第7話 石化していく人々
「間に合った~……!」
あの後グレイさんと対処法について話し合っていたら、始業チャイムのギリギリになってしまった。
やっと学校へ登校してホッとしている私に少しにやけた顔で結衣が話掛けてきた。
「おはよ~美咲、今日は珍しく遅刻したねぇ~」
「はぁ……そうなんだよ……はぁ……久々に全力で走ったよぉ~……」
「すっごい汗かいてんじゃん。どんだけ必死だったのよ~!」
笑いながら話す結衣にムッとしてしまい、軽く背中を小突いてしまった。
「あ、そういえばさ連絡来てたけど、結局グレイさんと住んでる感じ?」
「そうそう、今日からパパの職場で働くらしくて一緒に行ったよ~」
「よくおじさん達が許したねぇ~」と、私達が話しながら席に着くと、廊下では先生達が慌てた様子で走っていた。
(先生達どうしたんだろう……)と不思議に思っていると、担任が教室のドアを勢いよく開け入って来た。
「みんな、登校して早々にすまないが今日から一週間自宅待機で……!」
「え、なんで?」等と、みんなが顔を合わせ戸惑っていた。
「どうしてですか……?もしかして、今朝のニュースと関係していますか……?」
「あ、あぁ……神奈川に居たという謎の巨大な怪物がさっきこの近くの駅で目撃されたと学校側に連絡が来た……。」
「う、嘘……!」「そんなぁ……足跡ですらデカいのが……こ、こんな近くまで……!」
「みんな落ち着いて!それでだ、近隣にある学校は全てしばらくの間登校をさせないようにと通達が来たので、この後すぐに家に帰るように……!ご家族にはメールにてその旨を伝えている状況だから、もう荷物もって帰るように……!」
先生のその言葉を聞いたみんなは、我先にと席から立ちあがって叫びながら学校から出て行った。
(私も帰んなきゃ……!おばあちゃんが心配……!)
ここに居ては駄目だと危機を感じ取った私は、おぼつかない足で家へと急いで帰った。
「おばあちゃん……!」
「美咲……!おかえり……だけど、何をそんなに慌てて帰ってきて……一体どうしたんだい?」
「今朝……!ニュースでやってた石化の……!事件が東京まで起こってて……!」
私がうまく答えられなく、息を整えているとおばあちゃんは優しく背中を撫でてくれた。
「ゆっくり話し。ちゃんと聞くから……」
「うん……それでね……さっき、急に自宅待機になって……おばあちゃんが心配で急いで帰ってきたの……」
「そうかい……それはありがとうねぇ……」
「それにしても、本当に恐ろしいねぇ……ここ最近妙な事件ばっかりだから……」
プルルルルルルルルルルル!
おばあちゃんとお茶を飲み、早まっていた気持ちを落ち着かせていたら私のスマホから着信音が突如として鳴り響いた。
「あ、お母さん……もしもし?お母さんどうしたの……?」
「もしもし美咲?今どこに居る……?大丈夫なの……?」
「う、うん……私は今さっき、家に着いたところだよ。お母さんの方は大丈夫なの……?」
「良かったぁ……お母さんは今のところ問題ないわよ!心配ありがとうね」
お母さんの声を聴いてホッとしていると、突然……。
ドォン……!ドォン……!
「あ、あぁ……」
お母さんの狼狽える声と共に、電話越しからけたたましく鳴り響く何かが聞こえた……。
「お母さん……?お母さん……!」
「どうしたんだい……?美咲……?」
不安で仕方なくなった私の背中をおばあちゃんはまた優しく撫でてくれた。
「美咲……何かしらあれ……お、お母さん今すぐかえ……」
お母さんの声が突然にして聞こえなくなった……。
「ま、ママ……!?あぁ……あぁあぁああ……!」
「美咲……!お母さんがどうしたんだい……!」
「ママが……た、多分……ば、化け物に……!あぁあああああ!」
膝から崩れ落ちた私におばあちゃんは優しく包み込んでくれた。
その優しさに私は嬉しくも、不安が押し寄せてしまい涙が止まることなく嗚咽と共に流れてきた……。
~少し前、父の職場にて~
「すごいな……」
美咲の父は大規模な農場を経営しているオーナーだ。
数十種類の野菜、米、果物……様々であり、今は夏野菜の収穫時期の為か特に人手が要る。
俺は想像よりも大きい農場に驚きつつ、正直な気持ちこの世界の野菜についてはこれっぽっちも知識が無い。
でも、せっかくの紹介で入ったからには努力する気持ちを強く決めた。
「……やれるだけやってみるか。」
「え~……皆さん、おはようございます。それではね、これから朝礼を始めます。まずは、今日から新しく入る従業員を紹介します。グレイ・ブラン君だ。」
美咲の家とは違って、沢山の人間達に囲まれている。
緊張するな……という方が難しい。だが、これから一緒に頑張る先輩たちにしっかり挨拶をしなければならない。
「初めまして、グレイ・ブランといいます。農業の経験はあまり無いですが、力には自信があるのでなんでも言ってください。よろしくお願いします。」
上手く言えただろうか……だがそんな不安をかき消すように、多くの従業員達からよろしくお願いしますと笑顔で挨拶を返してもらい、少しだけ安心した。
こう……囲まれていると、部下たちを思い出してしまい、少しだけ涙が出そうだった……。
(だが……今回は俺が下っ端側だ……先輩達について行かねば……!)
「え~グレイ君は外国人ですが、日本語も話せるらしいので、優しく教えていきましょう。まぁ、初めてで色々分からないと思いますがそこは先輩たちを頼ってください。それでは、今回はトマトの収穫を手伝ってもらいましょう」
今回の俺の仕事は「トマト」という野菜の収穫のようだった。野菜自体嫌いではないが、王国で育てている野菜は俺には好ましくなく、むしろ美味しくはなかった。
いつも無心で食べていたが、この世界の野菜はどうなっているんだろうか……少しづつ興味が沸いてきた。
「じゃあ、案内するわね!私は、菅井っていうのよろしくね!」
「はい……!よろしく、お願いします……!」
俺は菅井さんという、美咲のお父さんに近そうな年齢の女性に連れられ、持ち場に向かった。
どうやらトマトはこのビニールハウス?という建物の中で栽培されているらしい。
なんでも野菜に最適な気温や湿度が管理されていて、天気に左右されずに育てられるという……人間界は本当に便利なもので溢れている。
ビニールハウスに入ると、中に広がる光景に俺は珍しく目を輝かせた。
室内いっぱいに実っている芳醇で熟したトマト。とても鮮やかでそれはまるで紅く光る宝石のようだった。
「すごい……これって全部そうなんですか!?」
「ははは!そうだね、これと同じようなハウスがあと5つぐらいあるからね、これが結構大変なんだよ!」
笑いながらそういう菅井さんの手は土だらけで、仕事に熱心な人だとすぐに分かった。
管井さんから軽く説明を受け、すぐさま仕事に取り掛かる。
ハサミで1つ摘み取り持ってみると中がぎっしりと身が詰まっており、重みがあった。
「あなた、トマト食べたことないのかい?若いんだからいっぱい食べないと!」
ほれほれ……と勧めてくる菅井さんの押しに断っていると、
「良いから、騙されたって思いで今取ったやつ食べてみな!オーナーには黙っとくからさ!」
「では……お言葉に甘えて……いただきます。」
一口齧ると口の中には瑞々しさと酸味、そのあとに来るほんのりとした甘みに俺は驚いた。
こんな野菜が存在していたのか……王国にも似たような野菜はあった。
しかし、瑞々しさも甘さもこれっぽっちも無く唯々酸っぱく食べられないものだった。
俺は感動からか自然と涙が零れた。
「泣くほどかい……!」
「だって……このトマト、すごく美味しいんです……こんなにおいしい野菜初めて食べました……!」
「お口に合ったようで嬉しいわ!さぁ、バレないうちにどんどん摘んでいきましょうか!」
菅井さんの教えが優しいからか、俺はすぐにコツを掴みどんどん収穫していった。
作業もひと段落したお昼時、ゾロゾロと休憩に入っていく従業員達。
「はい?もしもし……」
突然電話が鳴り響き、音のする方に耳を傾けたら裕二さんの声が聞こえた。その相手は……美咲だった。
「美咲……どうしたんだ……?……な、何!……美咲の方は無事なのか!?」
人間より聴力の優れている俺は離れていても電話の内容がはっきり聞こえており、すぐに緊急事態だと察した。
どうするか考えるよりも、身体が先に動き出していた。
「ちょっとお手洗い行ってきます……!」
「はいはい、気をつけてね~!」
そういって許可を取ってその場から飛び出し、美咲の元へと向かった。
(多分、おばさんに何かあったのか……急がねば……)
待っていろ……すぐ向かうからな……美咲……!




