第2話 奇々怪界・・・のその先に
ネオンが怪しく光り賑わっていた人が次第に少なくなってきた深夜の0時30分頃、路地裏を転々としナニかが這いずり回る音が静かに響く。
ズズ…… ズズズ……
腕を必要以上に交わしいかにも夜の店帰りの男女がおぼつかない足取りで歩いていた。
「いや~今日も飲んだ飲んだ!すまないねぇ、わざわざ家まで送ってくれてねぇ。」
「いえいえ~、牧田さんにはもう本当にお世話になってますからぁ。羽振りが良くて嬉しいですぅ~!」
ズズズ……ズズズズ………
「でも、妻にはバレないようにしないとな~。アイツ勘だけは鋭いからな~」
「えぇ~、奥さん厳しいんですかぁ?牧田さんが来てくれないと私寂しいぃ~……次も絶対来てよね?」
わかってるよぅなんてはたから見れば胸焼けしそうな光景を遮るように、常連の携帯から着信が突然鳴り響いた。
「あれ?誰から電話だろうごめんね、ちょっと待っててね?もしもし……ってなんだお前か……」
「はぁい!……はぁ、やっと離れられた……あのじじぃ、馴れ馴れしいっての……」
男性から離れ、ホッと息をついた女性がスマホを開いた瞬間……
静寂の中に女性のスマホがカタっ……と落ちた音がした。
「分かった、もう帰るから……あぁ、じゃあな」ピッ
「ふぅ……ごめんねぇ、待たせたねぇ…って、あれ?おーい?」
辺りを見渡しても人の気が1つもしない……。
「……もう帰ったのかな?あ~…帰るなら言えよな……。はぁ、俺も帰るか……」
火照って赤い頬に夜の涼しい風があたり先ほどのこともあり少し不機嫌に帰る男性の後ろに潜む謎の影が一つ……。
~月曜日、朝7時~
「おはよ~」
「おはよう美咲、ご飯で来てるから早めに食べちゃいな」
まだ開ききっていない瞼を擦り、用意されたご飯を食べるべく席に着こうとした私はテレビの音に耳を傾けていると、1つのニュースに衝撃を受けた。
「えー続いてのニュースをお伝えします。繁華街路地裏で会社員の50代男性1名と、飲食店従業員の20代女性1名がほぼ同じ時刻に行方不明となる事件が発生致しました。警察の調べによりますと、主に強酸性の謎の液体が現場近くで検出されており、おそらく薬物を用いた犯行とみているとのことです。防犯カメラには映っていないものの、今一度犯人を捜索している模様です。」
「物騒な事件だねぇ~……」
「お義母さんも散歩には気をつけてくださいね?」
「ねぇ……お母さん?ここってさぁ、ウチからそこまで離れてないよね……まさかだけど犯人、近くにいないよね……?」
「ちょっと怖いわね……やっぱり1人じゃ危ないから、今日からお父さんに送ってもらおうね」
「うん、そうする……」
ごちそうさまと言い、部屋に戻るとこの間お父さんから聞いた情報をふと思い出した。
(まさか……違うよね……?)
怖くなった私は素早く着替え、すぐに玄関に向かった。
「お父さん、今日から学校まで送ってってもらってもいい?」
「おう、わかった。俺もあと少しで準備終わるからちょっと待ってろ」
朝の柔らかい光が優しすぎて、最近の事件のこともあり私は少しばかり怖かった。
(あれ?結衣、既読遅いな……)
お父さんに送ってもらうことを結衣に連絡したのだが、いつもすぐに既読がつくのにしばらくたってつかなくてだんだん心配が募っていた。
「美咲、そういや今日バイトあったよな?仕事が早く終われば父さん、近くまで迎えに行こうか?」
「うん、お願いしようかな?」
いつもより早く学校に着き、
「じゃあ、今日も元気に行ってきます!お父さんも気をつけてね?」
「あぁ、ありがとう。父さんも頑張るな!行ってらっしゃい!」
校門でお父さんを見送った後、足早に教室に向かうとやはり結衣の姿はまだなかった。
「あれ、結衣今日は遅刻かな?」
ホームルームが始まるチャイムが鳴り、教室に入って来た担任がいつもよりも険しい顔で教壇に立ち、重々しく開かれた口から発せられた言葉に私は息が詰まってしまうほど顔が引きつってしまった。
「みんなおはよう。朝からすまない残念な話があってな、このクラスの茂木結衣さんの親御さんから昨日の夜中まで家に帰ってなく行方不明になっていると今朝電話が入りました。帰宅時にいつも歩いている道を辿ったら、荷物だけが落ちていたとのことだ」
私は怖くなり、咄嗟に声を発してしまった。
「あ、あの先生……もしかして近く謎の液体が落ちていたりしていませんか……?なんか、朝見たニュースに似ている気がして……」
「そこまでは分からない……親御さんも突然のことに驚いていらっしゃったからな。まぁ、不安を煽りたくないがくれぐれも夜遅くまでの外出は控えるように。もし、これ以上増えた場合は自宅待機になるからそこだけはよろしくな」
(なんで……どうして結衣なの……?)
いつも笑顔で隣にいてくれる親友がいない現状に不安が募り時間が過ぎるのも気づかず、いつのまにか学校が終わっていた。
次は自分が狙われるかもなんて嫌でも自意識過剰になってしまい、その思いのまま私はバイトに向かった。
(あれ、相庭のおばちゃんたち今日は遅いな……)
夕飯の買い出し前の17時半には2人で入店してくるのに、今日は18時になっても来ることなく私はまさかねなんて思いつつ、不安になっていた。
人気が少なくなってきた18時半頃、その不安は嫌にも的中してしまった。
「ちょっと美咲ちゃん聞いて!ものすごく大変なのよ!」
「おばちゃん!?そ、そんなに慌てて、ど、どうしたんですか!?」
勢いよく入ってきたのは相庭のおばちゃんで、その顔は真っ青であった。
すぐに店の椅子に座らせお水を持っていき、おばちゃんの話を聞いた私は背筋が凍ってしまった。
「いつも一緒に来てるお友達が待ち合わせの時間になっても全然来なくて、どうしたのかと不安になっちゃって家まで迎えに行ったらね、朝早くの散歩に行ってから行方不明だって言われたの!」
(なんで…なんで私の周りの人がどんどん消えていってるの……?)
「も、もしかして……次はわ、私……?い、いぃ、嫌ぁああああああああ!」
「待って!おばちゃん!」
恐怖に震えたおばちゃんはまた勢いよく扉を開け店から出て行ってしまった。
(もう…これ以上失いたくないよ……)
伸ばされた手がただただ寂しく、思わず涙が出て震えてしまった。
「ニュースにもなってる行方不明事件……どうやら人気が少なくなる時間に起こっているらしいから、まだ明るい今の時間に上がりな」
「い、いいんですか……?それなら上がらせてもらいます……あ、でも父が迎えに来るのでその時間まで裏で待機していてもいいですか?」
「それなら問題ないよ、一先ずお疲れ様。気をつけて帰ってね」
「はい、ありがとうございます。店長も気をつけてくださいね」
早めに終わったとお父さんに送ったが、帰ってきたのは残業になってしまったという連絡だった。
(このままパパを待ってると遅くなるしな……ママやおばあちゃんに心配かけたくないし……仕方ない。帰るか……)
私は不安だが意を決し、明るい道を選んで帰ろうと店を後にした。
薄暗くなる道を警戒しながら歩いていると……
ズズ…ズズズ……
と、ナニかがつけてくる嫌な気配を感じた。
(何…?私、後をつけられてる……?)
速足で進むと謎のナニかもついてくる速さが上がって来た。
(どうしよう……怖い…でも、結衣たちを襲った存在を確認したい……!)
振り向いてみよう!と後ろを向くとナニもいなかった。
(よかった…)とホッと安心し、帰ろうとし前を向き歩き出した……
(よかった……家の近くまでこれた……!)
家まであと少し、不安が抜けていき安心から頬が緩んだ
……その瞬間だった。
ドンッ……
目前に玄関が見えているのに、壁のようなものに阻まれて私は前に進めなかった。
「なんで……?」
恐怖がさらに増した私は、後ずさってしまった。
その時、目の前が一瞬くらっとし、現れたのは謎の正体は体長5m程の巨大な蛇であった。
「ヒィッ……!」
ジロっとこちらを見るその目は鋭く、今にも襲ってきそうで足がすくんでしまった。
(た、食べられる……?もしかして、このままこ、殺される……!?)
私の背後から追ってきていた謎の存在もその正体を解き現したのは、まったく同じ蛇であった。
(嘘…!1匹じゃないの……!?)
私を挟むようにじわじわと詰め寄るこの絶体絶命な状況。
2匹の蛇は私を煽るような目をしながら、ぐるぐると周りを囲っていた。
(あ……私ここで死ぬんだ……)
飽きてしまったのか目の前の蛇が鋭い牙を見せ、襲いかかって来た。
(パパ……ママ……おばあちゃん……ごめんね……)
私が諦めて目を閉じたのを察したのか
その時だった……
「あ……れ……?」
襲ってこないな……と目を開くと、私の身体は空に浮いていた。
すぐに地面に優しく下ろされ、ふと目の前を見ると1匹は片目を、もう1匹は大きなその口を刃物で切られ、血を流し怯んでいた。
「最近、嫌な気配を感じていたが、その正体が貴様らだとはな……」
低く発せられたその声はどこか聞き覚えがあり、ふと顔を上げるとそこには……
「グレイ……さん……!」




