第1話 人間界に降り立った謎の男
人間界
~東京都~
6月15日
「ねぇ、そういえば美咲はさこの話知ってる?私のおじいちゃんからさ昨日たまたま聞いたんだけどさ、なんかねここ一週間近くの山で狼の目撃あるらしいんだよね」
酸性の匂いが残り少し肌寒く感じる雨上がりの夕暮れの中親友の結衣と帰路についていると、彼女がふいに零した声につい驚いてしまい危なく持っていた飲み物を落としてしまいそうになった。
「はぁ?絶対嘘だって!そんな、だってもう絶滅したって言われているのに今居るのおかしくない?」
「だよね、美咲もそう思うよね?でも、おじいちゃんの知り合いの猟師さんも見かけているらしいんだよね……」
少し信じそうなった私は怖くなり、少し強引に話題を変えて来週に迫ったテストの話をしてその不安を拭おうとした。
「ま、この話は多分嘘にしとこ、じゃあね結衣また明日。」
「そうだね、また明日!物騒だし、気をつけてバイト行けよ!」
結衣と別れてすぐ、時間がないことに気づき急いだ私はバイト先のケーキ屋に向かった。
元々甘いものが好きな私にとって今のバイトは天国そのもの、たまに試食ができるのが生きがいになっていた。そのせいで体重が増えてしまったのが今の悩み。
制服に着替え、レジ前に立っていると、いつも来店してくれているお客様からも噂のあの狼についての話が聞こえてきた。
「ねぇ、信じてよ!私なんて夜中歩いてたら道路横切るの見たんだから!」
「そんなの嘘に決まっているでしょう?ねぇ、美咲ちゃん。犬か何かよね?」
「えー?あ、もしかして野良犬か何かと見間違えたんじゃないですか?」
「そんな!美咲ちゃんまで!信じてよ……!」
相庭のおばちゃんの必死さと目撃情報が明らかに多いことにさらに不安になり、私は本当かどうか確かめたくなった。
「傘を忘れないようにしないと……」
午後9時頃、バイトが終わった私は早速結衣にLINEを送ってみることにした。
《ねぇ結衣、まだ起きてる?明後日の土曜日にさ、その噂の狼探しに行かない?その日バイトないし、それに明らかに目撃情報が多くてさ》
《あれ?もしかして、とうとう美咲もあの狼の噂を信じるようになった?》
《いやだってさ、今日来た常連さんみんな同じ話してたんだもん。半信半疑だけど少し気になるし、正直不安になってる。》
《そっか。まぁ、了解。明後日私も予定何もないし、それに暇だし付き合うよ。とりあえず、目撃情報が多いのは学校近くの山だったはずだから明後日行ってみよっか》
《うん、お願い》と打ち込み、街灯が少ない道をいつもより足早に帰った。
~土曜日~
雨上がりの午後1時頃、お昼も食べて少し眠気が襲ってきている中、私達は狼の噂の真相を確かめるべく学校近くの山に向かった。
「あれ、この山ってこんなにきつかったっけ?お昼食べ過ぎたし、もしかして私たちももう年取ったかな?」
「まだ高校生だっての!でも懐かしいね、ここでさよく遊んでパパたちに怒られてたよね」
「あ、そうそう!女の子だけで山に入るなって、でもこっそり入っては男子みたいに虫取りや木登りをしてさ、楽しかったよね」
「そのたびに傷つくってはまた怒られてね。ちょっと休憩しようか」
上った先に広がる草むらで疲れた足を休ませていると、
「この先にいつも遊んでいた洞窟あったよね、秘密基地みたい!ってはしゃいでいたさ」
「うわ、懐かしいね。どうする?ちょっと久しぶりにそこまで行ってみる?」
そう話しながら、少し先にある近くの洞穴に向かってゆっくり歩き始めた。
足がきついなどと愚痴を言いあいながらやっと洞穴に着いた2人が目にしたのは、
壁にもたれかかり眠っている美形な青みが入った銀色の髪の青年であった。
「え、なにこの人。こんな人知らないけど美咲知ってる?」
「わ、私も知らない。てかこの人少し怪我してるし、結構ヤバい人かな?」
2人で慌てふためきながら話していると眠っていた男性が起きてしまった。
「うるさいな……なんだお前ら一体何もんだ?」
キリっとした目に怯んでしまったが、黄色の目をしていてきれいだなんて不意に思ってしまった。
「わ、私は美咲って言います……。こ、ここは私たちの秘密基地って言いますか……」
「お、起こすつもりはなかったんです!すみません!あ、私は結衣です。」
「そうか、ここは君たちのだったのか。こちらも怖い思いさせてしまってすまない」
「俺はグレイという。グレイ・ブラン。ルナリア王国という国で騎士団長をしている……って言ってもわからないよな、すまない」
「ルナリア王国?なんかファンタジーの世界みたいですごいですね!でも、ここは日本です。そのルナリア王国って何ですか?」
「魔法で秩序を守る美しい国だ、というかここはにほん?というんだな。初めて知った。」
最初はただの厨二病をこじらせたイタい怖い人だと思っていたが、
会話を交わすごとに優しい人だと確信し、彼のいう言葉が本当に聞こえてきた私は、彼に興味が沸いていた。
「あ、あの。その傷……大丈夫ですか?」
「これか。この世界に飛ばされてくる前に大きい戦争があってな……その時の傷だ。」
「あ、あの!もしよければ、私の家に来ますか?」
痛々しく残る傷跡を見た私はいたたまれなくなり、ふいにその言葉が出てしまった。
「ちょ、ちょっと美咲!話してて危なくないとはいえ、男の人だよ!おばさん達びっくりしちゃうよ?」
「で、でも……治してあげたいし…。それに、ここだと風邪ひいちゃうし…」
だが迷惑をかけるわけにはいかないと、彼にやんわり断られてしまった。
「そういえば、君達はなぜこんなところに来たんだ?」
「私達はその、この付近に出るっていう狼の噂を聞いて、この山あたりが目撃情報の出が一番多いらしいんだですけど、何か分かりますか?」
「狼…か?よく分らないし俺は見ていないな……。あ、だから君たちの探索の途中だったのか。しかしすまないがこの山には悍ましい魔物が潜んでいるから十分に気をつけろよ。」
「魔物……ですか?グレイさんがいた世界とは違うのでいるとは思えないのですが……」
「ま、まぁ!肝に銘じておこうよ!そういえば、もう日が暮れてきたし帰ろ!グレイさんも気をつけてくださいね!」
結衣はそう言いながら、私の腕をグイっと引っ張るので慌てながらグレイさんに頭を下げ山を下りた。
「もう、美咲は優しすぎるから男運ないの忘れたの?グレイさんはいい人っぽいけどさ……」
「そんなことないけどさ……でも、あの山に1人でいて大丈夫かな……」
「ほら、そういうところ!何かに巻き込まれても知らないからね?」
そう言いあいながら綺麗な夕暮れの中、帰路についている後ろでナニかがこちらを見ている陰に私たちはまだ気づいていなかった。
「ただいま……お母さん、私先にお風呂に入るからね」
へとへとになった私は汗でぬれた身体を流したくて、すぐさまお風呂に直行した。
「おかえり美咲、今日はどこに行っていたんだい?」
「今日結衣と学校横の山に行ってたんだよ。ばあちゃんは知ってる?最近狼が出るって噂になってたの」
「ばあちゃんもお隣の人から聞いてはいたよ。でも、女の子なんだからあんまり危ないことするんじゃないよ」
「分かってる。ほんと、ばあちゃんは心配しょうだなぁ。危ないと思ったらすぐ切り上げて帰るから」
今日あったことを話し合っていると、お母さんがキッチンから夕食ができたと声を掛けてきた。
「ただいま」
お父さんが帰ってきて家族みんなでご飯を食べていると、
「父さんの職場で最近、ここいらを周辺的にして謎に人が消えている事件が起きているらしい」
お父さんから狼の話以上に怖い話を聞いてしまい、私は少し震えてしまった。
「老若男女関係なく消えているらしいが、美咲の学校では何か変わったことは無いか?」
「うーん……あ、そういえば昨日、クラスの女の子が1人が学校に来てなかったような……」
「狼の噂があるし、女の子1人だけじゃ危険だから明後日からお父さんが学校近くまで送ってあげようか?」
「そうね、お母さんも怖いしそうしてもらおうね。さ、物騒な話はやめてご飯を食べ終えちゃいましょう」
こんな中でもお母さんの持ち前の明るさには救われている私だが、この後あんな事件に巻き込まれるなんて思いもしなかった。




