第8話 再会
俺は人には見えない速さで移動していると、石化した人たちが何十人といる広場に出てしまった……。
「まさか……もうこんなに被害が……!」
「パパ……パパァ~……!」と縋りつき大粒の涙を流す小さい女の子……。
「なぁ、奈子……嘘だろ……!クソッ……!」と悔しさで地面に拳を打ち付け、血を流す男性までいた……。
石化した者の近くには、家族や恋人の泣きわめき悲痛な声が飛び交っていた……。
(バハムめ……!自身の快楽の為ならば、この世界までも崩壊させる気か……!)
その場は阿鼻叫喚の嵐となり、俺は目も当てられなかくなり顔を逸らした……。
(浸食の速さが前回よりも尋常じゃない……早急に対処をしなければ……!)
急ぎ足で美咲の元へと向かおうと走り出した、その時……。
(やはり……か……)
苦虫を嚙み潰すような顔をした俺の目の前には美咲の母……真紀さんの石化した人達の中に居るのを見つけてしまった……。
(美咲は今頃、分かっているのかもな……)
急いで美咲の家の近くまで着き、周りを見渡していたら……。
ズドォン……ズドォン……と、深い振動が俺の後ろで鳴り響いていた……。
遠くに聳え立つ高層ビルから顔を出したヤツに、俺は沸々と怒りが込みあがってきた。
「ハァァアアアア!」
俺は考える暇もなく無我夢中で敵がいる方向へと勢いよく突っ込んだ。
(もしかしたら、ここで正体がバレ皆を驚かせてしまうかもしれない……だが、今倒さねば……!)
周りに被害がいかないように注意しつつ、俺は攻撃していたが思ったよりもダメージが通らなかった……。
まるでかすり傷を払うように俺の存在に気づいていない魔物は人がいることも構いなく、唯々歩みを進めていく。
……こいつは、元居た世界でバハムと戦った時に奴が生み出しだ魔物の内の一体……。
辺りを石化させる邪眼を持ち俺の部下達を石化させ、その巨体で悉くを踏み潰してきた。
忘れたくても忘れられない憎き相手……そう、ヤツの名は……。
「バジリスク……!」
だが、あの戦いは元の世界であったため常にフルパワーを出せていたから倒せた……しかし……。
「……やはりこの世界で俺の本気は半分くらい……か……」
だが、このままヤツの進行を許してしまえばいずれ美咲だけではない……ここに住む人々にも危険が及ぶ。
もう二度と、悲しい顔をさせたくはない……。
(……仕方ない……まだ昼間だが、変身をするしかない……。)
自身に残っている魔力をありったけ込め、一気に放出する。
(あと少しだ……!)
腕から徐々に身体が変化していき、本来の狼の姿へと戻っていこうとしていた……。
「……クソッ!マジかよ……耳と尻尾だけか……!」
だが、まだ昼間のせいからか、途中で変化に失敗してしまい……。
ボンッ……という音が鳴り、何とも中途半端な姿となってしまった……。
(……このままでもやるしかない……!)
俺は魔大剣フェンリルにありったけの力を込め、神経を研ぎ澄ます……。
本来の姿なら省いていたが今のままじゃ火力不足だ。
ー汝、尊敬し偉大なる獣人の神よ。我、力を望む者也。民を守りし守護の力、今解放させよ……ー
ー民の繁栄をもたらし、全てを灰塵と化す炎の力、獣神王アニマ様の名の下に魔大剣フェンリルへと宿り給えー
「 ”炎狼斬” 」
放たれた豪炎を振り落とした斬撃は勢いを増していき、紅き狼の姿へと変貌し、バジリスクの方へとその鋭い牙を剥く。
勢いよく放たれた攻撃はアスファルトさえ焦がし、バジリスクの皮膚を切り裂き紅き狼の炎は火傷のような焼け爛れた跡を怒りと共に深く残した。
ダメージが入った事により今まで進行していたバジリスクの歩みがピタリと止まり、耳が痛くなるほどの悲痛な咆哮をその時初めて上げた。
ギャアアオオオオオオオオオ……
……だが、中心にまでダメージがあと一歩のところで届かず進行がまた始まってしまった。
「皮膚が固い……あと少しだというのに……!」
何とかして動きを止めないと……
「被害が少し大きくなるが……やるしかない!」
地面にフェンリルを突き立て、魔力を込める。
ー汝、尊敬し偉大なる獣人の神よ。我、力を望む者也。民を守りし守護の力、今解放させよー
ーある時は命を育み慈しみ、またある時は命を奪わんとし呑み込む膨大な地の力、獣神王アニマ様の名の下に魔大剣フェンリルへと宿り給え……ー
「 ”状態変化・地鳴り” 」
カラッ……
バジリスク周囲の地面が揺れだし、アスファルトが割れていく……。
震える地面のぐらつく影響から徐々に地面が柔らかくなる「液状化現象」を引き起こした。
悲鳴を一声あげるバジリスクの足元を抑えておけば、簡単に身動きが取れなくなる。
その巨体で液状化した地面から足を抜こうともがくバジリスク。
「グアァアアアアアア!」
「固まった人たちを元に戻させてもらう!これで、最後だァ……!」
ヤツの首を狙い、確実に息の根を止められる炎狼斬を放つべく詠唱を唱えようとしたが……何か様子がおかしい。
「……まずい!石化の邪眼を発動する気か……!」
目が怪しく光るのを防ぐべく、すぐさま着地し剣を地面に突き立て防護壁を作る。
「形状変化・土壁!」
バジリスクの邪眼から放たれる光を見なければ石化はしない。
辺り一帯を包み込む眩しい光が消えた瞬間を狙い、壁の裏から一気に飛び出した俺はバジリスクの首に狙いを定め飛びかかった。
(ヤツの弱点は恐らく首だ……この一撃で叩き込みトドメを刺す……!)
その時だった……。
「頑張れ~……!」
さっきまで、石化した父親の横で泣いていた少女が俺に向かい一生懸命声を張り上げていた。
その勇気に敬意を払い、少女に笑顔を向け鋭い眼光ですぐに敵の方へと突き進んだ。
俺はもう一度詠唱をし、炎を纏わせた魔大剣フェンリルに回転を加え更に威力を増大させる……。
「 "炎狼断”!! 」
空中には炎が広がり、フェンリルから放たれた斬撃の強さを示していた……。
首を切り裂かれたバジリスクは力尽き、その場にゆっくりと倒れ込んだ……。
「はぁ……はぁ……流石に魔力が切れた……か……」
ただでさえ少ない魔力を使い切ってしまった俺は膝を着き、獣化していた耳と尻尾が消えてしまった……。
「グレイさん……!」
「……美咲……!」
後ろから聞きなれた声がして、俺は思わずホッとしてしまった。
「まさか……あの怪物を倒したんですか……!怪我は……?大丈夫ですか……?」
美咲は重いだろうに、俺に肩を貸し起き上がらせてくれた。
「ハハッ……今ので力全部使ったからな……だいぶ疲れたよ……」
「もう、気をつけてください……ね……」
急に口ごもってしまった美咲の方に顔を向けると、涙が一粒流れていた。
「……あれ?私……何して……確か、美咲と電話していたような……それで……」
「……お母さん……!」
無事を安堵し大粒の涙を流す美咲の背中を押し、母の元へと向かわせた。
勢いよく抱き着いた美咲を優しく包み込んだ真紀さんは、どこか動揺していたが嬉しそうだった。
「美咲……?どうしたの、そんなに泣いて」
「……無事でよかったぁ……!」
辺りを見渡すと、石化が解けた人々の歓喜の声が聞こえてきた。
「パパ~……!」「お~、亜湖……!無事だったか……?」
「奈子……良かった……!本当に良かった……!」「もう、あなたがそんなに泣くのなんて、何だか珍しい……!」
(良かった……)そう、心から安堵していると突然、禍々しい魔力を纏った存在が背後から現れた。
突然現れた異様な気配に俺は動けなくなり、固まるしかなかった……。
長身で耳がエルフの様に鋭く伸び口元には、人間の物よりもはるかに長い犬歯……。
「……久しいな、グレイ・ブラン……まさか生きていたとは……な?」
勢いよく振り返った先には、意味深く笑う吸血鬼のような男……。
「……やはり、貴様の仕業だったのか……何が目的だ!」
バハム……!




