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攫われた先へ

 影が消えたあとも、誰もすぐには動けなかった。

 泉に波紋が広がる。

 ついさっきまで騒がしかったはずなのに、急に広くなった気がした。


「ミムラス……ラガルさん?」


 シーナの呼ぶ声が聞こえる。

 けれど、返事はない。


 ラガルと一緒に、ミムラスの姿も消えていた。

 それでようやく、二人が連れ去られたのだと実感する。


「嘘ですよね。う、嘘だ。」


 震えるシーナの横で、イーヴァが泉の縁を蹴った。

 そして洞窟の奥を睨むと、追おうと走り出す。


「ふざけるな……!」


 掠れた声だった。


「待ってください!メフェルさんを……。」


 シーナがイーヴァを引き留める。

 イーヴァは進む足を止めた。


 そうだ……アイツの言葉は。


 そこまで考えて舌打ちをした。

 面倒なことになった。


「メフェルさん……目を覚ましてください。

 起きて、ねえ!」


 シーナがメフェルの肩を揺する。

 堪えようとしても視界が滲んだ。


「う……。」


 メフェルの瞳が薄っすらと開く。

 そしてシーナの顔を見ると、驚いた。


「シーナ……?どうして泣いてるの?」

「メフェルさんっ。」


 メフェルが周囲を見渡す。

 けれど何かがおかしい。


「あれ……ラガル?ラガルは?」


 あの大きな背中がない。

 それだけじゃなく、妙に静かだ。


 イーヴァは俯き、拳を振るわせている。


 ミムラスは……。


「ミムラス?」


 彼女の姿もどこにも見えない。

 明るいあの笑顔を探すが、ない。


「メフェルさん、どうしよう。

 お二人が……ウラガフに。」


 シーナはそこまで言って、もう堪えきれなかった。

 涙が止まらない。

 メフェルはイーヴァを見る。


「……あの追っ手の男に連れ去られた。」


 イーヴァはメフェルの顔を見れなかった。

 メフェルは言葉を失う。

 そして、洞窟の奥へ一歩踏み出した。


「ラガル……ミムラス……っ!」


 メフェルは洞窟の奥を見つめたまま立ち尽くす。


「そんな……。」


 誰も彼女に声を掛けられなかった。


 風が強く吹き、雪が三人を襲う。

 寒さが心まで凍りつかせるように、沁みた。


 メフェルの小さな肩が、震える。

 強く握りしめた指先が、白くなった。


 彼女は顔を勢いよく上げる。


「……おい、何処へ行く。」


 そのまま、洞窟の奥へと歩みを進めるメフェルを見て、イーヴァが声をかける。


「決まっているでしょう。

 探しに行くの。」


 メフェルの声は張り詰めていた。

 鋭い弦のように、声が響く。


「どこに。」

「……大陸の果てまで行ってでも探すわ。」


 その目は鋭い。

 いつもの穏やかな瞳とは違う。


「無謀だ。」


「いいえ、私はやるわ。」

「……。」


 その姿にイーヴァは気圧された。

 どこかで同じ感覚を覚えたことがある。

 彼は奇妙な感覚と、熱意に言葉を飲み込んだ。


「僕も、僕も行きます。」


 シーナが涙を拭ってたち上がる。

 友人たちとこのまま別れるのは嫌だった。


「……分かれ道、あったじゃないですか。

 ラガルさん、故郷に通じる道って言ってました。」


 記憶を辿り、シーナは言う。


「そう、決まりね。」


 メフェルは杖を拾うと、真っ直ぐに歩いていく。

 シーナも走ってついて行った。


 イーヴァはその後ろで歯を噛む。


 大股で歩くと、メフェルの前に出た。


「何、止めるつもり?」


 メフェルがイーヴァを睨みつける。

 彼は首を横に振った。


「……お前たちはどうせ道を覚えてないだろ。

 俺も行く。

 それに……ラガルにお前を頼まれた。」


「ラガルに?」


 メフェルはしばらく考えるそぶりを見せると、一言呟いた。


「そう……。」


 そして三人は歩き出す。

 攫われた二人を取り戻すために。


 洞窟の闇の中にその背は消えていった。

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