第3話 復活の狼騎士
「グレイさん……!」
「……久しいな、確か……美咲……?だったな。襲われて怖い中、よくここまで耐えたな。あとは俺に任せてくれ……安心しろ……すぐ終わる」
私を背中で庇いながらグレイさんは自身の身体と同じくらいの大きな剣を振り上げると、剣の周りに緑の光が風と共にどんどん纏っていった。
(き、綺麗……)
「風狼斬!」
思いっきり振り下ろした剣から出た鋭い斬撃は2匹の蛇に向かって行き、その身体に無数の傷をつけた。
「す、すごい……!」
しかし、グレイさんの顔は歪んでいた。
「……やはり……か、この世界では俺の力が半減されている……」
「あ……でも……」
自慢の黒光りな固くて厚い身体を傷つけられた2匹の蛇は、グレイさんをひと睨みした後私たちの周りに白い煙を吐いた。
「ま、周りが……見えない……!」
「……フンッ!」
グレイさんが周りの煙を切り裂くと、蛇の姿はどこにもなく忽然と消えていた。
「い、いなくなった……?よかったぁあ……」
まだ安心はできない。
しかし、とりあえずひと段落がついたと分かった途端、私はその場にへなへなと座り込んでしまった。
「……すまない、取り逃がしてしまった……怪我はしていないか?」
「わ、私は大丈夫です……!ありがとうございます!あ、その……グレイさんは大丈夫ですか……?」
「俺の事は気にしなくていい、怪我はしていない……それよりも、君が無事ならよかった。……しかし、まだ近くに奴らは潜んでいるかもしれない……現に気配はまだ感じるからな……」
私はその言葉を聞き、言葉が詰まってしまった。
(そうだ……まだ、まだ安心しちゃいけないんだ……)
あいつらが近くにまだいるかもしれない……その言葉がまた私を恐怖に陥らせていった。
「……俺はこのまま奴らの気配を追う。……君は、今すぐにでも安全なところに逃げるんだ。」
「ま、待ってください!私も……私も一緒に連れて行ってください!」
怖い……そのはずなのに、私は咄嗟にそう声に出していた。しかし、グレイさんは怪訝そうな顔をして、
「これは君を撒きこんじゃいけないんだ……!君だってわかっただろう?あれは君たちの世界では対処しきれないんだ!」
「優しさだけじゃ君の大事なものは救えないんだ……!これは、俺がいた世界の問題なんだ……お願いだ、この場から逃げるんだ!」
「わ、私は……私は結衣を……!親友を助けに行きたいんです!」
「結衣って、まさかこの間君といた子か……?その子が捕まっているならなおさらだ……!今は君が狙われているんだ、逃げろ!」
(グレイさんの気持ちもわかる……。本当は私だってこの状況から逃げ出したい……怖い……でも……!)
その時、私は結衣の優しい笑顔を思い出した。その笑顔を私は……
「私の大事な親友を!生きているなら助けに行きたいんです……!無茶なお願いなのはわかっています!」
(結衣とまだ遊びたい……一緒に笑っていたいよ……だから……)
「だから……お願いします……!私も……連れて行ってください……!」
私は泣くのをこらえながらグレイさんにお願いした。
しばらく沈黙が続き、恐る恐る顔を上げるとグレイさんは頭を掻きながらため息を吐いた。
「……わかった、君は意外に頑固なんだな……ただし、約束してくれ。無理はしないことだ。基本は俺が動く」
「……!あ、ありがとうございます……!」
(この意思を曲げない頑固なところ……まるで……あいつみたいだな……)
グレイさんは一瞬だけ顔を緩め、雲がかかった夜空を見上げたかと思うとすぐこちらに顔を向けた。
「……アイツ等は捕獲した餌を、食糧庫に貯め込む習性がある……俺があいつらの気を引いているからその間、捕まっているであろう人達を助けてもらいたい……多分、まだ生きているはずだ」
「本当……ですか……!ま、まだ結衣たちは生きているんですか……?」
「確証はないが……な」
「で、でも……よかったぁあ……!」
「……気配からして、俺が君たちと出会った山から少し離れたところにいるだろう……時間はかかるが行こう」
グレイさんはそう言い終えると、逃げ出した蛇の血の跡を辿って食料を蓄えているであろう巣に向かった。
しばらく、2人の間には静寂だけが広がっていった……
(私、グレイさんに助けられたんだ……なんだろう、この胸の温かさ……)
目的地の巣に着くと、私にも感じられるほどの禍々しさが辺りに漂っていた。
「……ここが奴らのアジト……ってことだな」
一歩、また一歩と中に入っていくと、そこには新緑で広がり生い茂っていたはずの木々の一角が辺り一面、あの巨大な蛇の卵が転がっていた。
さらに奥に進むと、そこには汚く濁った毒々しい沼地が広がっていた……
「……!」
私はその光景を目の当たりにしてついてきたことに少し後悔してしまった。
(でも……この先に結衣も常連のおばちゃんもいるんだよね……)
恐怖に負けそうになり足が竦みそうにながらも、遅れを取らないようにグレイさんのほうに足早に向かった。
ズズ……
「あらぁ?珍しいお客さまだわぁ……ルナリア王国の騎士様じゃないのぉ~……」
ズズズ……
「でも、意外に弱そうだなぁ……って1人は人間じゃないか……!えぇ~、僕食べちゃおうかなぁ~?」
ズズズズ……
「この世界では力が弱っているようだ……あいつは儂が相手をしたいのぉ……」
ズズズズズ……
「まぁ、まずは遊ぶのもいいわよ?あたしたちのだぁいじな仲間を傷者にしたんだから……たっぷりと……ね……?」
「……!まずい、気をつけろ!」
グレイさんの声が聞こえたと同時に私はまた、空に浮かんでんでいた。
地面に下ろされ、グレイさんが怪訝な顔して向いている方向を私も見るとその光景に顔が歪んだ。
「う……嘘……」
土煙が晴れ、姿を現したのは9体の巨大な蛇であった……
「予想はしていたが、まさかこんなにいたとは……」
グレイさんは左腕で私を庇いながら、剣にもう片方の手を伸ばしていた。
「あら、そんなに怖い顔しないでよぉ~。せっかくのイケメンが台無しじゃない」
「……生憎、貴様らにはこの顔がお似合いだということだ」
「……!グレイさん!う、後ろ……!」
振り向くとすでに3匹の蛇が回り込んでいた。
「……合図とともに君は右側に逃げるんだ……」
耳元でグレイさんからそう指示されると、後ろにいた3匹からその太くて頑丈そうな尻尾を一斉に叩きつけてきた。
「……クッ…!」
グレイさんが剣で3攻撃を防ぎ薙ぎ払うと、別の3匹が毒ブレスを吐いてきた。
「グレイさん……!」
グレイさんの死角からブレスを吐いたため、咄嗟に避けたはずが左腕をかすってしまった。
「クソッ……!」
グレイさんは片膝をつき、その場で動けなくなってしまった。
何もできない私と絶体絶命のグレイさん……。
そのとき木々の隙間から一筋の光が差し込む。
雲が晴れ、差し込むは満月の碧い光……。
「これは……!」
グレイさんの周りに月の光が纏わりつき、その体に銀灰色の毛が生え筋肉がどんどん盛り上がっていき……。
(す……すごい……!)
爪が伸び大きくなった口を開けば牙が生えていて、その見た目はまるで……。
「狼……男……!」
山全体に響くは変貌を遂げたグレイさんの咆哮……その正体は噂になっていた狼だったのだ。
狼になったグレイさんは一度身震いをし、目の前の敵を黄色く光るその眼で睨んだ。
「これで、お互い本気でぶつかり合えるな……」
「ま、まさか……!その姿になるとは聞いていないぞ……!?」
蛇たちはグレイさんの変貌した姿を見ながら上ずった声を出し、怯んでいた。
「あ、あたしたちがたかが狼ごときに……負けるわけにはいかないのよ……!」
「仕方あるまい……かくなる上は……!」
悔しそうな声を発したと思ったら、9匹の蛇がぐるぐると一か所で回りはじめたのだ。
そして蛇たちは変貌をし、姿を現したのは1体の巨大な怪物だった……。
9つの蛇の頭……下に生えるは4本の足……その姿はギリシャ神話の怪物。
「ヒュドラ!?」
私の声にグレイさんは顔を向け
「まさか……知っているのかこいつのことを!」
「前……本でしか読んだことないけど……神話上でこんな怪物の伝説があったんです……!」
「知っているのなら、こいつをどう倒すのか教えてくれ!」
「え……っとた、確か……再生能力があるから……斬った部分を炎であぶれば再生しなくなるとしか……」
「そうか、炙れば良いのだな……!」
さらに巨大になった蛇の化身……ヒュドラから放たれる毒ブレスの猛攻を潜り抜けて、懐に着いたグレイさんが剣を構えると、紅く輝く炎が纏っていき……。
「炎狼斬!」
炎が纏わりつく剣を思いっきり振り下ろすと、ヒュドラの伸びた頭部の1つを切断することに成功した。
「なぜだ……!なぜ、復活しないのだ……!」
「い、嫌だ……ぼ、僕までやられたくないよ……!」
その泣き言も虚しく、つぎつぎに首を落としていくグレイさん。
艶やかで光り輝く毛並みを揺らし倒していくその姿は私の目にはとてもかっこよく見えた。
「貴様で最後だ……報いを受けよ!」
「く、くっそぉおおおおおおおおおおお!」
最後の首を切り落とされたヒュドラは月明かりに照らされながら砂となり吹き消えてしまった。
ヒュドラの姿が消えると、辺りの禍々しさも消えいつもの森になった。
「こ、これで……お、終わったんですね……!」
「あぁ、この事件も終息がつく。あとは、囚われた人たちを助けに行かないとな。」
「そ、そうですね……!」
私が、結衣たちが捕まっているであろう場所に向かおうとするも、グレイさんは動こうとしなかった。
「グ、グレイさん?早く行きましょう!」
「いや……俺は近くで隠れとくよ、この姿を見て俺が襲った奴だと疑われかねないからな……」
「そ、そうですかね……?でも、私が弁明しますよ!」
「洗脳されてるなんて疑われたら嫌だろ?……良いから、さっさと行ってこい」
(そんなことないのに……)と不服になりながらも、捕まっている人達の元に足早で走った。
中には結衣たち以外に15人もの人たちが捕まっていた。
「結衣ぃ!良かったぁ~……!」
「美咲……!やっと会えたぁ~……!よかったぁ……」
私達が涙を流し再会を喜びあっている中、遠くにいたグレイさんはひと際大きな禍々しい魔力を感じ取っていた。
「……まさか……な、アイツもこの世界に来ているのか……バハム……!」
この後、私達の身に更なる脅威が迫っていることなど、今の私達には到底考えられていなかった……。




