解けなければ
アルダの館を後にした一同は今後の予定を話し合っていた。
今借りている宿――イルネスの工房の二階に集まっている。
「やっぱり、僕たちまだ追われてるんでしょうか?」
シーナは窓の外を見た。
ウラガフという男たちの姿は見えなかったが、いつ追いつかれるかわからない。
その不安が彼の胸の中にあった。
「さぁな……ラガルに聞いた方がいいんじゃないか。」
イーヴァがじろりとラガルを見る。
「ウラガフは執念深い男だ。
船場を抑えているやもしれぬ。」
ラガルがそう答えると、イーヴァは頭に手を当てた。
頭の中にサンオドアルの地形を思い浮かべる。
イーヴァの知っている情報を総動員した。
「残念だが、この土地に港は一つしかない。」
「はぁ!?なんでそんな都合よく無いのぉ!」
ミムラスは自身の髪を掴むと左右に引っ張る。
そしてそのままパタンと倒れた。
「用があったのはラガルっぽかったじゃん。
もうラガルだけ差し出しちゃおうよ。」
「断る。」
ラガルは短く答える。
返事のあと、部屋の空気だけが動かなかった。
シーナはその横顔を見て、顔を曇らせる。
(ラガルさん、僕たちを巻き込みたくないって言ってたけど……本当なのかな。)
本当のことはわからない。
(言えない、だけなんじゃ。)
胸の底が、ぬるく冷えた。
呪紋が解けずにどこか安堵する自分もいる。
気づけば、ラガルが自由になることを恐れていた。
もし彼が自由になれば、リィマのような人間が増えるのではないか?
そんな疑問を持ってしまった。
……怖い。理由なんて、どうでもいいのに。
「ところでメフェル大丈夫かな?」
ミムラスが隣の部屋の壁を見つめる。
メフェルは一人になりたいと言って部屋に閉じこもってしまった。
ここまで露骨だと、流石のシーナでもわかる。
温泉に行ったときも、二人で話していた。
その後、手を繋ぎながら歩いているのも見た。
(メフェルさんはラガルさんが怖くないんだ……それどころか……。)
並ぶ二人を思い浮かべる。
ラガルに表情はないものの、雰囲気は柔らかい。
メフェルはシーナたちには見せない表情をしている。
思わず喉が詰まった。
自分もずっと仲のいいままでいられたら良かったのに。
ラガルはシーナのことを気にかけてもいない。
前みたいに笑ってくれない。視線も、一度も来ない。
疑いの眼差しで見る自分も、なんとも思われてない事実もシーナの心に傷を残す。
自分だけ二人の遠くにいるような、そうシーナは思った。
このまま呪紋が解けなければいいのに――。
シーナは舌を噛んだ。




