第12話 フェネリ・モーネの闘い
翌日
夜明け前の優しく日が昇る太陽を背に海岸へ出で立ち、フェネリは敵を待ち構えていた……。
「……やっと来たか……」
まだ日が昇りきっていない空に怪しく翼を羽ばたかせながら、ザードとペントが海岸に降り立った。
「……待たせたのぅ……若き戦士よ……今からわっしらに倒されるというのにな……」
ザードがにやけながら発した言葉に少し苛立ちを覚えたが、直ぐに冷静を取り戻した。
「……勝ってウルヴを叩き起こすんだ……俺の手でな……!」
「その心意気、いつまで持つかのぅ……?」
その時、ペントが右腕を天高く伸ばし……。
「……来い、ウルヴ」
指示を受け森の中から禍々しい姿で飛び出して来たウルヴは、洗脳が進んでいるのか辺りを壊し暴れていた。
グルルルル……
前屈みで腰を低く構えるその姿はまるで獣そのもの……フェネリに対する眼差しは鋭く、今にも獲物を仕留めようとする目であった……。
「……昨日も楽しく調教したからのぅ……いい働きを期待したい……」
「貴様ら……!ウルヴよ待っていろ……!……俺が絶対救ってやるからな……!」
「……そんなことを言ったところで、わっしらの洗脳がそう易々と解けるわけないんだがなぁ……」
「……話が長い……僕は早くしたい……」
双方がお互いを睨み合い、戦闘態勢に入った瞬間……周囲が怖いほどの静寂に包みこまれた……。
どちらが先に仕掛けるのか……緊張感だけが走っていた……。
ウガァアアアア!
先手を打ったのは……ウルヴだった。
対するフェネリは一点を見つめ、静かにかがみ居合の構えでじっ……と反撃のタイミングを待った……。
ウルヴの牙がフェネリの顔へと触れる寸前……
「”居合・瞬風裂空”」
貫くほど素早い突風の如く鋭い斬撃を放ち、一瞬にして抜かれたその刃はウルヴの胴体へと伸びていた。
避けるべく身体を逸らし体勢を崩したウルヴの胸には、十字の傷跡を深く残した……。
「グアァッ……!」
血反吐を吐きその場で体制を崩したウルヴは、もう動くこともできず勝敗がついたように見えた……。
「な、なにぃ……!」
「僕達のおもちゃが……負けるのか……?」
狼狽える敵を横目にし、フェネリはウルヴの前へと立ち察していた。
「……立て、ウルヴ……お前がこんなのでやられるわけがない……!」
グゥオオオオオオ!!
咆哮を上げ、立ち上がったウルヴは以前のような苦しみの入り混じったものじゃない……明らかに敵意そのものの声で吠えていた。
ウルヴが弓を力任せに構え、気分が悪くなる程の魔力が込められていく……。
「……なんだ……その禍々しい魔力は……!」
限界まで引かれた弓の前に3重のリングが広がっていた……。
「……そんな技までも出せるとは……何とも扱いやすい奴よのぅ……!」
赤黒く禍々しい魔力にフェネリは身に迫る危険を感知し、咄嗟に防御の構えを取る……だが、一歩出遅れた。
「”三環裂爆”」
放たれた矢はリングを潜る毎に増殖し……3つ目のリングを潜る頃には矢が500本を超えていた……。
「”八重爪撃”」
自分の目の前に8つの斬撃を盾のように展開し、増殖していく矢を全て斬る勢いで攻撃を防ごうとした……。
だが、一瞬の隙を数本の矢がフェネリの身体をズタズタに貫いて行った……。
「ぐっ……うぅ……」
「……これで我が国にいい報告ができる……!」
薄れていく意識の中、フェネリが見たのは操られているはずなのに寂しそうなウルヴの顔であった……。
同時刻、茂みの中で戦いを見守る者が2人がいた……。
「団長代理……フェネリ様は大丈夫でしょうか……」
「……彼は大丈夫と信じましょう……それより、バレたら面倒なことになるから、私達は周辺の警戒をしときましょう……」
「……本当に敵が襲ってきますかねぇ……」
周囲を見渡す後ろで部下が欠伸をしながら答えているのを、私は呆れから溜息を吐いた。
「……あの国が一騎打ちをまともに受けるとは想像ができない……きっとどこかに伏兵が要る筈……」
「念のため……という事ですね……?」
疑問を抱く部下のフェンガリが私の後ろに向かい人差し指を伸ばしていた……。
「団長代理、もしかして……あれのことですか……?」
直ぐに顔を向けると、遠くの茂みの中に蠢く謎の影が1つ……。
「もしかしたら……ナイスよフェンガリ……!」
「どうします……?捕まえますか……?」
直ぐに追いかけようとするフェンガリを片腕で抑え、私は木陰に身を潜めた。
「……いえ、どれだけいるか分からないからアイツの後ろからついて行きましょう……」
「……でも、捕まえた方が敵への規制になっていいのでは……?」
「私たち2人では対処仕切れなかったらそれこそ嫌です……もう仲間を失いたない……」
私が静かに拳を握るのをフェンガリは息を飲むように見ていた。
「……分かりました、でも気をつけましょう……お互いに……」
「……ありがとう……フェンガリ……」
一瞬気を失い、膝をついたフェネリだった……が、このままやられてたまるかと自分を奮起させ立ち上がった……。
「まだ……まだ、終わらせない……!」
(奴らは真面目に一騎打ちなんてやるつもりは毛頭無いだろう……1つ仕掛けてみるか……!)
フェネリは地面を力いっぱいに踏みしめて、一蹴りで地面を割る勢いで駆け出した。
「”韋駄天躯”!」
高速移動の技を使ったフェネリに、一気に距離を詰められたウルヴは体制を崩した。
(……ここだ!)
間合いに入りウルヴに隙が出来た瞬間……そこがフェネリにとってありったけの魔力を剣に込め暴風を纏わせられる最高の時だった……。
「”奥義・旋風r」
渾身の一撃を放ち一息つこうとした直後……横から一本の矢がフェネリの脇腹へと突き刺さった……。
「う……うぐぅ……!」
そこまで優勢だったフェネリは、今までの余裕な顔を崩しその場へと倒れたのであった……。
(何故矢が!?ウルヴは弓を構えていないのに……)
残り少ない体力を振り絞り矢が飛んできた方に目を向ける……。
そこには、モンストル魔王軍の兵が茂みから弓を構えていた……。
(まさかとは思っていたが……伏兵が居たのか……とことん卑怯な真似を……!)
矢に仕込まれているであろう毒の影響により、息も絶え絶えになっていった……。
「まんまと騙されて面白い奴よのう……!」
喜びの感情を高らかに上げるザードの声は煩わしく、フェネリは悔しさから唇を嚙み締めた。
「しかし、威勢だけは良かったぞ……のぅ?若い戦士よ……」
目の前まで来たザードはフェネリの頭を雑に掴み乱暴に叩きつけた。
「アイツ……直ぐに死ぬ……」
「……その首を持っていけばわっしらはもっと上へと行けるのよぅ……!」
「見たかのぅ……これがわっしらのやり方ってやつよぅ……!」
「……僕達モンストル魔王軍はどんな手でも使う……」
「……汚い奴らめ……!クッソ……」
「このまま見殺しにして苦しむのも楽しみたいがのぅ……」
「面倒くさい……ここで殺そう……」
ザードが顎に手を当て不敵な笑みを浮かべている所にペントがぴしゃりと呈した。
「それもそうよのう……」
「……俺も、ここまでか……」
「やれ……ウルヴ」
ペントが袖を振り、ウルヴがトドメを刺そうとフェネリへ短剣を突き立てた……その瞬間……。
ザードが見下ろしていたはずのフェネリが風と共に忽然と姿を消した……。
「消え……た……?」
「何ぃっ!?どういう事だ……!」
憤慨するザードと、驚きのあまり開いた口が閉じないペント……。
目の前に居たはずの獲物が消えたことにより、近くで待機していたモンストル軍の兵士達も戸惑いが隠せなかった……。
「あの若造……一体どこに……!」
「……ここだよおっさん……」
後ろから聞こえる声にザードが振り向く前にフェネリの斬撃がザードの背中に深く入った……。
「このぉ……!わっしの背後へ回るとは……!」
ペントは直ぐにウルヴを自分の傍へと寄せ、防御に回った……だが……。
「遅いんだよね……俺に速さで勝てると思わないでね……!」
ウルヴの死角を逃れ、フェネリはペントの懐へと入りまた斬撃を放った……。
「な、なんで……!お前はさっきまで……!毒の矢で苦しんでた……はず……!」
「お前らの方が、まんまと騙されたって訳……」
「わっしらが……騙された……だと……!」
「あぁ、お前らが今戦っていたのは俺の分身って訳……まぁ分身と言っても触れるし痛みも感じる……がな」
「分身……じゃと?そんな高度な技を……」
「そう、この魔剣の力の1つ”風之化身”これを使えば自分の分身を作り出すことができる」
フェネリは仮を返すようにザードの前へと進み、顔を覗き込んだ……。
「俺達の仲間を洗脳している時点で、まともに戦ってくれるとはハナから思っていなかったんだ……だから一芝居打たせてもらったのさ……」
「そしたら大正解ってね!伏兵が結構いるときたもんだ……ま、そいつも今頃、仲間が抑えていると思うぜ?」
その時遠くでは、シュベリア団長代理が敵を制圧したと旗が上がっているのをフェネリは確認してホッとした。
「まさか……全て見抜かれていたとは……」
「行け……!ウルヴ……!」
フェネリは立ち上がり、ウルヴが自身へ向かってくる方へと目を向けた……。
「さぁ……可愛い後輩を洗脳から解放してやりますか……」
「”風之化身”!」
「……ッ!」
フェネリは10体の分身を生み出し、駆けてくるウルヴを囲うよに立ちはだかった……。
「”韋駄天躯”!!!」
フェネリは生み出した分身と共に、ウルヴの周囲を円状に駆け抜けていく……。
その凄まじい速さに、土煙が舞い巨大な竜巻を発生させた……。
「ウガァッ……!」
ウルヴは巨大竜巻に巻き込まれ、上空へと吹き飛ばされてしまう……。
魔剣ソニックに魔力の全てを込め、ウルヴ目掛けて一斉に飛び上がった……。
「”奥義・旋風狼牙”!!!」
グアァアアァアア……!
拡張された奥義を受けたウルヴは苦しみの声を上げ、真下へと落ちて行った……。
その体には無数の傷を負い、もう戦える力もない……。
「……クソぅ……!急ぐんじゃペント!ここは撤退じゃ!」
「ザード……分かった……次は確実に倒す!」
傷だらけになったウルヴを置いて逃げる2人の背中は何とも言えない滑稽なものだった。
「畜生な奴らだな……それよりもウルヴの手当だ……」
ウルヴへと向き直ろうとすると、シュヴェリア団長代理と部下フェンガリが茂みの奥から出てきた。
傷だらけで倒れるウルヴを見て、少し苦笑いし溜息を吐いた。
「何もここまでしなくても……でも、流石はフェネリってところね……」
「これでも少し肝を冷やしましたよ……それより、早くウルヴを治療をしなきゃ……!」
「ウルヴさん……大丈夫ですよね……?」
「えぇ、何とか治して見せるわ……」
シュヴェリアはポーチから手の平サイズの緑色の丸い魔石を取り出した。
自身の魔力を込めると、淡い新緑の光を魔石は放った……。
「”超速再生”」
ウルヴの身体が緑色の光に包まれると、怪我をしているところを隅々まで治って行った……。
……しかし、ダメージが全回復したのにウルヴの意識が回復しないことに気づいた……。
「どうして……何で、意識がもどってこないの……?」
「呼吸は問題ないです……体の傷も治っている……」
「は……?おい……嘘だろ……!」
洗脳された影響がまだ完全に解けていないせいなのか……昏睡状態から解けないウルヴ……。
「一先ず、フェネリは落ち着きましょう……城まで連れて帰って原因を探るのよ……」
「そうだな……絶対助け出してやるからな……!」




