血が滲んだ。
血を腕へと伸ばす。
腕から、胸へ。
魔力が伝わる。
絡まるように、解けるように。
コルプトは何も言わずに小刀を取り出すと、女の胸を開く。
青白い骨と肉の隙間から心臓を取り出した。
二層に輝く赤い宝石となった心臓。
一瞬、手が止まる。
……暖かい。
だが、すぐにその思いは無視をした。
それを愛でるように見つめる。
「……少々、取りこぼしたか。」
「取りこぼした?」
ティダウが聞き返す。
コルプトは頷くと、口を開いた。
「魂が体に残ってしまった。
死んでから時間が経っていたからだ。」
「ふーん、一日経っただけなのにな。」
「生きたままが理想だ。」
台の上に残った死体にコルプトは目線をやる。
ティダウはすぐに死体を布で包むと、運ぶ。
コルプトは壁をくり抜いただけの棚に、宝珠を並べる。
そこには、数多くの赤い輝きがあった。
その一つに、加える。
「……。」
ふとコルプトの手が止まった。
台座に乗せられた一際、赤黒く輝く宝珠。
それは何よりも美しい、燃えるような赤。
指が伸びる。
この赤をいつも見るたび。
欠けた胸が痛むように高鳴るのだ。
「黒王、エンルフ。」
コルプトの唇が言葉を紡ぐ。
それは語りかけるようでもあったし、歌うようでもあった。
「あなたはどう思う?」
音は吸い込まれ、静寂だけが返る。
石台の上に残る赤が、床へと滴り落ちた。
「……我には死者の言葉はわからぬ。」
コルプトはそう言うと宝珠を撫でる手を引く。
「新たな器が見つかるまでの眠りだ。
あなたはそこで生き続ける。」
誰に言うでもない言葉が部屋に落ちる。
コルプトは手に残った血を拭うと、灯してあった蝋燭の灯りを消す。
「……そう、生き続けるはずだ。」
気がつけば死体を捨て終えたティダウが戻ってきていた。
宝珠に語りかけるコルプトに、首を傾げている。
「それ、好きだよな。」
ティダウが笑うと、コルプトは棚から離れる。
その様子を見てティダウは尋ねた。
「で、試練の内容は決まったのか?」
「試練……。」
コルプトが言われた言葉をそのまま返すと、呆れたようにティダウは言った。
「爺さんに言われてたろ。
どうやって宝珠を授けるやつ選ぶんだよ。」
血の蠱毒。
魂を血に宿し、宝珠へ変えるロンラディムの秘術。
器となる戦士を選ぶのは神官の役目だ。
無理な試練では意味がない。
だが、容易なものでは石は磨かれぬ。
コルプトは棚に並ぶ宝珠を見上げる。
磨かれた魂たち。
強き者も、弱き者も。
最初は皆、ただの石だった。
「……試練は一つでいい。」
ティダウが息を呑む。
「互いに殺し合え。」
静かな声だった。
「石は――叩かなければ光らぬ。」
だが、このときのコルプトはまだ知らなかった。
自分の魂こそが砕かれる石となることに。
誤字直しました。宝寿となっている箇所を宝珠に修正。




